小さな進展
カノンとスピカが話しているテラス席に平然とした表情で同席してくる者がいた。用意の良いことにお茶も注文して持ってきている。
「何の話?」
同席したのは、二人もよく知る人物ナタリアだった。
「ナタリア。どうしてここに?」
カノンが訊くと、ナタリアは笑顔で答える。
「偶々二人を見掛けただけ。まぁ、そこまで急ぎの仕事もないから」
「へぇ~、次代の賢者様なのにね」
「そんな事言ったら、そっちだって次代の聖女でしょ」
ナタリアとスピカは三秒程睨み合うと、どちらからともなく笑い出す。その後、ナタリアはカノンを見る。
「カノンも大変だったんでしょ。お悔やみ申し上げます」
「痛み入ります。色々とあるけど、現状何も出来ないから」
「何か出来るとしたら?」
ナタリアは含みの籠もった笑みで訊く。それを見て、ナタリアが今回の事件に関して、何かしらの情報を持っている事を察する。
「出来るの?」
「まぁ、何とか出来ると言うよりは、何かを探すっていうのが近いかな。私も今回の事件の調査に関わっているのだけど、そこで襲撃者の組織がダンジョンに棲み着いているという情報が得られたのよ。ついさっきね」
それを聞いたカノンは、目を大きく開く。黒幕ではないが、自分達を襲撃した組織の居場所が分かったのだから当たり前だ。後は、そこから黒幕に繋げられれば良い。
「まぁ、場所がダンジョンって事もあって、念入りに準備をしてから行く事になってね。私も行く事になったんだけど、パーティーをこっちで編成して良いって言われてさ。ベネット、スピカ、カノンの名前を出しておいた。そのうちカノンにも話が行くと思う」
「私を?」
ベネットとスピカに関しては、良き前衛と回復役として選ばれる理由は分かる。だが、カノン自身に関しては、他の人でも代用が利くのではないかとカノンは思っていた。なので、ナタリアが自分を選んだ理由が分からなかった。
「そう。今回の事件で復讐したいだろうなぁっていうのもあるけど、私達三人に足りていない索敵能力を補えるのが、カノンかなってね。ダンジョンになれば、魔力の無駄遣いはあまり得策じゃないから。勿論、断ってくれても良い。さすがに無理強いは出来ないから。カノンには、専属メイドとしての仕事もあるわけだしね」
「えっ? 私は?」
「スピカは強制。そもそもどうにかして無理矢理連れて行こうと思っていたし」
「うわぁ……酷っ」
カノンとの違いにスピカは拗ねる。だが、ナタリアがそうしようとしている理由は、何となく予想が付くため、本気で言っているわけではない。
「それで、どうする? お嬢様と相談してからにする?」
「ううん。参加させて貰う。敵を知りたいから」
「オッケー。そう返事をしておく。詳細は、後で送るから」
「ありがとう」
「良いの良いの。お礼は唇で良いよ♪」
「ああ、うん。何かしらの物をあげるね」
いつもやり取りなので、カノンも素っ気なく返していた。そんな中で、スピカと眼が合いスピカが微笑むと、カノンは少しだけ気まずそうに笑みで返す。
そんな二人を見て、ナタリアは不審に思う。
「そういえば、私が来る前に何を話していたの?」
「「何も」
カノンとスピカは、二人同時に答えて、それが全く同じ言葉だった事で笑い合う。
「気になるんですけどぉ!!」
ナタリアは吠えるが、カノンとスピカは答えなかった。ナタリアとしては不満だが、それでも全員で笑い合えていたので、特に追及していく事はなかった。
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スピカとナタリアとのお茶会を終えてカノンが帰ってくるのとテレサが帰ってくるのは、同時だった。
「カノン」
「テレサ様。調査お疲れ様です」
「ええ。お父様に話をしてくるわ。調査の結果は、お父様のものと合わせて送られると思う」
「はい。分かりました」
テレサは、そこでカノンと別れて本邸の方に向かった。カノンは、そのまま別邸の中に入っていく。
「カノン!」
カノンが帰ってくると、セレーネが飛びつく。軽々と受け止めたカノンは、セレーネの頭を撫でる。
「何かありましたか?」
「ううん。カノンが帰ってきたから」
「お出迎え頂きありがとうございます」
「カノンさん、本邸の方から手紙が届いているわ」
「ありがとうございます。フェリシア様」
フェリシアから手紙を受け取ったカノンは、それがナタリアの言っていたものである事を確認した。
「何だった?」
「しばらく家を離れる事になります」
「何で?」
「今度の調査に参加する事になったのです。詳しくは部屋に戻ってからにしましょう」
「分かった」
カノンと手を繋いだセレーネは、皆を連れて部屋へと戻っていった。そして、カノンからナタリアから聞いた事に関する話を聞いていく。
「私は?」
「駄目です。普通のダンジョンでも危険なのに、襲撃犯の組織がいる可能性が高いとなれば、もっと危険になります。そんな状態のダンジョンに連れて行く事は出来ません」
「むぅ……」
「仕方ないわよ。ここはカノンさん達に任せましょ」
不満げなセレーネの背中をフェリシアが撫でると、セレーネはフェリシアの太腿に頭を乗せてベッドに寝転がった。
「ですので、しばらくの間、お嬢様の傍を離れてしまいます」
「むぅ……分かった」
「ありがとうございます」
むくれるセレーネをカノンが撫でると、少しだけ機嫌が良くなった。それを見て微笑んだカノンは、マリアの方を見る
「お嬢様をお願いします」
「任せてください。フェリシア様を傍に置けば、セレーネは大人しいものです!」
「適度な運動はさせてくださいね」
「そこはクロがいるので」
「にゃ~」
名前を呼ばれた事で、丸くなっていたクロが起きて、カノンに顔を擦りつける。
(確かに、フェリシア様とクロがいれば、ある程度は大丈夫ですね。後はマリアさんが部屋の掃除をするくらいですから。
マリアの人任せも的確な人選なので、カノンも文句は出なかった。そんなカノンは、クロを撫でながら、フェリシアの膝の上でゴロゴロとしているセレーネを見る。
「あまり迷惑を掛けてはいけませんよ?」
「は~い。カノンも無理しないでね」
「はい。ありがとうございます」
この日からダンジョン出立の日まで、カノンは戦闘の勘を取り戻すために、騎士団の仕事を手伝いながら、ベネットとの模擬戦をしていった。更に、ナタリア、スピカも交えての連携を確かめたりと、短い時間で最大限の成果をだせるように動いていた。
この調査にはテレサも参加しようとしていたが、ラングリドの許可が下りず、アカデミーの卒業論文に集中するように言われてしまう。こっそりと付いていくのも有りだと考えていたテレサだが、それをセレーネが真似したらどうなるかと言われて、大人しく従うしかなくなった。




