緩やかに早く刻まれる時
それから三ヶ月。セレーネ達は、充実した学園生活を送っていた。基本的に授業ばかりで過ごしていき、冬休みが訪れる。年末年始を過ごすための休みは二週間程続く。その中で、フェリシアがセレーネの別邸に泊まりに来た。
その世話係として、ジーニーとシフォンも来ていた。ただ泊まりに来たわけではなく、研究も進めるためのものだ。セレーネの部屋で、床に大量の本を広げながら、様々な話し合いが飛んでいく。
「結局空間作用系の魔術の中に類似性はなかったよね?」
「そうね。あれから色々と調べてみたけれど見つけられなかったもの」
「う、うん……私も……図書室で色々調べてみたけど、似ている部分が全然見付からなかったよ」
「空間は中心に関係ないのかもしれないわね」
「じゃあ、斬撃と空間の組み合わせが、この魔術じゃなくて、あくまで斬撃がメインの魔術って事?」
「ええ。空間は座標指定追加要素の意味合いしかないと考えるのが良さそうね」
「じゃ、じゃあ、斬撃を飛ばすって事……?」
シフォンの言葉に、セレーネは腕を組みながら首を捻る。シフォンの考えに疑問を覚えたのだ。
「飛ばす……飛ばすかぁ……ちょっと違う気がするなぁ。それだと座標指定じゃなくて方向指定にならない?」
「あっ、そ、そっか……そ、それだと先生が言っていた任意の空間にって説明がおかしくなるもんね……」
レイアーの話から、シフォンは自分の考えが間違っていた事に気付いた。それに対して、セレーネも頷く。
「うん。実際に使ったら、飛ばすって感じじゃなかったし」
実際に使ったというセレーネの言葉に、フェリシアとシフォンは唖然とした目を向けていた。さすがに、フェリシアもシフォンも実際に使うというところまではやっていないからだ。どういった魔術かよく分かっていない以上、そこまでの危険は冒せない。
これには、カノンも困ったような表情になっていた。実際に、その使用した現場にはカノンもいたのだろうという事が、フェリシアとシフォンも予想出来た。
「で、でも、それだと空間指定は必須になるから……」
ここまでの話し合いの中で、空間指定ではないかもしれないと話になっていたのが、少しおかしな事になる。それをセレーネもフェリシアも気付いていた。
「追加要素として入れているというのがおかしくなるって事ね」
「今のところ削ぎ落としが出来たのは、威力上昇くらいだから、もう少し魔術陣をシンプルにしたいよね。ただ、これ以上の削ぎ落としすると、魔術が破綻しちゃうんだよねぇ」
「それも試したのね……空間の方は進んでいるみたいだけれど、斬撃の方の解析は出来ているの?」
「ううん。ちょっと難しいんだよね。どこまでが斬撃に関する魔力線なのかが分からなくてさ。威力上昇の削ぎ落としも苦労したくらいだし。そもそも魔力線って、魔力の貯蔵庫みたいな部分があるでしょ? これを発動した時も私の使える魔力がなくなるくらい消耗したし」
「えっ……ちょっと、それって大丈夫だったの?」
フェリシアは、セレーネの心配をする。セレーネの事情を知っているからこそ、そこまでの魔力を消費したセレーネが無事だったのかが心配だったのだ。
「うん。吸血衝動が起こる程ではないから。そこは封印されていて手を出せないしね。カノンから血を貰って回復したから」
「ふ~ん……そう」
フェリシアは、ジト目でセレーネを見る。セレーネは、まるで浮気がバレたような感覚を受ける。このままだとフェリシアからの視線が痛くなってしまうので、フェリシアの横に移動して頬にキスをする。フェリシアは、それだけで顔を真っ赤にしてセレーネを睨む。
「誤魔化されないわよ」
「こんな手段に出たのは初めてなのに……初回特典は!?」
「そんなものありません。全くもう……」
そう言うフェリシアの表情は、少し柔らかいものになっていた。
(誤魔化されてる……単純……)
一気に上機嫌になったフェリシアを見て、シフォンは内心そう思っていた。フェリシアにそんな事が思えるくらいには、シフォンも二人との仲を深めていた。
「ここまでの大規模な魔術になると、消費魔力が必要になるけど、これを簡略したら、どこまで減るんだろうね」
セレーネはフェリシアに寄り添いながら話を元に戻す。
「結局、そこから発展させる事が出来る状態にするのが簡略化よね。先生達の目的も、魔術の基礎にするのが目的みたいだから」
「そ、そうなると、最低限の実用性が必要だよね……」
「空間の指定と空間内に斬撃を満たすの最低限ってなると、空間を狭めて、斬撃量を減らすって方向になるんだよね……その前提を崩す?」
「まずは、斬撃の魔術を調べてみましょ。そこからここに繋がるものを見つけて、空間系の魔術や追加要素と組み合わせて考えてみるのが良いわ」
「また読み込みだぁ……この時期って学園も完全に閉まってるよね?」
「閉まってるわね。先生方も休みが必要だもの。だから、こうやって集まってセレーネの家にある書物を漁っているのでしょう?」
「むぅ……」
セレーネは頬を膨らませながらも、本に書かれている魔術陣を見ていく。フェリシアとシフォンも同じく本を読んでいった。しばらくの間、ページを捲る音だけがする静かな時間が訪れる。
その間に、カノン達メイド組はメイド組でお茶会をして友好を深めていた。セレーネ達は研究に忙しいので、せっかくだからという事になったのだ。それぞれの家での仕事を話して、お互いがその状況になった時の対策とするのである。セレーネとフェリシアは、全然似ていない性格なため、そこまで利用出来るかどうかは不明だが。
泊まりという事もあって、セレーネ達は一緒にお風呂に入った。カノン達も全員で入るには、さすがに手狭なので、セレーネ達だけで入る事になる。一応、一番歳が近いマリアも一緒に入っていた。
「マリア、洗ったよ」
「ん~……洗い残しもなさそうですね。それでは、湯浴み着を着て入ってください」
「うん!」
湯浴み着を着たセレーネは、ちょうど同タイミングで洗い終えたフェリシアと一緒に、先に湯船に入る。
「あっちの湯船は何なの?」
「あっちはクロのお風呂だね。一緒に入ると抜け毛が凄い事になるから、あっちに専用湯船が作られたの。クロは、お風呂も好きだからね」
「そうなのね」
普通に自分達人間も使えそうな湯船だったので、クロの待遇は本当に良いのだなとフェリシアは謎に感心していた。
そんなフェリシアに横から寄り掛かる。セレーネの体重を感じて、フェリシアもセレーネに寄り掛かった。
「そういえば、テレサ様は?」
「お姉様は、アカデミーの学習の一環でダンジョンに行ってる」
「ダンジョンに? アカデミーでは、そんな事もするのね」
「うん。お父様は納得してなかったみたいだけど、お姉様は知らん顔したって。お父様は過保護になりやすいからね。お姉様も学業の邪魔はしないで欲しいってはっきり言ったらしいよ」
「……テレサ様もばっさり言うわね」
「まぁ、そこを反対されていたら、アカデミーで学べることが減るしね。私の眷属になって、学べる時間は無限になったけど、環境が整っている時にいっぱい学んでおきたいらしいよ」
「テレサ様も結構凄い人よね」
「ふふん! 自慢のお姉様!」
自分の事のように胸を張るセレーネが可愛いと思い、フェリシアは微笑む。そんな二人を見ていたマリアとシフォンは、若干苦笑いをしていた。
(本当に、この二人はどんどん仲良くなるなぁ)
(二人の恋を応援したいけど、色々問題があるんだよね。私は貴族じゃないからよく分からないけど、二人には幸せになって欲しいなぁ。私は二人よりお姉ちゃんなんだから、色々と守ってあげたいし、これからも頑張ろう)
マリアは、二人の親愛度の上昇具合に驚いていた。
シフォンの方は、そんな二人を守ってあげたいと思い、これからも精進する事を決意していた。
その日の夜は、セレーネとフェリシアは寄り添って寝た。旅行ぶりの同衾で、セレーネは大きく喜びフェリシアにくっついていた。そんなセレーネを可愛いと感じつつ、フェリシアからもセレーネを抱きしめるようにして眠りに就く。
セレーネ達は、そんな楽しい冬休みを過ごしていく。そして、年始になり、そのまま学園が始まっていく。そうして学年末のテストまで進んでいき、セレーネ達は余裕で二学年に進級出来た。




