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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園中等部

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次代の賢者

 翌日。テレサの胸の中で目を覚ましたセレーネは、寝ぼけながらテレサに抱きつく。


「おはよう、セレーネ」

「おはよう、お姉様……」

「マリアはもう起きて本邸で仕事をしているわ。それと、私とセレーネは、しばらく外出禁止よ。今回の襲撃の犯人が分かるまでは、昼間でも同様の事が起きる可能性があるからみたいね」

「病院は……?」

「駄目よ」

「むぅ……」


 シフォンの見舞いに行けないという事なので、セレーネが不機嫌になる。それに対して、テレサは、セレーネを抱きしめた。


「仕方ないわ。私も襲撃犯も派手にやり過ぎてしまったのよ。でも、これは、こっちに有利に働くはずよ。既にお父様が王城に知らせているはずだから」

「ふ~ん……じゃあ、お姉様といる」

「分かったわ。じゃあ、取り敢えず顔を洗うわよ」

「うん!」


 テレサと一緒にいられると分かったセレーネは、テンションが上がっていた。そんなセレーネを受け止めながら、テレサにとっても少し窮屈な生活が始まる。


────────────────────


 セレーネ達が屋敷で過ごしている間に、ラングリドは衛兵の詰め所に来ていた。そこには、ラングリドの息子で、セレーネとテレサの兄であるライルもいた。


「父上」

「ライル。どうだ?」

「こいつらから直接的な情報を得るのは難しい。契約魔術で縛られているようだ。契約を破棄させると死ぬ仕様になっていて、契約も破棄出来ない。だが、面白い情報は手に入った。こいつらのアジトの情報だ。どうやら、襲撃を行ったのは二つの組織のようだ。その内一つは、セレーネを誘拐した人身売買組織だ」

「何?」


 ラングリドの表情が険しくなる。愛娘であるセレーネを誘拐した人身売買組織は、ラングリドにとって滅ぼしたい存在だったからだった。


「特定したアジトへの襲撃作戦を進めているところだ」

「それならちょうど良かったです」


 二人が話しているところに、女性の声が交ざった。その声の方を見たラングリドが固まる。


「リ、リーシア様。何故、ここに……」


 やって来たのは、ミーシャを連れたリーシアだった。


「セレーネを誘拐した人身売買組織のアジトを落として回っている途中で、気になるものを見つけたのでお届けに来ました。ミーシャ」

「はい」


 ミーシャは、ラングリドに紙の束を渡す。ラングリドは、すぐに紙の束に目を通す。


「これは……経理の報告書?」

「はい。几帳面に纏めている方がいらっしゃったようですね。挽肉になりましたが」


 笑顔でそう言うリーシアに、ラングリドは乾いた笑いしか出せなかった。そんな中でも収支の欄に目を通していく。


「この報告……なるほど。これだけでも攻められそうだが、件のアジト襲撃で駄目押しの一手を見つけられるかもしれん。ライル、頼んだぞ」

「ああ」

「おっ! すいませ~ん! ちょっと良いですか?」


 ラングリドとライルが話していると、鮮やかな黄色い髪をツインテールにした黄色の瞳をしている少女が歩いてきた。その手には杖が握られているが、それ以上に目立つ特徴があった。それは、耳が尖っているという事だ。それは、エルフ族の特徴。その事にラングリド達も気付いた。そして、その人物についても気付いたのは、ライルだけだった。


「ナタリア・レモン」

「あれ? お会いした事がありましたっけ?」

「いや、だが、君は有名だからな。次代の賢者。アカデミーの魔術研究学科に進学しながら、魔術研究所に所属する研究者になっている。そして、既にいくつかの成果を上げているとも聞いている。そんな、君がどうしてこの詰め所に来たんだ?」


 本来、ナタリアが衛兵の詰め所に来る事はない。そもそも業務の内に入っていないからだ。用がある理由は、街の治安に関わる事件に巻き込まれた可能性くらいだ。


「ああ、この手紙を貰って、衛兵に協力するように言われました。私、一応冒険者として登録しているので」

「手紙?」

「ええ。あの子からのお願いは、基本的に聞くことにしていますから」


 恍惚とした表情でそう言うナタリアを見ながら、ラングリドは、ライルに耳打ちする。


「信用出来るのか?」

「ああ。信用は出来るはずだ」


 ライルからそう言われると、ラングリドは受け入れた。


「では、任せる。私は、これの書類から情報を出来る限り引き出す。こちらは、私の方で預かって宜しいですか?」

「はい。構いませんよ。私は、こちらに協力しましょう。セレーネが危ない目に遭うのは、私としても不愉快ですから」

「助かります。では、私は一度屋敷へと戻ります。ライル、頼んだぞ」

「ああ」


 ラングリドは本邸へと帰って行った。ライルの方は、詰め所の中で衛兵達に説明をしに向かって行った。そうして、残ったのは、リーシア、ミーシャ、ナタリアだけだった。


「放置されると、どうすればいいのか分かりませんね」


 ナタリアから、二人に話題を振る。


「そうですね。ここに立っていても仕方有りません。受付近くにソファが置かれていますから、そこに移動しましょうか」

「そうですね。それにしても、クリムソン家の当主と吸血鬼族のあなたは、一体どういう関係なのでしょうか?」


 ナタリアは、微笑みながら訊く。これに対してリーシアも笑顔で答える。


「さすがは、エルフ族にして次代の賢者と呼ばれるだけはありますね。吸血鬼族と普通の人族は、見分けが付きにくいはずですが」

「そうですね。普通に見ればそうですが、よく見れば分かります。私は、基本的に人を信用しませんから」

「なるほど。手紙の主は、別のようですが」

「勿論! 当たり前でしょう! あの子からの命令なら何でも聞きますとも! この世界を滅ぼせと言われたら滅ぼしますとも!」

「実際に出来そうですので、冗談と切り捨てられませんね」


 血走った目でそう言うナタリアに、リーシアは少しだけ引いていた。永い時を生きたリーシアでも、ここまでのエルフには出会った事がなかったからだ。


「それで、結局あなた方は何なんですか?」


 ナタリアは改めて問う。本当の意味での信用はしないが、それでも疑いの一つでも解消出来ているのと出来ていないのでは、雲泥の差がある。これから行動を共にする可能性があるため、ここではっきりとさせたい事でもあった。


「あの子達の先祖です。遠い昔に交わりました」

「そうですか。未だに家に関わろうと?」

「そこまで話す事は出来ません。クリムソン家に関わる事ですので。あなたも家の事を聞かれるのは困るでしょう?」

「…………そうですか。分かりました。あの方々の態度からも、それが嘘ではないのだと分かります。悪人だと疑ってすみませんでした」

「いえ、構いません。ですが、一つだけこちらの疑問に答えて頂けませんか?」

「良いでしょう」

「あなたの手紙の主とは誰のことなのでしょうか?」


 リーシアとしては、この偏屈なエルフが全面的に信用して偏愛している者に興味があった。


「言っても分からないでしょう。私の同級生で、全てを捧げたい相手です。あの子になら、この身体の全てを捧げても良い。いや、私の心や魂までもあの子に捧げたい……」


 再び恍惚な表情になっていくナタリアに、リーシアは引き気味になる。


「おう! ナタリアじゃねえか?」


 そんなところにベネットがやって来た。その姿を見たナタリアは、あからさまに嫌そうな顔で舌打ちする。


「ベネットか……何でこんなところにいるんだか」

「そりゃあ、騎士養成学科の実習だからな。お前こそ、なんでここにいるんだ?」

「カノンに力を貸して欲しいって言われたの。てか、あんたがいるなら、別に平気なんじゃないの?」

「どうだろうな。物理で解決出来るなら、俺だけで良いかもしれないが、魔術面で何かあれば、お前がいた方が良いんだろう」

「そう」

「相変わらず、カノン以外には冷たい奴だな。カノンに嫌われるぞ」

「あの子が私を嫌いになるはずないでしょ!! 燃やし尽くすわよ!!」


 烈火の如く怒るナタリアに、ベネットは呆れ顔になっていた。そんな二人の言い合いを見ながら、リーシアはナタリアの口から出て来た名前を聞いて納得する。


「なるほど。カノンさんが関わっていたのなら、あの子が来たのも頷けるわね」

「はい。セレーネ様のためですね」

「ええ。カノンさんが動くとしたら、セレーネのため以外には考えられないから」


 衛兵の詰め所に戦力が集まり、襲撃犯アジト襲撃の時が近づく。セレーネの知らぬところで、圧倒的戦力による一方的襲撃が始まろうとしていた。

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