52 最終決戦
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
「なぜ、あなたが炎を……。まさか……。」
その光景にリアンは呆然と呟く。
複数のエレメンタルを操れる人間なんて聞いたことがない。
それは他の兄弟も同じだったようで、信じられないといった表情を浮かべていた。
「くはははは……素晴らしい! これこそ王家の炎。力が漲ってくるようだ。ご察しの通り、これはエレメンタルストーンの力ですよ。」
ウィンザー侯爵は、己の纏う炎を確かめて声高らかに笑う。
その炎は国王の纏っていたものに遜色ない強力なものだった。
リアンの頬に嫌な汗が伝った。
これでウィンザー侯爵は王国最強の風と炎両方の力を手にしたことになる。
「あなたの目的は何ですか。教皇がいなくなった今、教会の力を借りるのも難しくなったと思いますが。」
それまで静観していたアイザックが声を上げた。
静かな瞳はまるでウィンザー侯爵を見定めるようだ。
「私が力を手にした今、教会の力なぞ必要ありません。私が王となり、ウィンザー家を新たな王家に据えればいい事だ。」
「そこまでして王となり、あなたは何を望みますか。」
「そんなものは王になってから考えればいい事。私がこの国の支配者となるのですから。」
あまりの回答にリアンは絶句した。
今まで王の座を狙う者に多く会ってきたが、そのように答える者は初めてだ。
これでは国の将来に希望を持つことができない。
「そうですか。私はこの国をより良いものにするためなら、誰が国王になっても良いと考えていましたが……あなたは国王の器でないようだ。私はこの国の第一王子として、国を脅かすあなたを排除する。」
リアンが見たことない冷徹な表情を浮かべたアイザックは、「すまない」と呟き、エリックに駆け寄っていたライオネルとメリルの体に触れた。
触れられた2人は力が抜けるように倒れ込んでしまう。
「兄上……一体何を?!」
「少し力を借りただけだから2人は大丈夫さ。すぐに目を覚ます。」
そう言ったアイザックは、ウィンザー侯爵目掛けて炎を放った。
それは普段アイザックが操る炎とは桁違いの威力だ。
迎え撃つウィンザー侯爵の炎とぶつかり合い、辺りは爆炎に包まれる。
少し離れたところにいたリアンですら思わず目を閉じた。
威力は互角。2人は炎の打ち合いはしばらく続いた。
しかしそんな均衡状態もウィンザー侯爵が風の力を使い始めたところで崩れる。
ウィンザー侯爵の放つ炎は威力を増し、アイザックの放つ炎はかき消されてしまった。
何とか力になろうとリアンも立ち上がろうとしたが、満身創痍な体に力が入らず、すぐに崩れ落ちた。
その体を近くにいたナハトが支える。
「今はアイザック殿下を信じろ。お前の兄貴なんだろ。」
ナハトの言葉に少し落ち着くが、状況は思わしくない。
次第にアイザックが押されていくのが見て取れる。
何か方法はないか、そう考えた時だった。
ふと、アイザックの口角が上がっていることに気が付く。
直後、突風が吹き荒れ、アイザックの放つ炎を増長させた。
目を凝らせばその先に、男の人影が見える。
「遅いぞ、フェンリー。」
「全く……人遣いが荒い方だ。リアン様はそのような事なさりませんよ。」
そこには苦笑するフェンリーの姿があった。
久しぶりに見る姿に、リアンは目頭が熱くなる。
「使える者は何でも使う、それが私の考えだからね。それよりも状況は?」
「ご命令通り、王城に侵略していた神官は一掃しました。枢機卿にもご協力頂けたので、それ程難しくはなかったですね。ここにいるウィンザー侯爵で最後です。」
気付かなかったが、フェンリーの後ろに枢機卿が見えた。
アイザックに向かって恭しく一礼している。
「さすが私の幼馴染だ。それに枢機卿も助かったよ。」
アイザックはそれだけ言うと、再びウィンザー侯爵に向き直った。
そして再び炎を放つ。
戦況は互角となった。
最高峰の風と炎を操るウィンザー侯爵に対して、最高峰までとはいかないまでも強力な炎、風、土を操るアイザックたち。
それぞれの力がぶつかり合い、爆発を引き起こしている。
しかしお互いに決定打が足りず、戦いは膠着状態となった。
ウィンザー侯爵の想定以上の力に、アイザックの表情にも焦りが見え始める。
リアンは、国の行く末を決める戦いが目のまえで繰り広げられているにも関わらず、何もできない自分が歯がゆかった。
傷を負っていくアイザックたちを見ていることしかできない。
リアンは剣を支えに何度も立ち上がろうと試みるが、全身に火傷を負った体は言うことを聞かず、すぐに崩れ落ちてしまう。
「くそっ……。こんな所で役に立てないんじゃ、何のために生きてきたのか分からない。」
思わず、拳を地面に叩きつけた。
その上から、知らず知らずのうちに涙が零れ落ちる。
「リアン……。」
そんな様子を見かねたナハトが、ひょいとリアンを担ぎ上げてアドルフの背に乗せた。
リアンは突然のことに状況が理解できず、ナハトに説明を求める。
「今日の報酬はいつもの10倍だからな。俺たちがお前の足になってやる。振り落とされないようしがみ付いとけよ。」
にかっと笑ったナハトは、アドルフと共にウィンザー侯爵目掛けて走り出した。
あちこちで起こる爆発や、ウィンザー侯爵の放つ炎を間一髪で避けながら距離を詰めていく。
「いいか、勝負は一瞬だ。アイザック殿下たちがあいつを引き付けてるうちに決める。」
ナハトの意図を汲み取ったリアンは静かに頷き、剣を握る手に力を込めた。
一瞬アイザックに目を向ければ、こちらの動きに気付いたようで、「任せた」とアイコンタクトされる。
ある程度近付いたところでナハトと、リアンを乗せたアドルフは二手に分かれた。
リアンは最後の力を振り絞って剣に炎を纏わせる。
そして――
ウィンザー侯爵が背後から斬りかかったナハトに気を取られている隙をつき、リアンは死角から斬りかかる。
青白い炎を纏った剣が、吸い込まれるようにウィンザー侯爵に突き刺さった。
瞬間、最期の足掻きとしてウィンザー侯爵から爆発的な風が吹き荒れる。
耐え切れずに吹き飛ばされた体は、アイザックにより支えられた。
暴風は次第に収まり、その後には息絶えたウィンザー侯爵が横たわっていた。
終わった……のか。
それを見届けたリアンの意識は闇に落ちた。




