空へ送る
フェリシアがセレーネの屋敷に住み、家具などが充実した頃。同時にシフォンとジーニーの葬儀の日がやってきた。参列するために、セレーネ、フェリシア、カノン、マリアは、喪服に着替えて、葬儀の場へと赴く。
本来であれば、テレサも参列するところだが、まだ王都に帰ってきておらず、王都に向かっている気配もない。未だ事件現場周辺での調査が続いているという事がセレーネでも分かった。これは必要な事なので、テレサを無理強いする事は出来ない。寧ろ、二人の仇を見つけるためにもテレサには頑張って貰いたいというのが、セレーネの考えだ。
葬儀場に来たセレーネ達は、そのまま中に入っていく。そもそもシフォンに身よりはなく、ウルトラマリン家が代理となる。フェリシアは、一応セレーネと共に来るという事になっているので、参列側になっていた。
葬儀の場に参列するのは、学園で会話をするようになった友人達、ミルズ、レイアー程度だ。ジーニーに関しても、既に家族はなく参列者はウルトラマリン家で働いていたメイド達くらいだ。
なので、葬儀自体は小さなものとなる。二人の遺体は、葬儀場の奥に斜めに安置されている棺に入っている。身体は修復と防腐処理がされているため綺麗なものだった。それを見たセレーネ達は、一気に悲しみが込み上げてくるのを感じる。だが、二人の前でもう涙は見せないと決めているので、その悲しみが目から溢れないようにしていた。
用意されている席に座るために、カノンが先導していると、そんなカノンに駆け寄ってくる女性がいた。白いローブを羽織っている女性は、青竹色の長い髪と碧眼が特徴的な美人だった。
「カノン」
「スピカ……あなたが葬送を?」
「うん。ちょうど担当月だったから。この度はお悔やみ申し上げます」
カノンの学生時代の友人スピカ・マラカイトは、カノンだけでなく、後ろにいたセレーネ達に対して弔いの言葉を掛ける。
「痛み入ります」
代表してフェリシアが返事をした。フェリシアの髪色から主催者であるゲラルドの親類と考えたスピカは、もう一度頭を下げる。
「本日葬送を担当します。神官見習いのスピカ・マラカイトです」
「セレーネ・クリムソンです」
「フェリシア・ウルトラマリンです」
「マリア・バーミリオンです」
スピカの自己紹介に、セレーネ達も返していく。
「スピカは、カノンの友達なの?」
疑問に思ったセレーネが訊く。スピカは、それに対して頷いてから答えた。
「はい。学生時代に友人となりました。回復魔術と神聖魔術を得意としています。神官見習いという事で、あまり関わる事はないかもしれませんがよろしくお願いします」
神官が出て来るという事は、今日みたいな葬儀や災害などによって重傷者が大量に出たなど不幸な出来事があった時が基本だ。なので、関わりたくないという訳では無く、本来であれば仕事として関わらないでいる事が一番という事だ。
「うん。よろしく」
そう返事をするセレーネにスピカは優しく微笑むと、全員に頭を下げてから離れていった。
「カノン、良いの? 久しぶりに会う友達でしょ?」
カノンは基本的にセレーネの傍にいる事が多く、買い物に行っても、どこかに寄り道する事もないので、友人に会う事自体が久しぶりという事になる。積もる話があるのではとセレーネは考えていた。
「はい。ですが、今は仕事中ですので」
「ああ、そっか」
葬送を担当する神官見習いとして、スピカは席に座り目を閉じていた。自分のやるべき事に備えて集中しているのだ。
「機会があれば、また話せますから。私達も座りましょう。もうじき葬儀が始まります」
「うん」
セレーネ達が席に座ると、続々参列者が集まってくる。そして、葬儀が始まる。葬儀は、司会進行などがいる訳では無く、すぐに葬送が行われる。二人の遺体の前に骨壺が置かれる。
二人の遺体の前にスピカが移動して、列席者、参列者に一礼する。そして、遺体に向かって正座をし、両手を組んだ。
すると、二人の遺体に虹色の光が集まっていき、その身体を光へと変えていく。身体が次々に光へと変換され、空に向かって消えていく。これが葬送。魂が現世で迷わぬように、肉体を空へと送り、魂の道標としていく。これが、遺体に対して行われる神聖魔術【葬送】だ。
良い神官が葬送すれば、その肉体は全て空へと送り届けられる。骨壺は、上手く出来なかった場合、その骨を墓に埋めるためのものだ。
スピカの葬送は二人の遺体を綺麗に空へと送り届けた。
二人の遺体がなくなった事で、改めて二人の死を実感する。カノン以外の三人は、堪えていた涙が堪えきれなくなり、静かに流し続けていた。その間にカノンがゲラルドと会話して、この後の予定を確認してから戻ってくる。
「葬儀は終了です。お二人のお墓が既に用意されているようです。行かれますか?」
「うん……」
三人とも頷いたので、カノンはゲラルドから聞いた墓の場所に向かう。二人の墓は、隣同士に建てられていた。シフォンのもう片方の隣にはシフォンの家族が埋葬されている。四人は、お墓の前でシフォン達に祈りを捧げていた。それが終わると、セレーネはカノンを見上げる。
「シフォン達は空に行っちゃったけど、このお墓には何が埋まってるの?」
「基本的には、故人の頭髪の一部です。よく乾燥させて入れ物に封入したものを安置しています。シフォンさん達も同じですね」
「そっか。こっちにもシフォン達の一部は残るんだね」
「そうですね。これは、私達残された者達の我が儘のようなものでもあります。魂は空へと行って幸せになって欲しいですが、それでも時々こちらに降りてきて欲しい。会わせて欲しい。そういう願いが込められたものになります」
骨が残れば、魂の一部が残る。だが、完璧な【葬送】をした場合、骨すらも残らず空へと消えていく。なので、基本的には事前に髪などの一部を回収しておくのだ。頭髪がない者からは爪や髭を頂く事になっている。
ただ、これらは故人に許可を取ってやっている事では無い。残された側の遺族達が、もう会えないとしても、せめてこの場でだけは会わせて欲しいと願い始められた事だった。実際に魂に会える訳では無いが、そこにいる。話を聞いてくれていると感じるだけでも、遺族からすれば気が楽になる。
「我が儘か……私も二人が降りてきてくれると嬉しいな」
「そうね。私もそう思うわ」
セレーネとフェリシアは、どちらからともなく手を繋ぐ。その姿をシフォンとジーニーに見せるために。二人が守ってくれた命で、これから幸せになるという事を知らせるために。
その時、その場に強い風が吹いた。その風は、二人の背中に吹き付ける。それと同時に何かが背中を押すような感覚を覚える。普通に考えれば、ただの風なのだが、セレーネとフェリシアは、シフォンとジーニーが背中を押してくれたように感じた。二人の幸せを後押しするように。




