襲撃の終わり
ベネットを見送ったセレーネ達は、衛兵に門を任せて、本邸の中に入っていく。すると、すぐにクロがセレーネに飛びついた。
「にゃっ!」
「クロ。皆は無事?」
「にゃ~」
セレーネが撫でながら訊くと、クロは頷いて答える。そこにラングリドとミレーユが来る。
「セレーネ! テレサ!」
ミレーユは、セレーネとテレサに駆け寄って抱きしめる。そして、その隣にいるマリアの頭を撫でる。
「まずは、二人とも無事で何よりだ。自分を囮として使用人を守るという判断は見事だったな。だが、それだけ危険な橋を渡っているという自覚は持て。セレーネとマリアの二人では危ないだろう。クロに乗れば、更に安全になったはずだ」
「その分、皆が安全になるから」
「はぁ……まぁ、そうだな」
セレーネの考えは正しいので、ラングリドとしても強くは言えなかった。実際、そのおかげで、別邸にいた使用人達は全員無事に本邸へと着いていた。
セレーネに言いたい事は言ったので、今度はテレサの方を見る。
「テレサ……いつの間に抜け出したんだ?」
「いつも普通に抜け出しているわ」
「いつ……全く……夜の一人歩きは危険だろう」
「そのおかげで、セレーネを守れたのだから良いでしょう。それで、今回の襲撃を指示した人の見当は付いているの?」
テレサは、ラングリドの苦言を受け流して訊く。そんなテレサに、ラングリドは諦めのため息をつく。
「はぁ……付いてはいても捕まえるだけの証拠がない。今回の襲撃犯は生かしてあるのか?」
「次代剣聖が手加減して腱を斬っただけのと私が四肢を落としたのがいる。傷口を焼いてあるから、運が良ければ生きていると思うわ」
「そうか……そこから情報を繋げられるかもしれないな。取り敢えず、ここの警備は、こっちに任せて、お前達は部屋にいなさい。マリアとクロもだ」
「うん」
クロがセレーネを背中に乗せて、テレサの先導で本邸を移動していく。それを見送ったラングリドは使用人に指示を出して、テレサの部屋周辺の警備を固めさせた。
「あなた……大丈夫でしょうか?」
「衛兵部隊が、周辺を警戒している。何かあれば、私も即座に動けるようにする。ミレーユも今日は休め」
「はい。お気を付けて」
自分が邪魔にならないように、ミレーユも自分の部屋へと戻っていく。ラングリドも自分の執務室に戻り、今後の事を考えて準備を進めていく。
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テレサの部屋に来たセレーネとマリアは、服を着替えていく。ここに来るまでに、外を走り回っていた事もあり、セレーネとマリアにテレサが服を貸しているのだ。
「ぶかぶか~」
「そうね。躓かないように気を付けなさい」
テレサはそう言いながら、セレーネのズボンの裾を折っていく。それに対して、マリアが、少しおどおどとしていた。
「テレサ様、私がやりますので……」
「良いのよ。妹の世話も出来ないで、姉なんて言えないわ」
セレーネが動きやすいようにしたテレサは、セレーネを抱き抱えると、ベッドまで連れて行き寝かせる。そして、自分で裾を折っているマリアの元に移動して、裾を折っていく。
「テ、テレサ様……」
「良いのよ。こっちの方が早いわ。二人とも疲れているでしょう。クロはそっちのソファで寝なさい」
「にゃ~」
クロは言われた通りに、ソファで横になる。そして、マリア、セレーネ、テレサという順番で横になる。
「無駄に大きなベッドで良かったわ。三人で寝ても大丈夫ね」
「へへ、お姉様くっつこ!」
「はいはい。分かったわ」
セレーネがテレサにくっついて嬉しそうにしている。そんなセレーネの頭を、テレサは優しく撫でる。
「ねぇ、お姉様。本当に寝て大丈夫かな?」
セレーネはテレサの胸の中でそう訊く。先程の襲撃などがあり、セレーネも心配になっていた。
「大丈夫よ。ここにはクロもいるわ。何かあれば、クロが起こしてくれるはずよ」
「にゃ~」
「ほらね」
クロの返事を聞いたセレーネは、少し安心する。そして、テレサにくっついたまま眠りに就いた。テレサは、セレーネの肩まで掛け布団を掛ける。
「マリアも寝ておきなさい。ここの警備が厳重だから大丈夫よ」
「はい。おやすみなさい」
「ええ、おやすみ」
マリアも目を瞑ると、すぐに眠った。ここまでの移動でかなり疲労していたので、気絶するように眠ったのだった。二人が眠りに就いたのを確認してから、テレサも眼を瞑り眠りに就く。
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セレーネ達が襲撃されている中。シフォンの病室にいるカノンは窓から外を見ていた。
「派手にやり過ぎのような……いや、お嬢様やフェリシア様が無事ならそれで良いのだけど……」
カノンは、自分の耳に聞こえてくる微かな魔術の音を聞いて、実際に襲撃があったのだと気付いた。だが、自分はシフォンの病室から動く事は出来ない。この襲撃に紛れて、病院を再び襲撃してくる可能性を否定しきれないからだ。
「んん……」
「!?」
呻き声を聞いて、即座にカノンはシフォンの元に駆け寄る。
「シフォンさん?」
「う……あ……」
シフォンは、ゆっくりと目を開ける。そして、カノンを見る。まだ目は薄らとして開いていないが、それでもカノンを認識していた。
「あ……お……う……あ……」
「意識が戻ったようで、良かったです」
カノンは、すぐにナースコールを押す。これによって、ナースステーションに連絡が届く。そして、一分もしないうちに医者と看護師が入ってきた。
医者は、シフォンの様子を確認する。
「取り敢えず、このまま意識が覚醒していくのを待ちましょう」
「分かりました。来て頂きありがとうございます」
「仕事ですから。今後の治療ですが、定期的に体力回復の魔術を掛けます。その後、検査をして問題がないことを確認した後、リハビリをしていく事になるでしょう」
「分かりました」
「では、失礼します」
医者が病室を出た後、カノンはシフォンの横に椅子を置いて座る。シフォンは、ゆっくりとカノンを見た。すぐに、カノンも気付く。
「今は眠っても大丈夫ですよ。シフォンさんの身に起こった事などは、シフォンさんがお元気になってからにしましょう。今は、ただ回復に専念してください」
「あ……う……」
シフォンは、本当にゆっくりと頷くと、目を瞑った。それを見たカノンは、小さく微笑む。シフォンの意識が戻った事。それによって、セレーネが喜ぶだろうと思ったからだ。だが、すぐに表情を引き締める。
(シフォンさんが目を覚ました。この事が外に漏れるのは時間の問題。対処は、旦那様が主導でやって頂いているはず。後は、もう一手打っておきたいところですね)
カノンは、近くにあるテーブルに向かって手紙を書いていく。そして、病室の扉を開けて、近くにいる衛兵を呼びつけた。
「すみません。この手紙を届けて貰いたいのですが」
「俺達は配達員じゃないんだが?」
衛兵は眉を寄せながらそう言う。だが、手紙に書かれている宛先を見て驚愕する。
「…………わ、分かった。届けよう」
「お願いします」
衛兵はカノンに頭を下げると、そのまま手紙を届けに向かう。
(使える伝手は使わないとね)
カノンは、窓に手を当てながら窓の外を見る。そして、目を閉じて祈った。セレーネの無事を。




