新学期と研究
そこから旅行最終日までの時間を、セレーネは、海での遊びだけでなく、屋敷でボードゲームをしたり、カノンによる授業を受けたりと、最大限満喫していった。
そして、王都へと帰る日がやって来た。帰りの準備をしていると、ライルが屋敷にやって来る。
「お兄様、サボり」
「んなわけあるか。セレーネ。今日王都に立つんだろう? 一応、様子を見に来た」
「ふ~ん……そういえば、カノンから聞いた話でどうにかなったの?」
セレーネは、ライル達がその後どういう行動をしていたのかを知らない。あれからカノンは、基本的に屋敷を離れる事はなかった。その事から、ライルが何か対策を取っているとセレーネは考えていた。
「ああ。縄張り争いが起きた原因は、夏になり魔物達の活動が活発になったからだ」
「季節で変わる?」
「場合によってはな。今年は、暑さがキツい日が何度かあった。そこで、なるべく海に近い場所に移動しようとしたのだろう。まぁ、こっちでどうにか対処は出来た。馬鹿の炙り出しも出来たからな。色々と指導し直しになる。仕事が増えたって事だがな」
「ふ~ん」
ライルは、セレーネの頭に手を乗せる。
「旅行は楽しかったか?」
「うん! 凄く楽しかった!」
「そうか。学生時代の休みが一番旅行に行きやすい。色々な場所に行ってこい」
「色々な場所?」
「ああ。今回は海だったが、そうだな……どこかの街でも良い。今は魔動列車があるんだ。行ける範囲は、そこそこ広い。他国になると厳しいけどな。見聞を広げていけば見えてくるものもある。兄の有り難い言葉だと思え」
「ふ~ん……うん。分かった」
素直に頷くセレーネの頭をライルはが撫でる。そこにテレサがやって来た。
「兄さん、サボり?」
「お前達姉妹は、俺をサボり魔にしたいのか? ったく、様子を見に来ただけだ。列車までは行けそうになかったからな。これから移動する。またな」
「そう。またね」
「また!」
ライルは二人に手を振って屋敷を出て行った。そんなライルを見送ったテレサは、セレーネの手を取る。
「そろそろ出発するらしいから、カノンのところ行くわ。セレーネも忘れ物がないか確認しなさい」
「うん!」
セレーネは自分に宛がわれた部屋に戻りカノンと一緒に忘れ物チェックをする。そうして、全員忘れ物がない事を確認したところで、セレーネ達は王都へと帰った。
それからの夏季休暇は、次の学期の予習などを行っていった。ライルに言われた通り、再び旅行に行く手もあったが、今から旅行先に宿を取る事も出来ないので、そこは諦める事になった。
セレーネとフェリシア、シフォンは、セレーネの別邸に集まって、次の学期から始まる研究のための予習をしていた。ただ予習だけではなく、しっかりとクロも交えて遊んでもいた。
そうして、次の学期がやって来て、セレーネ達は再び学園へと通う。
最初の授業説明などを終えて、セレーネ達は、ミルズの研究室へとやって来た。迎えたのは、ミルズではなくレイアーだった。
「先生! こんにちは!」
「はい。こんにちは。セレーネ様は変わらずお元気そうですね」
「うん!」
久しぶりにレイアーに会ったので、セレーネは少し嬉しそうに挨拶をしていた。フェリシアとシフォンもレイアーに挨拶していく。
「今学期もよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします。では、今日から皆さんには、本格的に研究をして貰います。魔術陣の解析と簡略化。それらを一からやって頂く事になりますが、私やミルズ先生は、なるべく協力しません。細心の注意を払って行ってください」
「は~い!」
「はい」
「は、はい……!」
三人がしっかりと返事をしたので、レイアーは満足そうに頷き、魔術陣が描かれた髪をセレーネ達に渡していく。そこには、様々な紋様などが複雑に絡み合った魔術陣が描かれていた。これまでセレーネ達が課題として解析していた魔術陣よりも遙かに複雑な魔術陣だった。
「…………これって、本当に魔術陣?」
「はい。下手に分解すれば、魔術自体が発動しません。そもそもこの魔術陣がどういった魔術なのかだけは説明しておきましょう。この魔術陣は、任意の空間に無数の斬撃を放つというものです。魔力の消費量も多く使うのは容易ではありません。これを基礎まで落とし込んで欲しいのです。頑張ってみてください」
「は~い」
「はい」
「は、はい……」
研究対象となる魔術陣を見て、セレーネ、フェリシア、シフォンは少し尻込みしていた。ここまで複雑な魔術陣の分析など、本当に出来るのかという不安があるのだ。
「じゃあ、早速図書室に行って来る!」
「ちょっ!? セレーネ! 待ちなさい! 失礼します!」
「セ、セレーネちゃん!? フェリシアちゃん!? し、失礼します!」
全速力で走っていくセレーネを追って、フェリシアはレイアーに頭を下げてから追う。そんな二人に驚きつつも、シフォンも頭を下げてから二人を追った。
「忙しない子達……まぁ、やる気満々みたいだから良いかな。セレーネ様達が無茶しないと良いけど……卒業までにどのくらい解析出来るか……ちょっと楽しみかな」
セレーネ達を見送ったレイアーは、セレーネ達が無事に解析出来る事を祈りながら、自分の研究へと移っていった。
セレーネは図書室に入る前にカノン達を呼んできた。図書室での調べものにおいて、書籍を探すのを手伝って貰うためだ。そうして、個室を借りたセレーネ達は魔術陣の解析を始める。
「空間に作用する魔術との類似性を確かめてみれば良いんじゃないかしら?」
「それと斬撃の魔術もね。でも、これの基礎魔術って、既にあるんじゃない?」
「これを組み合わせた基礎魔術という事じゃないかしら? つまり空間をしていて斬るという点を残して簡略化していけば良いのよね」
「で、でも、この複雑な魔術陣の中から、その作用だけ残せるかな……?」
シフォンがそう言った事で、セレーネとフェリシアは再び研究対象の魔術陣を見る。
「この中から無駄な部分を削ぎ落とすって事だよね……いっそ既存の魔術を組み合わせて似たような魔術陣を作り出す方が良い?」
「それだと、これの基礎魔術と言えなくなるんじゃないかしら? だから、先生も難しいと言ったのだと思うわよ」
「それもそっか。とにかく削ぎ落としをしっかりとして、魔術として発動するだけの要素は残さなきゃね。一つ一つの可能性を考えるよりも、この魔術の根幹を調べてからの方が研究しやすいかな」
「そうね。他の魔術との類似性から、実際に空間の魔術が関わっているのかを調べる必要があるわ。下手すれば、この魔術に空間作用がない可能性もあるもの」
「そ、そうだね……色々な可能性を調べてみないと……」
「頑張ろう!」
セレーネ達は学園の授業をこなしながら、研究を進めていく。その研究は、セレーネ達が思っていたよりも大変で、進みはかなり遅かった。だが、それでもセレーネ達は、楽しそうに研究を続けていった。




