別邸襲撃
ウルトラマリン家襲撃の少し前。セレーネとマリアは、お風呂を済ませて、クロと一緒に遊んでいた。その中で、急にクロが止まる。
「クロ? どうしたの?」
「にゃ~」
「何かあったの?」
「にゃ~」
クロは頷いて答える。それを見たマリアは、即座に窓を見る。すると、窓を割って黒ずくめの賊が侵入してきた。部屋に着地したのと同時に、クロがタックルして壁に叩き付けた。
「がはっ!?」
「クロ、ナイス!」
クロが後ろに退いたのと同時に、マリアが雷魔術【雷撃】を放つ。稲妻が魔術陣から稲妻が発生し、賊の心臓に命中すると大きく身体が跳ねて動かなくなる。
「クロ、セレーネの傍に。セレーネは、私の後ろにいて」
「にゃ~」
「うん」
セレーネはマリアの後ろに隠れる。それと同時に賊が窓から三人入ってきた。そして、着地する前にセレーネが放った【水刃】が賊の一人を襲う。
「ぐっ……」
脇腹を斬った【水刃】は、そのまま壁に当たって終わるはずだったが、その壁に反射して背後から賊の脇を斬り裂いた。
「セレーネ! 構わず撃って!」
「うん!」
マリアにそう言われて、セレーネは次々に【水刃】を放っていく。セレーネが放つ【水刃】は、賊達を斬り裂き、壁に命中すると反射して再び賊を襲っていった。
「どうなってるの?」
「【反射】っていう魔術。範囲は小さいけど、触れた魔術を跳ね返す事が出来るの。角度とかは自分で調節しないといけないんだけどね」
「へぇ~、知らない」
「まぁ、難しい魔術だからね」
自分で難しいと言う魔術を無詠唱で扱えている時点で、マリアの力量が窺える。クロは、セレーネの【水刃】が飛び交う中を突っ切って、セレーネに接近しようとしていた賊を吹っ飛ばしていた。牙や爪による攻撃も凶悪だが、クロ自身の体重を使ったタックルも同じくらいに凶悪だった。
そうして七人の賊を倒したところで、新たに侵入してくる賊がいなくなった。それと同時に、部屋の扉が勢いよく開く。
「お嬢!」
「キリル、大丈夫?」
「いや、こっちの台詞っすよ。お嬢達は無事そうっすね」
キリルが握っている剣には、血が付着している。ここまで戦闘があったという事が分かる。
「侵入された?」
「ええ。五人程倒したところっすね。ここは、一旦本邸に避難しやしょう」
「外に出るの? 危なくない?」
「俺達だけ生き残るなら、それでも良いっすけど、ここには非戦闘員が多いっすからね。全員を避難させるついでに、本邸に移動する方が良いって事っす」
別邸が襲撃されている以上、そこで働いている他のメイドと執事達も危険に晒される。そこを守るには、本邸に向かい警備を増やすのが良いとキリルは判断していた。
「皆を犠牲にはさせられないもんね。クロ、キリルと一緒に皆を護衛して。私とマリアは、二人で本邸まで移動するよ」
「お嬢……」
キリルが顰めっ面になる。これは、セレーネ達を囮に、メイド達を避難させようという提案に他ならないからだ。
「私達は真祖と眷属だから、死ぬ確率は低い。そして、奴等の狙いは私である可能性が高い。そうなれば必然的にこうする方が良いでしょ?」
「お嬢を危険に晒す事なん出来る訳がないでしょう」
「大丈夫。それよりも私のせいで犠牲者が出る方が嫌だから。私だって、クリムソン家の娘だよ。自分の使用人くらい守らないと」
こう言われると、キリルも強く出る事が出来ない。セレーネがこう言う理由はよく分かっている。だからこそ、無下にする事が出来ないのだ。
「分かりました。全員を避難させ終え次第、俺も合流します。本邸の場所は、マリアが分かっています。俺達は最短ルートで行きますので、お嬢達は迂回路を選んでください。絶対に無理はしないように。危険と判断したならば、即座に最短ルートに入ってください。いいですね?」
キリルは真面目な口調になって言う。それだけキリルが真剣だという事がセレーネにも分かった。
「うん。分かった。キリル達も気を付けてね。クロもだよ」
「はい」
「にゃ~」
セレーネはクロを撫でてから、マリアと手を繋いで駆け出す。それを見送らずに、キリルとクロも動き出した。
「セレーネ走れる?」
「うん。カノンみたいには無理だけど走れるよ」
「じゃあ、このまま行くよ。迂回路は頭に入ってるから」
「うん!」
セレーネとマリアは、本邸までの道を大きく迂回しながら移動していく。その中で、セレーネ達を追ってきている影があった。
「マリア!」
「分かってる!」
マリアは、セレーネを引っ張ってお姫様抱っこしながら走る。
「これで狙える?」
「うん!」
セレーネは、【水刃】を連続で放っていく。賊達は、【水刃】を避けていく。狭い場所であれば、セレーネでも当てられたが、こうして広い場所に出れば、相手も避けるための空間があるので、命中率が落ちる。
「『咲け水の花・纏わり・阻み・拒め』」
セレーネの魔法陣から水で出来た睡蓮の花がいくつも出て来る。その睡蓮の花に触れてしまった賊は、水が身体に纏わり付いていく。水は口も塞ぎ呼吸すらも出来なくなっていた。水魔術【水蓮花】。触れた対象に纏わり付き溺死させる事も出来る。
賊達は、【水蓮花】を避けるように移動しなくてはいけない。そのため、セレーネの【水刃】が命中しやすくなった。それでも避けられる確率の方が高い。
「ごめん、マリア。私の魔術じゃ倒せないかも」
「足止めだけで良いよ。最終的には、本邸に入って殲滅すれば良いから。本邸の警備は、別邸よりも厳重だからね」
「ふ~ん……まぁ、お父様が住んでるからね。『咲け水の花・纏わり・阻み・拒め』」
セレーネは、【水蓮花】と【水刃】のコンボで賊を足止めしていく。
「カノンさんがいれば、もう少し違うんだけど……」
「呼ぶ?」
「…………いや、シフォンさんの護衛もあるから、私達で頑張ろう」
「うん!」
そうしながら移動を続けていると、正面からも賊が現れた。そちらに対しては、マリアが【雷撃】を放つ。稲妻が駆けていき、賊の一人を感電死させた。マリアは、次々に【雷撃】を放つ。飛んでくる稲妻に、賊は不用意に動く事が出来ない。
マリアは、進路を変更して賊から離れるように移動する。
「何人いるの!?」
マリアは、予想外の人数に嘆かざるを得なかった。
「でも、二種類くらいいるよ」
「男と女?」
「ううん。別組織みたいな感じ。微妙に服装が違うもん」
「色々な組織に依頼を出しているって事かな。ああもう! 邪魔!」
マリアは、地面を思いっきり踏みつける。すると、正面に向かって雷が地を這って放たれた。雷魔術【這雷】だ。それによって、正面から来る賊が感電するが、死ぬまではいかない。威力で言えば、【雷撃】よりも遙かに低い。だが、感電した対象は一時的に動けなくなる。ただし、無差別に感電させるので、【這雷】の効果範囲に仲間がいる時には使えない。
感電して動けなくなっている賊の間をすり抜けて、先に進む。だが、やがて賊達に囲まれる事になった。
「セレーネ、魔力は?」
「まだ余裕はあるよ」
「じゃあ、切り抜けられはするかな……それにしても多いね。セレーネ、絶対に離れないでね」
「うん」
セレーネ達を囲っている賊の人数は十人以上いた。これまで倒した数から考えても、大きな組織が関わっている事は間違いなかった。
セレーネ達が戦おうとすると、急に突風が吹いてくる。
「ぐおっ!?」
「うわあああ!!」
「ああああ!!」
突風は、セレーネ達には当たらず、賊だけに吹いている。そして、その突風を浴びている賊達の身体が赤く爛れていく。その風が吹いている方向から、一人の女性が近づいてくる。その姿を見たセレーネは、満面の笑みになる。
「お姉様!」
セレーネ達の元に駆けてきたのは、セレーネの姉テレサだった。
セレーネは、すぐにテレサの元に駆け寄り抱きつく。テレサは、セレーネを受け止めて抱きしめつつ、苦しんでいる賊達の首に【風刃】を使って失血死させていった。
その手際の良さに、マリアは少し驚く。テレサのイメージとは全く違う行動だったからだ。
「二人共無事?」
「怪我はありません。数が多くて逃げるのが難しかったくらいです」
「そう。セレーネ。大丈夫?」
「うん! マリアがいたから。お姉様もいたらもっと安心!」
セレーネは、テレサに抱きつきながら、その胸に顔を擦り付ける。テレサは、そんなセレーネの頭を優しく撫でる。
「そう。魔力は?」
「まだ余裕はあるよ」
「でも、消費はしているのね。私が抱き抱えるから、私の血を飲みなさい」
「え、でも……」
「良いから飲みなさい。セレーネが動ける状態でいる事が大事なのよ」
テレサからそう言われたセレーネは、テレサに抱えられたまま、テレサの血を吸う。テレサは、吸われた状態でも無表情で周囲を見回している。
「マリア、移動するわ。周囲の警戒をしなさい」
「はい」
セレーネとマリアを連れたテレサは移動を始める。ゆっくりと歩いていると、再び賊が現れた。
「テレサ様」
「まだこんなに人数がいるのね。面倒だわ」
賊はまた十人以上いた。集団で掛かれば良いと判断していると考えられる。それに対して、テレサは【風刃】を使い全員の四肢を斬り落とした。そして、その傷口を熱で焼き止血する。阿鼻叫喚の状況だが、セレーネはテレサに頭を押えられており、それを見る事はなかった。
その中をテレサは平然と歩いていく。
(テレサ様って、結構容赦ないよね……)
無表情でそんな事をするテレサに、マリアはそう思わざるを得なかった。




