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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園中等部

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圧倒的戦力による制圧

 街の治安を維持する衛兵達とリーシア、ミーシャ、ナタリアを加えた戦力で、襲撃犯のアジトへの襲撃が行われる。リーシア、ミーシャ、ナタリア、ベネット、ライルの五名で人身売買組織のアジト、残りの衛兵達でもう一組織のアジトを襲撃する。

 リーシア的には、この五名だけでも過剰戦力だと思っていた。実際、アジトを壊滅させるだけなら、ベネット一人だけでも問題はないだろうからだ。

 人身売買組織のアジトは、王都郊外の森の中にあった。


「森の中にアジトを置くなんて……」

「木々によって、視界が悪いので、森に合せた色の服を着ていれば、紛れ込みやすいのです。この組織のアジトは大体森の中か街の下水道の中などですね」

「そもそも人身売買なんて儲かるのか?」

「馬鹿ね。儲からないなら組織自体存在しないに決まってるでしょ。その残念な頭をもう少しマシにするつもりはないの?」

「うるせえ。俺は肉体で語る派なんだよ」

「はっ! 野蛮な動物ね」


 ベネットとナタリアの言い合いに、ライルは頭を抱えていた。そんな事には気付かずに、ベネットとナタリアの言い合いは続いている。


「はぁ……こんな状態で大丈夫なのか……」


 険悪状態で戦闘に入って、本当に大丈夫なのか心配になっているのだ。下手すれば、仲間割れが始まる可能性があるからだ。


「大丈夫です。案外、戦闘になれば変わるものですから」


 そんなライルの肩を軽く叩いてリーシアが言う。真祖であるリーシアが言う事によって、多少の説得力があった。


「それに、戦闘時も馬鹿みたいに足を引っ張り合うようでしたら、私がお仕置きしますから」

「あ、はい」


 自分の先祖の恐ろしい一面を垣間見たライルは、セレーネにはお淑やかに成長して欲しいと願った。既にお淑やかから程遠く育っているので、この願いが叶う可能性は限りなく低かった。

 そんな調子で森の中を歩きながら、ライルは手を鳴らして、全員の注目を集める。


「この先の森の崖に洞窟がある。アジトは、そこから入るようだ。暗闇である事が予想される。灯りの用意をしつつ、内部の敵を殲滅。出来れば、何人か動けない状態で生かして貰えると有り難い。目的は、内部にある情報だ。情報がなくなるような魔術は避けて欲しい」


 ライルが今後の動きを説明した。それに対して、全員が頷く。それぞれ理由は違えど、今回の事件を解決しようという考えは同じだからだ。ライルが先導していき、森の中にある洞窟近くに着いた。


「洞窟の中に、二十人いますね」

「一箇所に固まっているところから考えるに、何かしらの会議をしているみたい。仲間が帰ってこないから、今更慌てて作戦会議をしているというところかな」

「ここから拘束出来ないのか?」

「内部の構造は把握出来てるけど、ここから書類とかに被害を出さないように拘束するのは難しいに決まってるでしょ。全員おびき出す方が楽」

「では、それでいきましょう。皆さん、耳を塞いでおいてください。ナタリアさん、合せられますか?」

「え? ああ……そういう事。まぁ、それなら中に入って戦闘する必要もないか。いつでも良いですよ」


 ライルは少々困惑していたが、すぐに耳を塞ぐ。ベネットは、何も疑問を持たずに耳を塞いだ。この状況をどうにか出来るのなら、任せた方が楽だからだ。


「では、今!」


 リーシア、ミーシャ、ナタリアは、同時に振動魔術【音響爆発(おんきょうばくはつ)】を洞窟の入口の中から使う。同時に、リーシアとミーシャで【無振動壁(むしんどうへき)】を入口前に張る。

 【音響爆発】は、空中の一点から音波を発生させるもの。【無振動壁】は振動を止める壁を生み出すもの。つまり、【音響爆発】の影響を自分達に及ばせずに、敵にのみ与えたのだ。

 【音響爆発】を三人同時に使用する事で、その音波を強くしている。加えて、洞窟という事もあって、音波の逃げ場はなく、内部にいる人身売買組織の組員達は物理的に飛ばされながら、聴覚を失い、脳も揺らされて倒れていく。


「…………俺達がいる必要ありました?」


 ベネットはそう言わざるを得なかった。魔術師である三人で、簡単に制圧出来ていると考えられるので、自分達がいなくても問題なかったとしか考えられなかった。実際、制圧自体終わっているので、ベネットの感覚は正しい。それでも、ライルは頷かなかった。


「騎士を目指すって事は、大体こういう事だ。だが、俺達に仕事がないわけじゃない。洞窟内では、俺達が前後を固めて動く事になる。剣であり盾である。忘れるな」

「うっす」


 ベネットが前、ライルが後ろに位置し、洞窟内に入っていく。リーシアとナタリアの指示で動いていくと、二十人が気絶している部屋に来た。若干荒れているが、全員が無力化されており、情報に繋がりそうなものも無事だった。

 ミーシャ、ナタリアで拘束していく中で、リーシアが書類を集める。その間、ベネットとライルは周囲の警戒をしていた。


「なるほど。抜け目のない組織ですね」

「何か情報が?」

「はい。やはり貴族と繋がっていたようです。大体は子爵以下のようですが、思ったよりも多いですね。貴族が出資する理由……人を買うではなく売る方に協力しているという事かもしれませんね」

「組織の大元に繋がるようなものはありますか?」

「……ここには置いてませんね。他の場所にある可能性がありますが、正直期待は出来ません。ここまで潰したアジトの中にも大元に繋がる情報はありませんでしたから。恐らくは、紙などの情報が残る連絡手段を用いていないのでしょう。ですが、セレーネが関わる事件を解決する情報は、まだありそうですね。調べて行きましょう」


 一切の身動きを封じた組員達をミーシャに任せ、リーシア達は洞窟内を調べて行く。そこで、人身売買組織と貴族の繋がりに加えて、今回のシフォン襲撃事件に関与した貴族の情報も手に入れる事が出来た。貴族側は、証拠を握り潰したつもりだったが、人身売買組織は、その証拠を保管していた。後々に貴族を脅すために保管していたものと見られる。


「これで情報は全部のようですね」

「では、帰還しましょう。情報の精査をしないといけませんので」

「そうですね……いえ、私とナタリアさん、ベネットさんは、もう一つの組織のアジトに行きましょう。ミーシャ、後はお願い」

「かしこまりました」

「お気を付けて」


 こっちが早く終わったので、もう片方の援軍としてリーシア、ナタリア、ベネットが向かう。これに関しては、ライルも意図を理解出来ていたので、すんなりと見送った。そして、拘束した組員をミーシャが魔術で引き摺りながら、王都へと帰還していく。

 もう片方のアジト襲撃は、少しだけ苦戦していたが、援軍として現れたナタリア、ベネットの手で制圧する事が出来た。リーシアは、ただ二人を見守っていただけだった。二人の経験になるだろうと判断した結果だ。

 情報を集めるのは衛兵に任せて、リーシアは王立病院へと向かう。それにナタリアも同行した。ベネットは、衛兵としての仕事が残っているので、ここで別れる事になる。

 こうして、圧倒的戦力によるアジト襲撃が終わった。それは、シフォンを襲った事件の解決が近くなっている事を示していた。

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