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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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新たな繋がり

 セレーネがカノンの血を飲みながら再生している間に、再生を終えたマリアがフラフラとしながらシフォンの遺体を集めて一ヶ所に安置する。その頬には滝のように涙が流れており、深い悲しみを感じている事が分かる。そのまま遺体の修復をしておきたいところだったが、再生したばかりという事もあり、魔力などが少ない。

 そんなマリアの傍にクロがやって来て、背もたれとなった。マリアはクロに寄り掛かりながら、涙を流し続けていた。

 完全に足も身体も再生したセレーネは、フェリシアに回復魔術を使いつつ、自分の血を口に流し込む。そうして、フェリシアの再生を促すのだ。その間に、カノンはジーニーの遺体を連れてきて、シフォンの傍に寝かせて、二人の遺体を修復していく。

 すると、三人が同時に同じ方向を向いた。


「お姉様……」


 列車の最後尾の方からテレサの気配が近づいているのを感じたのだ。同時に同じ方向から戦闘音が聞こえてくる。テレサが誰かと戦闘している事が容易に窺えた。

 テレサがセレーネ達の元に来るまでに、全員の再生と修復が終わり、セレーネがマリアとカノンに血を与えて補給等も終える事が出来た。

 剣を片手に返り血を浴びながら来たテレサは、セレーネ達を見て状況を察した。誰かが眷属になった事は感覚的に分かっていたが、まさかシフォンとジーニーが亡くなったとは思いもしていなかった。

 テレサは、セレーネに声を掛けようとして、口を開き、そのまま閉じた。今自分からセレーネに掛けられる言葉はない。優しい言葉を掛ければ良い。そう思いもしたが、その言葉がセレーネにとっての救いになるとは思えないのだ。友を亡くし、最愛の人を勝手に眷属にした。それを踏まえて、セレーネに対して無事で良かったとは口が裂けても言えなかった。

 吸血鬼族の再生では、身体の傷は治せても、心の傷は治せない。ここで下手な慰めをすれば、セレーネの傷口を不用意に触る事になると考えていた。

 そのため、返り血で汚れに汚れた上着を脱いで、セレーネを汚さないようにしてから抱きしめて頭を撫でる。自分に出来る事はこれくらいしかないと思ったから。


「お姉様……あぁ……ああああああ!!」


 セレーネは、テレサに縋り付きながら泣き叫ぶ。テレサは、セレーネの悲しみを正面から受け止める。三分程泣き叫んでいたセレーネは、段々と声が小さくなっていき、小さな寝息が聞こえてきた。度重なる消耗と感情の発露により限界を迎えたのだ。

 そんなセレーネをテレサは、フェリシアの傍に寝かせてから、軽く頬を撫でる。


「今はゆっくり休みなさい」


 テレサは、カノンの元に移動する。


「襲われた原因は?」

「分かりません。情報を得るよりも安全を優先しました。申し訳ございません」

「それで良いわ。この状況で、命よりも情報を優先しろとは言えないもの。こっちで何人か捕縛はしておいたから、そこから何か繋げられるかもしれないわ。私の方こそ、駆けつけるのが遅くなってごめんなさい」

「いえ、駆けつけてくださっただけでも有り難いです。私は事態の収拾を車掌と話し合って来ます。テレサ様は、この場をお願いします」

「それはこちらの台詞よ。カノンとマリアは、この場でセレーネとフェリシアを護りなさい」

「承りました」


 ここはカノンの方が退く。メイドであるカノンよりも侯爵令嬢であるテレサの方が、この場を納めるのにちょうど良い。

 カノンは、セレーネ達の傍で座り、周辺の警戒をする。

 テレサは、マリアの傍に行き、優しく抱きしめた。


「あなたもよく頑張ったわ」

「ありがとうございます……」


 この一言で、マリアも心に深い傷を負ったのだとテレサは気付いた。最後に一度だけ力強く抱きしめてから、自体の収集のために先頭車両へと向かう。

 この列車襲撃で出た被害は、死者九名。重軽傷者三十四名。襲撃者五十二名の内、四十五名死亡。七名捕縛。王都移送の後、尋問となった。セレーネ達は、テレサが駆けつける前に要請しておいた馬車にて王都に帰還。カノンは、シフォン、ジーニーの訃報と共にフェリシアをウルトラマリン家に届け、事態の報告をした。

 セレーネはマリアによってクリムソン家別邸の自室に運ばれ寝かされた。セレーネ、フェリシア共に、その日のうちに起きる事はなかった。


────────────────────


 セレーネが起きた時、傍にはカノンがおり、ベッドに突っ伏して寝ていた。だが、セレーネが起きた直後に耳が動きカノンも起きる。カノンは、セレーネが起きているのを見て、小さく笑う。


「お嬢様。おはようございます」

「おはよう……フェリシアは……?」

「ご自宅にいらっしゃいます。お嬢様の眷属になられた事も既に知らせております。後日、シフォンさんとジーニーさんの葬儀を行うことになりました。お嬢様にも参列して欲しいとの事です。それとフェリシア様の事に関して、お嬢様と直接話したいと伯爵がおっしゃっておりました」

「じゃあ、準備して行こう。マリアは?」


 セレーネの問いにカノンは、目を伏せながら首を横に振る。


「昨日の事で、かなり消耗しているようです。シフォンさんとは仲が良かったですから……」

「そっか……」


 マリアの負った傷は、かなり深い。セレーネも同様に深い傷を負っているが、その傷を押してでもセレーネにはやらないといけない事がある。顔を洗い、カノンに軽く化粧をして貰ってから、令嬢らしい服装になる。普段は着ない服だが、伯爵に会う事になるので、ちゃんとした格好でいなければならない。


「にゃ~」


 準備を整えたセレーネの元にクロがやってくる。


「ちょっと行ってくるね。マリアをお願い」

「にゃ~」


 クロを撫でながらマリアの事を任せて、セレーネとカノンはウルトラマリン伯爵邸へと向かう。門番はカノンの事を覚えていたらしく、すんなりと通された。そのまま案内されて、応接室に通される。セレーネはソファに座り、カノンは後ろに控える。

 そして、一分もしない内にウルトラマリン家当主ゲラルド・ウルトラマリンが入ってきた。フェリシアと同じ紫みを帯びた深い青色の髪と青い瞳をしている。皺が刻まれており威厳のある顔付きだった。

 ゲラルドが入室したのと同時に、セレーネは立ち上がり、カノンと同時にお辞儀した。


「顔をお上げください。態々ご足労願い申し訳ない」

「いえ、こちらとしても直接お話ししなければならない事をしましたので」

「では、早速本題に入りましょう。フェリシアに関してですが、眷属となった以上、セレーネ嬢の傍に居る方が良いでしょう。なので、セレーネ嬢に貰って頂きたい。セレーネ嬢さえ良ければ、婚姻という形で」


 ゲラルドの提案にセレーネは目を丸くしてしまう。まさか、ゲラルドの方からそんな提案が来るとは思わなかったからだ。


「ジーニーから話は聞いておりました。ですので、フェリシアの婚約者との縁談は破棄する事としたのです。元々素行の悪さなどがあり、破棄したいものでしたので、丁度良かったのです」

「それは、家同士の問題が生じるのでは?」

「元々仮で結んでいたものです。裏で素行の悪さなどを調べ上げ、この機会に全て叩き付けたところ、向こうも慌てたように頷きました。これで、フェリシアは自由の身となりましたので、セレーネ嬢がご心配なされる必要はありません」


 セレーネが思っていたよりもしっかりと婚約解消をしていた。なので、フェリシアとセレーネが結婚しても、婚約関係の問題はないという事になる。


「そもそも結婚出来るのですか?」

「法が禁じているのは、近親との結婚です。同性同士の結婚を禁ずる法はありません。やろうと思えば、結婚は出来るのです」


 セレーネは、後ろのカノンを見て確認する。カノンは、首を横に振る。ゲラルドの言っている事が間違いという意味では無く、カノンは知らないという意味だ。


「かなり微妙な抜け道ですから、知っているものは少ないでしょう」

「なるほど……分かりました。ですが、これに関しては、フェリシアと話してから決めるという形でお願いします。私は、まだフェリシアに眷属にしてしまった事を直接謝ってもいないので……」

「了承するわ」


 セレーネがそう言った直後、応接室の部屋が開き、フェリシアが入って来てそう言った。


「フェリシア……」


 驚くセレーネに対して、フェリシアは優しく微笑む。そして、セレーネの隣に座り、ゲラルドと向き合った。


「お父様。この度のご配慮ありがとうございます。私は、セレーネと共に生きる事にしました。きっと、それをジーニーとシフォンも望んでいるでしょうから」


 その言葉で、セレーネは、フェリシアが今回の事件の全てを知っているという事に気付いた。顔を伏せるセレーネに対して、フェリシアはその手を握る。


「分かった。二人の年齢とクリムソン家への挨拶もある。今は婚約という状態にさせてもらう。二人が十八になった時、改めて婚姻の儀を執り行うとしよう」

「はい」

「あ、は、はい」


 フェリシアは毅然と返し、セレーネは少し慌てたように返した。


「ジーニーとシフォンの葬儀は、三日後に執り行います。セレーネ嬢も参列して頂きたい」

「はい。こちらの法からお願いします」

「では、フェリシア、セレーネ嬢と少し話すと良い。私は失礼させて頂きます。クリムソン家との話し合いもございますので」

「はい。ご苦労お掛けします」

「いえ。では」


 そう言ってゲラルドは部屋を出て行った。二人が望んだ関係。それは、最悪の過程を経て実現する事になった。それを亡き友人と恩人が望んでいるから。

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