続・別邸襲撃
テレサとマリアは、本邸への道をただ歩いている。その間に、セレーネもテレサからの吸血を終えていた。
「テレサ様。急がなくても良いのですか?」
普通に散歩するような遅さなので、マリアも進言せざるを得なかった。それに対して、テレサは頷いてから答える。
「良いのよ。敵をおびき寄せるのに必要だわ。セレーネには悪いのだけどね」
「ううん。それで良いよ。まだキリル達も避難出来てないでしょ?」
「ええ。別邸から避難してきたという報告はなかったわ。それよりも前に出たから、すれ違いになっていた可能性はあるけれど」
「ん? お姉様、私達が襲われているって、何で分かったの?」
自分でキリル達の避難が終わっていないと言っていたが、セレーネはテレサがどうやって自分達を見つけたのか疑問に思った。
「ただ個人的に見回りをしていただけよ。下手すれば、セレーネ達が襲われる可能性があったから」
テレサは、本当にそれだけの理由で個人的に別邸周辺を見回りしていた。
「見回りにしては、別邸から結構離れているような……」
「大体半径二キロ程度よ」
「え……」
考えていたよりも、遙かに広い範囲を見回りしていたので、マリアは少し驚いていた。
「ここに来るまでに、さっきの集団とは出会わなかったから、本当にセレーネを狙ったものと考えて良さそうね。セレーネの事情は聞いているわ。友達のために怒れるのは偉いわね」
「うん!」
テレサに褒められたので、セレーネは満面の笑みで頷いてテレサに抱きつく。テレサは、損なセレーネの頭を優しく撫でる。
「セレーネが狙われているという事は、フェリシア様も……」
「ウルトラマリン家も狙われている可能性はあるわね。あちらは、本邸に住んでいるはずだから、そこまで心配する必要はないと思うけれど」
「そうなの?」
「そうよ。本邸と別邸を比べれば、警備の厳重さは明確な差が出るわ。お父様は、別邸の方を厳重にしようとしていたみたいだけど、さすがに駄目だと言われたみたいね。お父様が亡くなれば、クリムソン家がひっくり返る事になるから」
そう言われて、セレーネも納得した。ラングリドが亡くなれば、後を継ぐのはライルになる。ライルが無能という訳では無い。問題は引き継ぎが出来ない事だ。なので、ラングリドには、ライルへの引き継ぎを終えるまでは死んで貰っては困る。これによって、本邸の警備は別邸よりも遙かに厳重となる。これは、ウルトラマリン伯爵家でも同じ事だ。
「お姉様。私も戦うよ」
「駄目よ。セレーネは大人しくしていなさい。敵の狙いはセレーネなのよ。下手にセレーネが攫われる危険を増やしたくないの」
「むぅ……」
「いくらセレーネでも、この我が儘は聞けないわ。ちゃんと言う事が聞けたらご褒美に何かしてあげるから、大人しくしなさい」
「むぅ……じゃあ、一週間一緒に寝て欲しい」
「分かったわ」
妹の可愛らしいお願いを、テレサは快諾する。おかげで、セレーネは大人しくテレサに抱かれていた。そこに、再び賊が集まってくる。
「一体何人いるのでしょうか……?」
「本当に大きな組織が関わっているようね」
テレサが【風刃】で斬りつけようとした瞬間、賊の奥から走ってくる人影が見えた。その人影は剣を握っており、その表情は雄々しい笑みを浮かべていた。そして、賊を背中から斬る。
「ぐあっ!?」
「な、何だ!?」
賊達も突如現れた助っ人に驚きを隠せなかった。
「あっ、カノンのクラスメイト」
「ベネット・アッシュね」
「おう! 嬢ちゃん、無事か?」
「うん」
「そいつは良かった。家に帰るところだろ? 護衛するぜ」
そう言いながら、ベネットは次々に賊を斬り伏せていく。それに続いて、テレサ、マリアも賊を倒して行く。そうして、ベネットが完全に合流すると、賊は一切近づけなくなり、次々に倒れていった。
「あんたやるな!」
「どうも」
ベネットはテレサの戦い振りを見て褒める。それに対して、テレサは平然とそう答えた。
「私のお姉様だもん!」
寧ろ、セレーネの方が誇らしげにしている。
「ほう……ん? どっちの意味のお姉様だ?」
「お嬢様の姉君です」
「おぉ……そうだったのか」
「気にしないから、普通に話して良いわ。戦闘中は時間の無駄になるでしょう?」
「おう。同意見だ」
平然とそう言うベネットに、マリアは眉を顰める。そんなマリアの頭をテレサが撫でる。それは言外に今は気にするなという事を伝えていた。
「ウルトラマリン家は安心しろ。周囲の敵は全滅させておいた。増援が向かっている可能性もあるが、ウルトラマリン家の方で衛兵を呼んでるはずだ」
「フェリシアも襲われたの?」
「いや、メイドが一人で戦ってたな。内部の警備を厳重にして一人で迎撃していたみてえだな」
「ふ~ん……メイドは無事?」
「おう。あれだけ強いメイドはそうそういないだろうな」
セレーネが知っているウルトラマリン家のメイドはジーニーだけなので、きっとジーニーが頑張ったのだろうと考えていた。
こんな無駄話をしている中でも、ベネットは余裕で賊を斬り伏せていく。それを見て、マリアはベネットが口だけの人間ではないという事を認識した。
「何人か息の根は止めてねえが、構わないか?」
「せめて動けなくしておいて。逃げられるのが一番困るのは、そっちもでしょう?」
「そうだな」
ベネットは淡々と賊の手足の腱を斬る。テレサも同じだが、相手の今後の人生などは全く考えていなかった。ベネットの場合、回復魔術でどうにかなる可能性は残る。テレサは、それすらも奪っているという点が二人の違いだろう。
ベネットを加えての移動は、順調そのものだった。わざと歩いている事を察したベネットは何も言わずに一緒に歩いている。襲撃の頻度はかなり少なく、人数も激減していた。それだけ向こうの人材を削れている事を示していた。
そして、もうすぐ本邸というところで、衛兵の集団に遭遇した。
「ベネット! お前な!」
「いやぁ~、非番の時に襲われている人が見えてしまって、身体が動いちゃいまして」
「ったく……事情が事情だ。反省文と減給で済むようにしてやるが、今後は俺達にも事情の説明はしておけ」
「それでも上が許してくれないでしょう?
「馬鹿が。お前が抜け道を使っているように、俺達もある程度なら抜け道を使えるに決まってんだろ。現場の人間舐めるな!」
ベネットが先輩衛兵に拳骨を食らう。頭を押えるベネットを放っておき、衛兵の一人がセレーネの方にやって来る。
「セレーネ・クリムソン様とテレサ・クリムソン様ですね?」
「うん」
「ええ」
「ご無事で何よりです。ここからは衛兵の護衛を付けます。そのまま本邸へとお戻りください。我々は、この先に転がっている襲撃犯達の逮捕に動きます」
「よろしく。この先に奥の方は四肢が落ちてるから」
「分かりました。では、失礼します。第二分隊は護衛に残れ。ベネット、お前は護衛を終えた後、ウルトラマリン家へと向かえ。ここまで関わったんだ非番だからとは言わせん。その分の給料は出してやる」
「うっす」
ベネットの先輩衛兵は、そのまま倒れている賊の回収へと向かった。それを見送って、セレーネ達も本邸へと向かう。衛兵による護衛があるからなのか、そこからの襲撃はなかった。
「んじゃ、俺は言われた通りにウルトラマリン家に行ってくるぜ」
「うん。助けてくれてありがとう。気を付けてね」
「おう。嬢ちゃんもな」
そう言ってベネットはウルトラマリン家へと向かって行った。




