研究室決定
高等部での授業は、本当にカノンが中心となって行われた。カノンの授業は、どんどんと先に進んでいくので、セレーネ達も必死で食らいつく。
そして、魔術の授業はレイアーが行い、基礎と戦闘の魔術を中心に教えていった。既に知っている事が多いので、魔術の授業に関しては、実技で行われていた。同時にひたすら走り続けるという体育の時間も存在した。これはシフォンが死にかけていたが、中等部の頃よりも遙かにマシになっている。そんな調子で一ヶ月が過ぎると、レイアーからセレーネ達に紙束が配られた。
「はい。これが現在学園にある研究室です。皆さんが所属したい研究室を選んで、申請用紙に記入して提出してください」
「は~い」
「では、今日はこれで終わりです。お気を付けてお帰り下さい」
レイアーはそう言って、教室を出て行った。そして、後ろで待機していたカノン達がセレーネ達の元に来る。教室にはセレーネ達しかいないので、カノン達が使用人待機室にいる必要はなくなったのだ。
「研究室多くない?」
「う、うん……そうだね……」
「分野別に分かれてるのかぁ……カノン」
「お嬢様がここまで学んでいる中で、気になった事柄に関する研究が良いかと」
「う~ん……亜人学……戦闘魔術……魔術薬……魔術科学……魔術薬学……錬金術……でも、基礎魔術かな。魔術の要だし、この前の研究で色々と学べるものが多かったし。フェリシアは?」
「そうね……私も同じかしら。この前の研究は本当に難しかったけれど、楽しかったものね。基礎を重点的に学んでいきたいと思うには十分だったわ」
「わ、私もそうするつもり……じょ、上級生と一緒は怖いけど……」
「そういえば、上級生と会った事ってないよね?」
「そうね。そもそも常駐するような研究じゃないからかもしれないわね。私達も図書室やそれぞれの家で研究をしていたでしょう?」
セレーネ達が行っていた研究は、研究室に籠もるよりも情報を多く集められる場所や、集中出来る場所で行う方が効率が良い。その結果、研究室に上級生の姿はなかったのだとフェリシアは考えていた。
「それじゃあ、皆一緒だね」
「そうね」
「う、うん……皆一緒だと心強いね……」
コミュニケーションが得意ではないシフォンは、セレーネとフェリシアが同じ研究室に入ると聞いて内心安堵していた。そんなシフォンの思考を読み取ったセレーネとフェリシアは、優しい微笑みでシフォンを見る。シフォンは、少し恥ずかしげに顔を伏せた。
「それじゃあ、申請用紙を提出しに行こう。カノン達も付いてきてね」
「はい」
ミルズの研究室を選び、セレーネ達はミルズの研究室に向かう。そこにレイアーがいるはずだからだ。扉をノックして、レイアーの返事を聞いてから中に入る。
「先生。用紙を持ってきたよ」
「早いですね」
三人から用紙を受け取ったレイアーは、一瞬驚いた後、少し嬉しそうに笑った。
「そうですか。またここを選んでいただきありがとうございます。研究室は変える事も出来ますので、その時はおっしゃってください」
「うん。分かった。ここの上級生は?」
「全員卒業しましたね。現在は、皆さん以外いません」
レイアーが困ったような笑みでそう言うので、セレーネ達も何も言えなくなった。
「魔術という分野で言えば基礎よりも戦闘が人気なのは昔から同じですからね。そちらに流れていくのです」
「大変だね」
「そうですね。アカデミーを経て基礎に戻る人が多いですが、高等部ですと、基礎よりもと思う生徒が多いですね。本当に困ったものです。さて、皆さんの研究内容についての話をしましょうか。ミルズ先生からは、皆さんがいらっしゃったら、私が担当するようにと言われていますので、何かしたい事はありますか?」
ミルズが面倒くさくなっているわけではなく、セレーネ達との関係から、レイアーが適任であると判断したからだ。
「前と同じじゃないの?」
「いえ、前回は知識などを深めていただくために、こちらで選びましたが、今回は自身でやりたい事を選んでいただいて構いません。お三方で共同研究するも良し。それぞれ別の事を研究するも良しというわけですね。もし、お決め出来なければ、魔術の開発などは如何でしょうか?」
「魔術の開発?」
「はい。これまでの知識を元に、基礎魔術から異なる魔術を作り出すのです。様々な魔術がありますので、同一魔術にならないように注意が必要になります。前回以上に魔術に関する知識が多く必要になりますね。これに関しては、前のように課題となる魔術はありませんので、自分で魔術を選んで開発していくという事になりますね」
「じゃあ、開発してみる。新しい事にも挑戦したいから」
「なら、私もそうします」
「じゃ、じゃあ、私も……」
セレーネ達は、魔術の開発を研究対象に選んだ。
「では、失敗も含めて、全てレポート形式で提出して頂く事になります。一ヶ月に一回の提出にしましょうか。そこから私が出来るアドバイスはしていくつもりですが、基本的には前と同じように皆さん自身で進めていく事になります。大きな結果を残す必要はありませんが、しっかりと研究はしてください」
「は~い。そうだ。私、高等部に入ったし、そろそろダンジョンに行っても良い?」
「そうですね……しっかりとご家族に相談した後であれば良いとは思います。戦闘に関しても、申し分ありませんから」
「カノン!」
「奥様に確認してみます。ですが、まだ許可は出ないと思われますよ?」
「何で?」
セレーネは頬を膨らませながら訊く。
「テレサ様の件がありますので、お嬢様は学業に関係ないという事で許可が出ない可能性があります。ただでさえ、お嬢様は飛び級していらっしゃって、普通は中等部に通っている年齢ですから」
「年齢的に駄目って事?」
「はい。私やマリアさんが一緒でも渋られると思われます。奥様だけで判断出来れば、もう少し可能性はありますが」
セレーネがダンジョンに行くとなれば、さすがにミレーユだけで判断する訳にもいかない。確実にラングリドにも話を通す事になるとカノンは考えていた。なので、現状では無理だろうという風に予想出来た。
「むぅ……興味あるのになぁ」
「仕方ないわよ。危険な場所という事は変わらないもの。今の内に知識と経験を蓄えて、文句を言わせないくらいなれば良いんじゃないかしら?」
「研究を頑張れば、許可が出るかもって事?」
「そこは、私には分からないわね。魔術の開発がダンジョンへの挑戦許可に繋がるとは思えないもの」
「むぅ」
セレーネは、どう足掻いても無理そうだと分かり、フェリシアに寄り掛かる。フェリシアは、しょうがない子というように小さく息を吐く。
「今後の授業では、もう少し実戦形式の授業にしてみますか?」
「良いの?」
授業内容をそんな簡単に変えて良いのかという意味で、セレーネは確認する。
「特待生の授業は、その生徒達に合わせて変更していくものです。セレーネ様方は、そのレベルにあると思われますので」
「ふ~ん……だって、シフォン」
「ふえっ!? わ、私は大丈夫だよ……? が、頑張るから……」
「フェリシアは?」
「必要な事だから、私からもお願いします」
「では、そうしましょう。多少怪我をすると思いますが、構いませんか?」
「うん」
「ええ」
「は、はい……!」
三人とも怪我を恐れてはいなかった。セレーネは再生するからいいやと考え、フェリシアとシフォンは、そこまで甘い訳がないから仕方ないという風に考えていた。この辺りが吸血鬼族と人族の考え方の違いである。
高等部での研究内容も決まり、高等部での生活も充実し始めた。セレーネは、ここでも大きな経験を積んでいくことだろう。




