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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園中等部

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亜人の成り立ち その一説

 そうして三十分程すると、ウルトラマリン家の別邸が見えてくる。そして同時に海が見え始めた。


「わぁ……ねぇ! カノン! あれが海!?」

「そうですね。あの一面の水が、全部海です」


 海を初めて見たセレーネは大興奮に窓から身を乗り出そうとしていた。それを、カノンが自分の膝に乗せる事で防ぐ。


「あれ全部しょっぱいの!?」

「はい。そうですよ。でも、飲んではいけません。水分を逆に消費してしまいますし、そもそも身体に良いものでもありませんから」

「何に使うの?」

「塩作りですね。不純物などを取り除いて塩にします」

「ふ~ん……でも、あそこにも魔物がいるんでしょ?」


 セレーネはカノンの授業でやった事を思い出しながら確認した。


「はい。ですが、海の魔物と遭遇する確率は低いと言われています。そもそも深いところに住んでいるので、刺激しなければ出てこないと言われていますね。なので、漁船の被害が多いです。そこで人魚族の護衛が付く事で、被害を抑えています。なので、港町には人魚族も多く住んでいますね」

「ふ~ん……人魚族の人は、陸に上がれるの?」

「無理です。正確に言えば、陸での生活が無理です。人魚族の足は水中での活動に適した魚の尾と同じ形態をしています。なので、地上を歩くという事が出来ないのです。ただし、水上水中関わらず呼吸が出来ますので、水上に顔を出していても窒息する事はありません。ただし、水中での活動が基本ですので、地上に長居はしませんね」

「へぇ~、なんでそんな身体になったんだろうね」

「諸説有りますが、亜人の成り立ちとは、突然変異や進化などが考えられています。ですが、人魚族に関しては、この二つでは考えられないと言われています。そもそも魚と人間では、生物学上かけ離れすぎています。なので、突然変異と進化という説ではないという結論が出ている訳です。ここで一つ考えられるのが、少し過激な説である魔物進化論です。

 これは魔物から亜人へと進化したというこの説は、亜人差別へ大きな影響を与えました。元々魔物である存在を人間としては認めないというものです。それは置いておいて、この説の内容は、人魚族への進化に関しても説明出来るという部分で亜人学にとっては重要な説と言われています。

 この説が有力と言われている理由は、魔王の存在にあります。魔物が大きな魔力と本能を抑えつける知恵を得た時に生まれるのが魔王です。この説では、過去に存在した魔王が子を成し、その子供がまた子を成していく事で、段々と今の亜人へと至ったという風に考えられています。

 この説の反論として、魔王の力を我々が受け継いでいないという事が上げられましたが、これは年月と共に安定化したや魔王の子供が同じく魔王であるとは限らない等考えられます。因みに、この魔王と同等の力を受け継いだのが、魔王を倒す事が出来た勇者達だったと言われています。これもこの説が有力視される理由です。

 この説で説明出来ない亜人はいません。それは、エルフ族、ドワーフ族、そしてお嬢様達のような吸血鬼族も同じです。恐らく吸血鬼の真祖が持つ永遠の命と再生能力、眷属を作り出す能力などが魔王の特徴という風に捉えられるのでしょう。恐らく亜人の中で、もっとも魔王に近いのは吸血鬼族の真祖なのかもしれません。真祖の弱点が銀の杭と分かっているところから、最初の真祖は既に亡くなっていると考えられますね。

 亜人の様々な特徴を説明するのに、元々魔物や魔王の特徴だったというのは、不本意ですが的を射ていると思われます。

 この説において、人魚族は、海の魔王から続いた存在という風に考えるのでしょう。私達のような獣人族は、段々と人と交わる事で現在のような耳と尻尾、そしてある程度の動物の特徴を持った存在として生まれていると言われています。人魚族に関しても人と交わった結果という事になりますね。

 ですが、現在ではそれぞれの種族の特徴を持ち合わせる存在は、私のような真祖の眷属でしか確認されていません。つまり、現在の私達がそもそも人と猫人族のハーフだったという説もあります。ただ、この理論でいけば、人と交配していく度に種族的特徴を失っていく事になります。ですが、ご覧の通り、我々獣人族はこの状態のまま何百年も変わっていません。この事から、ハーフとして生まれてくる事はなく、純粋な獣人として生まれているという考えが主流になりました。お嬢様も見た目は人ですが、その身体は純粋な真祖です。そこからもこの考えが正しいという風に考えられます。

 少し脱線した話もしてしまいましたが、結論を述べると、その真実は全く判明しておらず、現在の最も有力な説は魔物から進化していったからという事になります」

「へぇ~、そうなんだ」


 セレーネは納得したように頷きながら外に見える海を見ていたが、フェリシアやシフォンは唖然としていた。傍から見れば、セレーネの一の質問に十や百で返しているような状態だったからだ。

 そして、先程の列車で授業を受けたフェリシアや病院で授業を受けたシフォンからすれば、まだこんなに知識を持っていたのかと感心せざるを得なかった。

 ただ、今回の事に関して言えば、ただ単純にカノンの研究内容と被っている事が多いから濃密に答えられただけであって、これ以上の事を説明しろと言われると、カノンの主観が大半を占める事になる。それでも語れる事は確実だった。


「会えるかな?」

「海で遊んでいれば、その可能性はありますね」

「見てみたいな」

「港町に行けば会える可能性は高いですから、この旅行で会えなければ、港町に寄ってみましょうか」

「うん!」


 自分とは違う種族の亜人に会える事をセレーネは楽しみにしていた。他の亜人を見掛ける事はあるが、人魚族は見た事がなかった。なので、セレーネは興味を抱いているのだ。

 そんな中で、フェリシアは別の事が気になっていた。


「カノンさんは、博識ね」

「そうでもありませんよ。亜人学に関しては、高等部で専攻していたのでよく知っているだけです。今でも時折論文などを読んでいるというのもありますが」

「カノンさんは、どうして亜人学を学ぼうと?」

「自分自身の事を知りたかったからですね。亜人として生きていく中で、自分がどういう存在なのか。どうして、自分達のような亜人が生まれたのか。その理由を知りたくなったのです。人であるフェリシア様やシフォンさんからすれば、あまり抱くことのない疑問かもしれませんね」


 そう言われて、フェリシアとシフォンは納得してしまう。自分が人族である事に関して、疑問に思った事はなかった。亜人として、一部で迫害を受けている身だからこその疑問だろうとも予想が出来る。


「私も亜人学を学ぼうかな」

「吸血鬼族に関しては、リーシア様やミーシャ様から聞いた方が良いですよ。正直、亜人学において、吸血鬼族は一番研究が進んでいませんから」

「そういえば、そんな事も言ってたっけ。じゃあ、何を専攻しようかな」

「それは高等部に入ってから考えた方が良いでしょう。お嬢様が何に興味を抱くのかは、中等部に通っている間に何か興味を抱くものがあるかもしれませんから」

「興味かぁ……私の興味は、これかな」


 セレーネは、自分の手を見てそう言う。そこにはリーシアが施した封印の刻印があった。自分の力を封印しているもの。つまりは魔術への興味。セレーネにとっては、これが一番大きなものだった。

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