カノンの推測
フェリシアの案内で、セレーネはフェリシアの部屋に来ていた。カノンは、二人きりにするために部屋の外で待機している。何かあれば、カノンが聞き取って駆けつけられるようにはしていた。
セレーネとフェリシアはベッドに腰を掛けて並んで座っている。
「私、セレーネの眷属になったのよね?」
「うん……あの時はそれしか助ける方法がなかったの。ごめんね」
「謝る必要はないわよ。私だって、そのくらいは理解しているわ。それに、元々なりたかったものあるわね」
「そっか」
セレーネは、少し安心したようにフェリシアに寄り掛かる。対して、フェリシアは、セレーネの腰に手を回して自分に引き寄せた。それによって、セレーネとフェリシアは、より密着する事になる。
「シフォンやジーニーは……何か言ってた?」
「……シフォンは、フェリシアの身体を結界で守ってたの。だから、自分が死ぬ前にフェリシアを頼むって。後は、守れて良かったって。ジーニーは、私が最期を見ていたわけじゃないけど、カノンにフェリシアの事を頼むって言ってたみたい。絶対に助かるカノンの再生を血と魔術で早めて、私達を護りに行けるようにしたみたい」
「…………そう」
セレーネからの説明だけで、フェリシアは二人から注がれた愛情を理解した。これまで屋敷で一緒に暮らしてきた二人なので、それだけでも色々と感じる事が出来たのだ。
フェリシアの目から涙が零れる。フェリシアは、セレーネの身体を抱きしめながら静かに泣き続ける。セレーネは、そんなフェリシアの事を抱きしめ返しながら、同じように涙を流した。
二人はただただ涙を流し続ける。枯れる事のない悲しみの涙を。
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それから十分程すると、カノンの耳に二人の寝息が聞こえてくる。ただただ泣き続けて泣き疲れた二人は、そのままベッドに横になって眠ってしまったのだ。カノンは二人を起こさないように中に入ると、それぞれを抱えて、ベッドにしっかりと寝かせる。
(お嬢様とフェリシア様の婚姻か……他家への牽制とクリムソン家、ウルトラマリン家の結束を強めるのが目的か。お二人の優秀さは、既に他の貴族達にも伝わっている。両家に近づくために、お二人と婚約するという選択を取ろうとしてくる家は少なくないはず。これ以上ない選択ではある。それに他にも問題はある)
カノンは、二人を見守れる位置に椅子を置いて座りながら考える。
(あの時、奴等は銀の杭を用意していた。つまり、お嬢様が真祖であると知っている事になる。どこから漏れた……いや、王都に来てから漏れる箇所は多い。情報を探られたら、どこかしらでバレる可能性は普通にある。それこそ、お嬢様を貰うつもりで色々と調べたという家はあると思う。でも、それで殺すまでいく? 銀の杭を用意している時点で、お嬢様が標的の一人になっている事は間違いない。恐らくフェリシア様も標的の一人だ。そうじゃないと、無駄にウルトラマリン家の恨みも買うだけだ。それほどまでにお嬢様を殺したいというのなら別だけど……二人に恨みを持つ人……シフォンさんを狙った貴族の家族か……確か、爵位を剥奪されて、王都から出ていったんだっけ。恨みを抱き復讐するには、十分な理由……いや、自業自得だけど、大抵復讐しようと思う奴は身勝手なのが多いし、十分あり得る)
カノンの考えは、黒幕は中等部時代シフォンに暴行を加えた貴族達。襲撃犯は、その誰かが用意した刺客だろうという事だった。金はほとんど失っているはずだが、それでも借金でもなんでもして刺客を用意したというのは、すぐに想像出来た。
(寧ろ三年間音沙汰がなかったのは、刺客を用意するためのお金を稼いでいたとも考えられる。仮にそうだとしたら……根絶やしにするべきだった。旦那様の考えは立派だけれど、こうした被害を生む原因にもなり得る。だけど、復讐の芽を全て摘むのは厳しい。新しい復讐を生むだけになるかもしれないし……まぁ、だからと言って、お嬢様にシフォンさんのような子を助けるなとは、口が裂けても言えないし、言いたくもないけど)
復讐を生むような行為。だからと言って、危ない目に遭っている友人を助けるななどという事は、カノンから言う事は出来ない。カノン自身も助ける側の人間だからだ。
(現在旦那様とテレサ様が、事件の詳細を調べてくださっている。もしこの襲撃犯の黒幕が生きているのなら……)
カノンは歯を食いしばりながら両拳を握る。カノンの中に渦巻く怒り。三年という年月を過ごした友人を殺した者達への復讐心。復讐は新たな復讐を生む。それを止めるには、先程カノンが考えた通り復讐の芽を全て摘まなければならない。自分で考えていたため、その事が頭に引っ掛かり、カノンの復讐心を抑え込む。
心を落ち着けるため、カノンはセレーネ達が起きるまで、静かに深呼吸を続けていった。
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セレーネ達が起きてしばらくすると、ゲラルドがフェリシアの部屋に来た。
「クリムソン家からも了承の返事を貰えた。早速で悪いのですが、セレーネ嬢の屋敷において貰いたい」
「その方が守りやすいからですか?」
「おっしゃる通りです。現状、裏にいる人物の特定までは出来ておりません。なので、屋敷にて待機して頂き、警備、護衛の数を増やします」
「分かりました」
「フェリシアの私物は、後程送る。二、三日分の衣類だけ持っていけ」
「はい」
「馬車はこちらで用意した。支度ができ次第行くと良い。事が落ち着いたら、また顔を見せに来てくれ」
「はい。お父様」
ゲラルドは必要な事を伝え終えると、そのまま部屋を出て行った。これで今生の別れという事では無い。セレーネとの婚約に加えて、事件が解決していない今、セレーネとフェリシアが同じ場所にいる方が守りやすい。これ以上に良い機会はないという判断だった。
カノンも手伝いながら、フェリシアの支度を調えていく。そして、馬車に乗り込みクリムソン家別邸へと向かった。別邸に着いたところで、馬車は帰っていった。
「ひとまず部屋の用意が出来るまで、フェリシア様にはお嬢様と同室で暮らして頂きたいのですがよろしいですか?」
フェリシアの荷物を持ったカノンが確認する。
「セレーネと同じ部屋のままで良いわ。セレーネが構わないなら」
「うん。私は同じ部屋のままで良いよ」
「かしこまりました」
二人が同室で良いと言うので、フェリシアの部屋を用意する必要はなくなった。この方が守りやすいという考えもあったので、カノンも受け入れる。
(念のため、客間の一室を荷物置きにしておくかな)
荷物が増えていけば、セレーネの部屋だけでは収まらない可能性もあるので、カノンは自分のやることリストに入れておく。
こうしてセレーネとフェリシアの同棲が始まる事になった。




