列車に乗って海へ……
車両に乗ったセレーネは、フェリシアの隣に座ってもたれかかっていた。その状態のまま【座標指定】を自分から一定距離の場所に作っている。
カノン、ジーニー、マリア、シフォンは、カウンターで軽食の準備をしていた。シフォンもフェリシアのメイドの仕事をするために、最初の旅行に行った翌年の旅行から加わっていた。
その中で、フェリシアは、セレーネの出している【座標指定】を見ていた。
「本当に追随しているのね」
「まぁ、私から一定距離の座標だからね。これの維持は、全然大丈夫だから良いんだけど、空間の生成がね。そもそも別空間って何?」
「この世界とは別の世界かしら?」
「それは別世界で、別空間っていうのとは違うんじゃないかな? それに別の世界だと、その世界の生き物がいそうだし、そもそも別世界への扉を作る魔術になるでしょ? 逆に、その方が凄いんじゃないかな」
セレーネの話を聞いて、フェリシアは納得した。
「そう言われるとそうね。じゃあ、世界の隙間って事かしら?」
「隙間説ね。一番有力だけど、だから何ってなるんだよね。結局隙間だから見つけやすい訳じゃないでしょ?」
「確かに、セレーネの言うとおりね。そもそも空間の隙間を生み出したら、閉じた時に中も閉じる可能性があるわよね」
「そう。中身が潰れたら意味がないんだよね。だから、作った隙間を維持し続ける必要がある。これが結局常に魔力を消費し続ける事に繋がるの。こういう事があるから、理論段階で諦められたんだよね。だから、私は魔力そのものを空間と見立てられないかって思ったんだけど……これが難しいの。ミルズ先生と先生は面白いアイデアだって言ってくれたんだけどね。結局それがどのくらいの容量になるのかとかも考えないと。私の魔力は、他の人よりも遙かに多いでしょ? 私を基準に考えちゃいけないんだよ」
真祖であるセレーネの魔力量は、人の中でも最大の量を誇る。現在の魔力量でも、同年代の魔力量とは遙かに多い。なので、セレーネを基準にして判断するのは、データとしてはあまり良くない。
「まぁ、その時は私も手伝ってあげるわ。私の魔力も平均より多いけれど、セレーネよりは参考になるでしょ?」
「うん。そのつもりだった。シフォンとジーニーにも頼もうと思ってたしね」
「な、何の話……?」
軽食を持ってきたシフォンは、自分の名前が出たので話の内容が気になった。
「私の研究でシフォンにも協力してもらうかもって話」
「そ、そうなんだ……が、頑張るね……」
「うん。じゃあ、いただきま~す」
セレーネは早速シフォンが持ってきたサンドイッチを食べる。中身は卵と豚肉だ。適度にバターを塗られており、セレーネの好きな具材でもある。セレーネは上機嫌でサンドイッチを食べている。
その中で、シフォンとマリアも座ってサンドイッチを食べていた。カノンとジーニーもカウンターで軽く食べている。
「そういえば、フェリシアの方はどうなったの?」
「具体的に属性は決めてないわ。基礎の組み合わせで、どういう魔術が生まれるのかを確認しつつ、そこから発展させられないかを考えているの。改めて基礎を調べるみたいな感じね」
「そっか。今基礎を学び直したら、新しい発見があるかもしれないしね」
「ええ。そういえば、マリアさんは学生時代何を研究していたの?」
フェリシアは、自分から斜向かいに座るマリアに話を振る。色々な研究していたが、マリアの研究内容については聞いた事がなかった事を、フェリシアは思い出したのだ。
「私ですか? 私は広範囲魔術の特定範囲除外に関するものと複数追尾の要素に関するものですね」
「それって、どういう研究なの?」
セレーネも気になって続きを促す。
「そのままですよ。広範囲に影響する魔術において、特定範囲を除外するというだけです。難しいのは、魔術による余波すらもそこに影響させないという事ですね。その空間だけは、本当に何も影響が及ばない場所になるわけですね。範囲設定の際に結界の設定もするという方法になりますから、通常よりも魔力を消費するのが欠点ですが。複数追尾は、そのまま複数を標的として魔術を発動して、命中するまで追わせるものです。ここで大事なのは、標的以外に命中させないようにする事ですね。魔術そのものに意思を持たせるというイメージが分かり易いでしょうか。正面に標的以外のものがあれば、迂回し追い続ける。標的にした対象の魔力を覚えさせるので、命中するか魔力が尽きるまで追い続けますね。こちらも魔力を多く消費するのが欠点ですね」
すらすらと説明するマリアに、フェリシアとシフォンは少し驚いていた。
「マリアも頭は良いんだよ。伊達に飛び級しているわけじゃないから。お姉様が言うには、天才に分類されるみたい」
「褒めすぎですよ」
マリアは照れつつも茶化しながらそう言う。だが、フェリシアとシフォンは、テレサの言っていた事が事実である可能性が高いと考えていた。
何故なら、一つでも苦戦している研究をマリアは二つもやっていたからだ。結果が成功失敗に関わらず、研究は一つだけやれば良い。それが高等部の卒業条件だ。それを二つもやって一つの結論まで到達している事から、しっかりとやり遂げた事が分かる。
天才という言葉が合っていると思わざるを得ないのだ。
「学園側が研究を推進する理由は、その過程で学ぶ内容に意味があると考えているからです。お嬢様達も中等部で行った研究の過程で、様々な事を学んだ事でしょう。その過程は、別の研究にも生きてくるものです。大事なのは結果ですが、過程も軽んじてはいけないという事ですね」
マリアがそう言うと、フェリシアとシフォンは感心したように手拍子した。褒められたマリアは、少し照れていた。
そこに片付けをしたカノンとジーニーもやってくる。それから少し皆で話していると、急にカノンが進行方向を見始める。
「カノン?」
セレーネが呼び掛けると、ゆっくりとセレーネの方を向いて微笑む。
「いえ、何か異音が聞こえたような……っ!」
カノンはそう言った直後に、セレーネ達が座っている場所は反対方向の窓を見る。
「身を守って!」
カノンの叫びと同時に、ジーニー、マリア、シフォンが即座に動いた。ジーニーが二人の盾になるような位置に移動し、マリアがセレーネ、シフォンがフェリシアの元にテーブルを乗り越えて移動して抱きしめる。カノンは、全員の盾となるように位置して結界魔術を使う。
その一連の行動は三秒にも満たない時間で行われ、直後に大きな振動、衝撃が横と下から襲い掛かってきた。結界の割れる音。列車が転がる音。様々な音がセレーネの耳に聞こえてきた。そこから、セレーネは列車が何者かに攻撃されたのだと考える。だが、すぐにそんな思考をしているような余裕はなくなった。




