旅行 お風呂編
魔術なども使い、クロの身体を洗ったセレーネ達は屋敷に入るなり、ジーニーから入浴を強制される。その理由は単純で、クロを洗う際にびしょ濡れになったのと砂が付いている可能性があったからだ。
着替えをジーニーとマリアが持ってくる間に、カノンが見守りながらお風呂に入る。その際、フェリシアとシフォンはセレーネの裸を、ジッと見ていた。
「何?」
「いや、本当に全身に描かれているんだなって思ったのよ」
「うん。そうだよ」
フェリシア達が見ていたのは、セレーネの封印だった。初めて封印の全体を見た二人は、本当に身体の隅々まで描かれているのだと知った。
「割と目立つよね。私からしたら、あまり気にならないけど」
「そうね。不思議と似合っているようにも見えるわ」
「ふふん! 可愛い?」
セレーネは胸を張りながら訊く。いつもは服を着て胸を張っているが、今はお風呂に入る前なので全裸だった。何も気にしていないセレーネに、フェリシアは少し呆れ顔になる。
「全裸で威張っていなければね」
「むぅ……フェリシアの貧乳」
「セレーネもでしょうが。というか、私達の年齢で、そこまで膨らんでいる方が驚きでしょう。シフォンでさえ、成長し始めたばかりなのよ」
「フェ、フェリシアちゃん……そ、そこまで言わないで良いんだよ……?」
自分の話題になった事で、シフォンは身体を隠すように両腕を交差させる。身体を隠すシフォンをジッと見たセレーネは、後ろにいるカノンに抱きつく。
「でも、カノンも大きいよ」
そう言われて、フェリシアとシフォンの視線がカノンに向く。自分達よりも遙かに大きな胸を持つカノンに、フェリシアとシフォンは内心圧倒される。年齢的に言えば、カノンの方が育っているのが当たり前なので、圧倒される必要はないのだが、セレーネのカノン自慢により何故か圧倒されていた。
そんな中で、カノンは困ったように笑う。
「私は普通より少しあるくらいですよ。ほら、夕食もありますから、早く身体を洗って温まりましょう」
この中で心も身体も一番大人なカノンはそう言いながら、全員分の湯浴み着を持って中に入る。セレーネは、カノンが洗い、フェリシアはシフォンに洗われる。セレーネもフェリシアも自分で洗えるのだが、フェリシアはシフォンの育成のために、セレーネはそんなフェリシアに対抗するために洗われていた。
そんな中でシフォンは、カノンの手際の良さに少し驚いていた。
「な、何かコツがあるんですか……?」
「コツですか? そうですね……こう言ってはなんですが、慣れですね。何度か洗っていれば、段々と掴んでいくものです。シフォンさんも、段々と分かっていくと思いますよ」
「うぅ……が、頑張るね、フェリシアちゃん……」
「ええ。でも、自分のペースで良いわよ。シフォンは、まだメイドとしての業務を学んでいる最中なんだから」
フェリシアは、一切文句を言わずにシフォンに洗われている。そうして洗われた二人は、先に湯浴み着を着て湯船に浸かる。その後、自分の身体を洗ったカノン達も入ると、セレーネは、カノンの元に移動してカノンを背もたれにした。いつものスタイルなので、カノンも気にせずに後ろから抱きしめる。
「セレーネは、メイドとの距離感が近いわよね。私でもジーニーに同じ事は出来ないわよ」
「まぁ、メイドである前に眷属だからね」
「眷属になる前から、同じような感じでしたけどね」
実際、眷属になる前から、お風呂場でのセレーネはカノンにべったりだった。セレーネがしっかりと温まれるようにカノンが拘束していたからというのもあるが、セレーネ自身がその状態を喜んでいたというのもある。
「むぅ。カノンは良いの。フェリシアもジーニーに同じようにしてみれば?」
「今更、そんな子供っぽい事は出来ないわよ」
「私が子供だって!?」
「子供ではあるでしょう」
「じゃあ、フェリシアも子供でしょ! 意地になっている方が子供っぽいと思うけどぉ?」
セレーネが煽るようにそう言うと、フェリシアが水を掛けてくる。カノンが無意識に素早くセレーネの顔の前に手を出したので、セレーネの顔には掛からなかった。
お返しに、セレーネもフェリシアに水を掛ける。シフォンが素早く反応出来るはずもなく、フェリシアの顔に水がかかった。
「ズルいわよ!」
「ふっふっふ! カノンは、私のピンチになると自動で動くのだ!」
威張りながらそう言うセレーネをカノンがぎゅっと抱きしめてフェリシアの方に向ける。
「どうぞ」
「カ、カノン!? ぶぅっ……!」
カノンの拘束により、セレーネはフェリシアの水攻撃をまともに受ける事になった。セレーネが調子に乗ってしまったので、お仕置きの意味も込めての事だった。
「カノンが裏切ったぁ!」
「お友達は大切にしないといけませんよ」
「むぅ!!」
セレーネは頬を膨らませて怒ると、カノンの胸に顔を埋める。カノンは、そんなセレーネの頭を優しく撫でる。
「やっぱり、セレーネの方が子供っぽいじゃない」
「甘えられなくなるなら、子供のままで良いも~ん。カノン大好きだから」
「全く……研究をしている時のセレーネとは大違いね」
「あはは……」
勉強の時や研究の時のセレーネとカノンに甘えている時のセレーネの違いように、シフォンは空笑いしか出来なかった。
時間を忘れて浸かっていると、マリアが夕食の時間だと呼びに来る。急いで、湯から上がり、カノンが一人一人しっかりと乾かしていき、夕食は全員揃って食べた。そして、洗い物をカノンとシフォンがしている間に、ジーニーとマリアがお風呂に入り、セレーネとフェリシアは二人でボードゲームをしながら遊ぶ。そうして夜が更けてきた。それぞれが寝る時間がやってくる。
「おやすみ、フェリシア、シフォン」
「おやすみ、セレーネ」
「お、おやすみ……」
セレーネは、名残惜しそうに手を振りながら、カノン達と一緒に部屋に入っていった。そして、眠い目を擦りながらベッドに歩いていく。
「お嬢様。目を掻いては駄目です」
「眠い……」
「はい。おやすみしましょう」
ベッドの中に入ったセレーネは、ゆっくりと瞼を閉じていき、すぐに寝息を立て始めた。初めての旅行に加えて、友人とのゲームで大はしゃぎした結果だ。
セレーネが完全に眠ったのを確認したカノンは、一旦自分とマリアの部屋に移動してメイド服から着替える。動きやすいパンツタイプの服を着て、腰に短剣を四本差す。その上から黒いポンチョを被る。ポーチの腰後ろに着けてから、セレーネの部屋に戻る。
「では、行ってきます」
「本当に行くんですね」
「はい。どうやら、この屋敷を覆うように魔道具による結界が張られているようですが、結界も無敵という訳ではありませんので」
カノンは、周辺の安全確保のために、外に出て魔物を狩りに行こうとしていた。騎士達が安全確保に動いてくれているが、自分でも動いた方がより安全になると考えての事だった。
「カノン……」
セレーネが小さくカノンの名前を呼んだので、カノンとマリアはセレーネが起きたのかと思いベッドを見る。
「マリア……ふへへ……お姉様……」
完全に寝言である事が分かって、カノンとマリアは苦笑いする。
「では、お嬢様をお願いします」
「はい」
カノンは、寝ている楽しそうに寝ているセレーネを見て、小さく笑ってから出て行った。カノンを見送ったマリアは、寝ているセレーネの肩まで掛け布団を上げて、ベッドに座る。
「カノンさんの行動力は、本当に凄いよね。それもこれもセレーネが原動力なんだよ。ちゃんと応えられる人にならないとね」
マリアはそう言いながら、セレーネの頬を撫でる。セレーネはくすぐったそうにしながら、身を捩りながら寝返りを打ち寝息を立てている。
そんなセレーネに微笑んでから、マリアも部屋を出て寝間着に着替えてからセレーネの部屋に戻る。そして、セレーネに寄り添うようにベッドに入る。
(カノンさん……夜の内に戻って来てくれると良いけど……朝起きてカノンさんがいなかったら、セレーネが泣くかもしれないし……)
マリアはカノンの心配をしながら、ゆっくりと眠りに就く。




