53 皇太子
教会によって占拠されていた王都が解放されると、エムレーア王国やフラメル公国を侵攻していたエセルバート軍や連合軍はすぐに撤退した。
フラメル公国に遠征していたニコルとエヴァが戻って来たのも、間もなくの事だった。
そして重傷を負ったエリックだったが、一命は取り留めることができた。
ナタリーたちの献身的な世話により、回復に向かっているという。
教皇不在となった教会ではしばらく混乱が続いたが、枢機卿が新たな教皇となったことで表面上は落ち着きを取り戻した。
しかし、今後同じようなことが起こらないよう教会の権限は大幅に制限された。
それに今回のことで教会に不信感を抱く者が増え、これまで通りの運営は難しいだろう。
「信用は少しずつ取り戻していくしかありませんから」と、枢機卿は語っていた。
リアンとしても協力するつもりだ。
それよりも大きかったのは、風の四大名家ウィンザー家の降爵。
事件を重く見た国王はウィンザー家を四大名家から外し、子爵まで落とした。
その影響は凄まじく、これまで四大名家として担ってきた役割や収めていた領地が全て空きとなってしまう。
そこに新しく収まったのがアゼリア家、つまりフェンリーだった。
これまでの功績と王国への貢献を考慮され、新たな四大名家となる。
関係性が変わる事に対してリアンは寂しく思ったが、フェンリーにとっては良い事だろう。
そして変わったことと言えば、もう1つ。
リアンの存在が世間に公表された。
リアンにそのつもりはなかったが、いつの間にか国王とアイザックにより画策されていた。
教会の力が落ちたこと、そして今回の功績により公表しても問題ないと判断したそうだ。
それにより、リアンの生活は一変した。
これまでのように自由気ままに歩き回ることは出来なくなり、1日中何かしらの予定に拘束される。
王子がこんなに大変なものだとは思わなかった。
思わずため息を吐けば、ソファに寝そべっていたナハトが「頑張れ、王子様。」と手を振る。
そんな様子に、リアンの溜息はさらに深くなった。
幸いなことに、ナハトはリアンの護衛として王城に残っている。
曰く、「お前の近くにいると面白いことが次々と起こるから飽きない」そうだ。
「お疲れでしたら、お茶の準備をしますので休憩を致しましょう。」
「ありがとう、モナ。」
モナも、リア付きメイドとしてそのまま働いている。
環境が大きく変わってしまったが、変わらない関係性に安堵する。
国王が主体となり復興が進められて数か月。
その日、王都は朝から賑わっていた。
他国から多くの人々が訪れ、大通りには所狭しと出店が立ち並んでいる。
今日から開催されるブレイジア祭のためだ。
今年のブレイジア祭では、第一王子の双子の弟王子が初めて顔見世に現れること、そして皇太子選が行われるということで、式年祭であった昨年と同じくらいの賑わいを見せていた。
昨年は下から見上げていたバルコニーに立つと、国民から歓声が上がった。
初めての事に動揺していると、並び立ったアイザックがリアンの肩をポンと叩く。
夢の中にいるような不思議な感覚がしたが、促されるままに手を振ると歓声はますます大きくなった。
漠然とだが、自分は求められているのだと感じる。
それと同時に、この国民を守らなければと使命感が沸き上がった。
これが王子になるとということか。
ずっと追い求めてきた僕の生きる理由。
それはこんな近くにあったのだと、ストンと胸に落ちた。
ふと横を見れば、微笑むアイザックと目が合った。
その目は、「おかえり」と言っているようだった。
ブレイジア祭最終日。
この日は皇太子選のため、全ての王位継承者が集められていた。
例の事件をきっかけに兄弟間の中は改善されたため、昨年のようなギスギスした雰囲気はない。
しかし皇太子が決まるこの瞬間、独特の緊張感に包まれていた。
「投票の結果、エムレーア王国の皇太子が決まった。」
国王の厳かな声が響き渡る。
リアンは思わず息を呑み、続く言葉を待った。
「エムレーア王国の皇太子、及び時期国王は……アイザック=ブレイズとする。異論は認めない。以上だ。」
リアンは思わず拳を握りしめた。
しかしそれ程喜んでいたのはリアンだけだったようで、他の者たちは当然といった涼しい顔をしていた。
「まあ、ここ1年の功績を考えれば当然でしょうね。」
「こうしてエムレーア王国が平和に戻ったのは兄上の功績ですからね。おめでとうございます。」
口々に祝いの言葉を口にする兄弟たちに、謎は深まる。
これまで王位継承争いをしていたというのに、こうも簡単に認められるものなのだろうか
「どうした、リアン。不思議そうな顔をして。そんなに私が皇太子になるのが疑問か?」
「いえ、そんなことはありません。ただ……エリックたちが、こんなに簡単に認めるとは思わなくて。」
思わず本音を口にすると、エリックがため息を吐いた。
「私たちもより良い国をつくりたいという点では同じ志をもっていますから。それに、ここ1年の事を考えれば兄上が皇太子に選ばれることなんて誰からみても一目瞭然でしたし。」
そうだったのか……リアンは思わず納得した。
「兄上たちは見た目がそっくりなのに、中身は全然違うんですね。リアン兄上の方はどこか抜けているというか……今まで気付かなかったことが不思議です。」
隣にいた二コラが心底不思議そうに、2人を見比べた。
他の兄弟たちもそれに同調する。
何だか馬鹿にされたような気がして、ムッとしながら兄に助けを求めたが、アイザックが微笑むばかりだった。
そんな様子に、笑い声が響き渡す。
それは国王にも伝染し、しばらく続いた。
それは1年前には考えられなかった光景で。
願わくばずっと続いていけば良いと思わずにはいられなかった。
そしてより良い国を作っていきたい。
これまで犠牲にしたものも多かったが、得る者も多かった。
やっとの思いで手にしたそれらを、大切にしていこうと誓った。
これにて完結です。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。
また機会があれば続編/番外編を書くかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。




