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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園中等部

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旅行 続・列車編

 セレーネ達がわいわいと談笑している間に、カノンとジーニーが軽食を作っていく。そこにマリアも合流した。


「特に怪しいところは見当たらないです。後ろの乗客までは調べる必要はないですよね?」

「そうですね。本音を言えば調べたいところですが、この車両は鍵を閉められるので、ひとまずはそれで良いと思います。私の耳にも現状異音などは聞こえませんし、クロも何かに警戒する素振りを見せませんでしたから、異常が起こる可能性も低いかと」

「出発前に車両の下部も調べましたが、特に怪しいものはありませんでした。この車両に何かが仕掛けられているという可能性は低いかと」


 マリアがしてくれたように、ジーニーも車両の外側を調べていた。爆弾など仕掛けられているとしたら、外である可能性も否定しきれなかったからだ。その後内部も調べていたので、マリアと合わせて二回調べている事になる。これで見つからないのなら、何もないか余程巧妙に隠されているかしか考えられなくなる。


「じゃあ、やるとしたら機関部とかですかね? あそこに異常が起これば、確実に停まる事になりますし」

「機関部の点検は、念入りにされていると思いますが、そこでも懐柔されていれば変わりますね」


 マリアの話にジーニーが頷いてそう続けた。結局のところ、懐柔されている可能性を考えれば、どの可能性も否定出来ないというところに落ち着く。


「何かあれば、私が一番に気付くと思いますから、お二人はゆっくりしていただいても構いませんよ」

「お嬢様の安否に関わる事ですので、そういうわけにもいきません」

「そうですよ。メイドが三人いれば、どんな事にも対応出来ますよ」

「メイドだけで対応している時点で、私達がおかしいのですけど……」


 ここにいる三人のメイドが全員戦闘可能という事がおかしいのだとカノンは自覚していた。普通のメイドは戦闘などしないからだ。ミレーユに付いているサマンサも戦闘は出来ない。


「さて、マリアさん、配膳をお願いします」

「はい」


 カノンは、出来上がったサンドイッチをマリアに任せて、バーカウンターの中を調べる。怪しいものがないかを調べているというよりも、セレーネが喜ぶ何かがないかを探しているという感じだ。


(移動時間は三時間。直通列車だから、駅に停まる事はない。トイレはあるから、飲食をし続けても問題はない。適当なお菓子をお出しするかな)


 お菓子の袋を見つけたカノンは、セレーネ達が食べ終わるタイミングで、入れ替えるようにお菓子を出す。そして、すぐに洗い物を済ませて、セレーネ達の傍に侍る。

 セレーネ達はお菓子を摘まみながら談笑して過ごしていく。カノン達は、時折セレーネ達から振られる話題に答えていく。そうして一時間半が経過したところで、カノンによる授業が始まった。その理由は、セレーネが受けているカノンの授業にフェリシアが興味を持っていたからだった。シフォンは、入院期間に授業を受けていたが、フェリシアにはその機会がなかった。その分余計に気になっていたのだ。その間、セレーネはマリアの膝枕で昼寝をしていた。

 そして、到着三十分前にセレーネが起きたのと同時に授業が終了した。


「ふぁ~……終わった?」

「終わったじゃないわよ。本当にこのレベルの授業を毎日受けているの?」

「いや、シフォンの護衛とかがあったから、毎日じゃないけど。あっ、でも、その間はミーシャちゃんが授業をしてくれたから、結局変わりないのかな」

「どなたか知らないけど、カノンさんレベルの授業が出来るなら、学園の教師になれるわよ。言ってしまえば、カノンさんの授業は学園レベルよ。下手すれば、一部の教授を超えているわ。ジーニーも分かりやすいけど、カノンさんはより分かりやすいわ」

「恐縮です」


 フェリシアがカノンをべた褒めしているので、セレーネは得意げに胸を張っていた。それを見て、フェリシアはジーニーを見る。


「ジーニー、次から授業の時間を延ばすわよ。私もセレーネに追いつきたいわ」

「では、美容と入浴の時間を減らしますか?」

「…………」


 ジーニーの提案に、フェリシアは固まった。この二つの時間はフェリシアが大切にしている時間だったからだ。フェリシアの頭の中で、どうするべきか高速で思考していく。

 フェリシアが硬直している間に、セレーネは少し気になった事があったので、ジーニーの事を見る。


「美容の時間って何?」

「肌の手入れをするのです。手入れと言っても、子供のうちですので、保湿などの簡単なものですが。お嬢様は、貴族としての嗜みを身に着けるおつもりでやっています」

「う~ん……そんな事したっけ?」


 自分で美容に気を遣った覚えのないセレーネは、カノンに確認する。それを受けたカノンは、苦笑いで答える。


「お嬢様が気にしておられないだけで、私がクリームを塗っていますよ」

「あぁ~」


 そう言われて、セレーネは自分がぼーっとしている間にされている事を思い出した。基本的に身体を拭いて服を着るまでは、されるがままになっているので、特に気にしていなかったのだ。


「それを念入りにしているというだけですね。どちらかと言えば、入浴の時間の方が長いです。お嬢様は長風呂ですので」

「ふ~ん、そっちは分かるかも。私もお風呂は長いし。シフォンは?」

「わ、私……? わ、私はそこまででもないかな。温まったって思ったら出ちゃうかも」

「へぇ~、フェリシアと一緒に入らないの?」

「う、うん……ジーニーさんが一緒に入ってるから……」

「そうなんだ。うちは皆で入るけど。お姉様とは二人で入る事が多いかな。二人きりの方が甘えられるし」


 両手を頬に当てて身悶えるセレーネに、シフォンは苦笑いする事しか出来ない。どこまで触れていいものか分からないからだ。


「セレーネは、本当にテレサ様が好きなのね」


 代わりに再起動したフェリシアがツッコミを入れた。それに対して、キラキラした笑顔になったセレーネは熱の入った返事をする。


「大好き! お姉様が一番好き! 二番はカノンで、三番はマリアとお母様! フェリシアとシフォンは別枠かな」

「三……番……目……!?」


 さりげなく三番目と言われたマリアがショックを受けていた。だが、マリアも思い返してみれば、空白の期間があったので仕方ないのかと少し受け入れてしまっている自分もいた。それでもやはり二番目くらいにはなりたいとも思っていた。


「私達は別枠なの?」

「うん。友達としての好きだったら、二人とも一番だよ」

「えっ、さっきの枠は?」

「一緒に暮らしたい枠かな」


 セレーネがニコニコと笑いながらそう言っている裏で、カノンとマリアは、心の中で全く同じ事を思っていた。


(旦那様は呼ばれなかったな……)


 特に嫌われているわけではないが、こういう時に全く名前を呼ばれないラングリドなのであった。

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