難航と一学期終了
それから一週間が経ち、セレーネだけでなくフェリシアも机に突っ伏していた。
「ふ、二人とも……お行儀が悪いよ……?」
シフォンが声を掛けて、ようやく二人は机から身体を起こす。だが、渋い顔は続けていた。それだけ難航しているという事を表している。
「難しい……」
「そうね……何故研究がされないのかがよく理解出来るわ……」
「フェリシアって、結局回復魔術のまま?」
フェリシアが苦戦している事を知っているので、セレーネがどんな調子なのかを込めて訊く。それに対して、フェリシアは困ったような表情をする。
「どうかしらね。取り敢えず、空間魔術との組み合わせは避けようと思うわ。空間内に治癒の効果を満たす事が出来たけれど、消費魔力が大きすぎるもの。何とか消費を抑える手段を考えたけれど、焼け石に水ね。神聖魔術の理論がよく分かったわ。だから、別方向からのアプローチに変える事にするわ」
「そっか。私の再生能力でも元にする?」
セレーネが冗談半分にそう言うと、フェリシアの目がジッとセレーネを捉えた。これにはセレーネも戸惑う。普段、フェリシアやシフォンを戸惑わせてばかりのセレーネだが、この時ばかりは逆の立場になっていた。
「吸血鬼族の再生能力を普通の人に……いや、それは眷属になるみたいなものだから違うわよね。自己再生能力を強化する。それを常時発動……少し無理があるかしら……そもそも吸血鬼族の再生能力はどういうものなの?」
「え? 分からない。勝手に治るし。ミーシャちゃんに訊けば分かるかもだけど、一昨日私の封印を更新してから、リーシアちゃんと一緒にどこか行ったからなぁ」
「そう……でも、再生能力を上げるくらいの魔術はあるのよね……やっぱり、別魔術に変える方が良いかしら」
「そこは考えないとだね。シフォンは?」
フェリシアが大分滅入っているので、話の内容をシフォンの研究内容に変える。突然話を振られたシフォンは、一瞬驚いていたが、前よりも戸惑うことなく答える。
「ま、守る対象を限定する事で効力を高めようとしてるの……」
「ん? 局所結界?」
結界の局所展開に関しては、既にセレーネとフェリシアもマスターしている。なので、セレーネは、今更研究する内容はあるのかと疑問に思っていた。
「きょ、局所結界じゃなくて、身体を守る服みたいな……あ、後は、内臓だけを守るとか……」
「ふ~ん……確かに結界でそういうものは聞いたことないかも。先行研究は?」
「わ、私が調べた限りだとないかな……ジ、ジーニーさんも手伝ってくれたけど、見つからなかったよ……」
「そうなんだ。でも、結構良いかもね。結界の基礎から発展出来るの?」
「う、うん……多分……? ま、まだ理論だけだから……」
研究内容的には、シフォンもシフォンで難易度は高い。新しいものを作るという時点で、全員が高レベルの研究をしているのだ。
「そっか。でも、やっぱり基礎を中心に学んだ甲斐があったよね。色々な可能性を考えやすくなったし」
「そうね。中等部での研究がなかったら、もっと苦戦していたでしょうね」
それぞれがそれぞれで中等部での研究の経験が生きていた。それでも研究は難航し続ける。
その中で、一番早く結果を出し始めたのは、シフォンだった。結果とは言っても、完成しているわけではない。朧気ながら形が出来始めたというだけだ。それでも形も出来ていない二人と比べればかなり進んでいる。
フェリシアに関しては、研究内容を変えるという判断をした。回復魔術の分野は、やはりほぼ完成しているものが多い。なので、フェリシアが改良しようとしている事も、既に試して無理だったというものが多かった。セレーネの場合は、まだ未開発な領域が多い空間魔術に関するものなので、進められはしている。結果は出ていないが、それでも可能性は残っている。
そんな調子で日数は過ぎていき、高等部の夏季休暇の時期が近づいてきた。
「さて、高等部に入って初めての夏季休暇ですね。高等部での課題はありません。そもそもカノンさんが授業をしてくださって、高等部三年の内容に入っていますしね……」
レイアーは遠い目をしながらそう言っていた。カノンの授業スピードは早いが、セレーネ達はそれに追いついている。レイアーとしては、一年生の半年でここまで進められるとは思っていなかったので、少々驚いていた。
「なので、思う存分研究しつつ遊んでください」
「は~い」
「夏季休暇中、私は研究室にいる事が多いですので、図書室を使いたいなどの用事があればお越しください。伝達事項はこれくらいですかね。では、皆さんお元気で」
レイアーが出て行った後、セレーネ達は集まって予定を決めていた。毎年同じように旅行の予定を決めているので、恒例行事のようなものである。
「それじゃあ、予定通り海に行くので良いのね?」
「うん。また行きたいなって思ってたから。水着も新調しないと」
「そういえばそうね。あれから、海には行っていないものね」
「うん。カノンが大きくなっちゃったから」
そう言われているカノンは苦笑いだったが、その背後でマリアが怖い笑みを浮かべていた。今の話から、大きくなったのはカノンだけとも受け取れるからだ。実際そうなのだが、マリアとしては認めたくないところだった。ミリでも大きくなっていれば大きくなっているのだと心の中で主張している。
そんな心中を察しているからか、カノンは更に困ったような表情になる。そんなカノンの元にセレーネが向かい、カノンに寄り掛かりながらフェリシア達に振り返りながら、朗らかに笑う。
「海は楽しいから好き。またいっぱい遊ぼうね」
「そうね」
「う、うん……」
三人は次の旅行を楽しみに準備を進めていく。水着、私服、寝間着の新調に加えて、屋敷で遊ぶボードゲームの補充。その他の必要なものを買い足していき、旅行へと備える。セレーネは久しぶりの旅行という事で、セレーネは大興奮であった。
そうして、旅行当日がやって来る。セレーネとカノン、マリア、クロは駅まで来て、いつも通りクロを貨物車両に乗せる。毎年の事なので、駅員も慣れた様子でクロを貨物車両の中に通していた。
そして、いつも通り先頭車両近くの貸し切り車両に移動して、フェリシア達と合流し、旅行目的地へと向かって出発した。




