51 暴走
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
剣に最大限の炎を纏わせた瞬間。
剣はこれまでにないほど強く発光し、爆発的な力を生み出した。
困惑しながらも襲い掛かる風の衝撃波を一刀すれば、衝撃波は霧散してしまう。
「これは……。」
呆然としながら剣に目を向けた。
炎と相性が良い素材を使っている事は分かっていたが、力を増幅できるのか。
この力があれば……。
ウィンザー侯爵に剣先を向け、一閃。
増幅された炎は青い龍を象り、凄まじい勢いで突き進んでいく。
それを避ける為に侯爵が暴風を止めた隙をつき、一気に間合いを詰めた。
「はあああああああ!」
タイミングは完璧だった。
しかしあと少しで届くという時、行く手を炎の壁に遮られてしまう。
一体なぜ……困惑して辺りを見渡すと、ウィンザー侯爵の背後にあった物陰からエリックが現れた。
そう言えば、拘束された王族の中にエリックの姿がなかったことを思い出す。
「何のつもりだ、エリック。」
怒気を滲ませて問えば、エリックの肩がびくっと揺れた。
いくら兄弟とは言え、そちらに着くのであれば容赦はしない。
そんな思いを込めて、エリックを射抜く。
「私にも……守りたいものがありますので。」
そして、刹那。
2人は同時に炎を放った。
リアンは炎を纏わせた剣で斬りかかり、二コラはそれを避けつつ間合いを取って遠距離から炎を放つ。
力は互角なのか、一進一退の攻防となった。
「自分が王になる事がそんなに大事か?」
「違う! それも喉から手が出るほど欲しいですが……それよりも大切なものです。」
「国を売るような真似をしてでもか?!」
リアンがそう言うと、エリックは言い淀む。
自分のしていることを、理解はしているということか。
しかし逡巡した後、力強い視線をリアンに向けた。
「はい。何と言われようと……私は国よりも弟妹たちが大切ですから。」
「……は?」
想定外の返答に、思わず攻撃の手を緩めた。
エリックを注意深く観察するが冗談を言っているようには見えない。
「それがどうして、ウィンザー侯爵の味方をすることにつながる? そいつらの計画は、王族を皆殺しにすることで達成させるんだぞ。」
「何を言って……。私が協力すれば妹弟だけは助かるよう手を回してくださると母上が……。そうですよね、母上?」
エリックは困惑した表情で、レオーナ妃を窺った。
「そんな話もあったわね。でも計画が最終段階に入った今、あなたはもう用済みかしら。ここまで協力してくれたこと、感謝しているわ。」
口元に笑みをたたえたレオーナ妃が言い捨て、懐から取り出した短剣をエリックに突き刺した。
不意を突かれたため対処できず、短剣は深々と突き刺さってしまう。
必死に何か言おうとしたエリックだったが、言葉にならずそのまま足元に崩れ落ちた。
腹部からは鮮血が溢れ出している。
「いやあああああああああああああああああ!」
最初に反応したのは、エリックの妹ナタリーだった。
エリックに駆け寄ろうとするが、拘束が邪魔してその場に転がってしまう。
リアンは手を差し伸べようとしたが、その異様な雰囲気に躊躇した。
「エリック兄様を……。許さない、許さない、許さない!」
虚ろな表情で呟くナタリーの体からは、陽炎が立っていた。
腕輪によって制御されていたはずのエレメンタルが溢れ出し、全身が炎に包まれる。
拘束していた縄は焼き切れ、炎に耐えられなくなった腕輪は弾け飛んだ。
「よくもエリック兄様を……絶対に許しません。」
ナタリーが右手をスッと上げると、灼熱の炎がウィンザー侯爵たちを包み込んだ。
それは神炎の儀で見た、国王の炎に匹敵するほどの威力だった。
しかし幼いナタリーが扱うには大きすぎる力だ。
「やめるんだ、ナタリー! そのままでは自分の炎に焼かれてしまう。」
大きすぎる力は時に、使用者を飲み込んでしまうこともある。
それを危惧して止めようとするが、ナタリーに声は届かなかった。
先程から虚ろな表情で、「許さない」と繰り返すばかりだ。
どんどんと威力を増す炎に、焦りが募っていく。
こうなれば……覚悟を決めるしかない。
リアンは深く深呼吸をし、自分の体にも炎を纏わせた。
「ナハト、兄上たちの拘束を解いてくれ。」
そう言い残し、暴走するナタリーに近づいていく。
アイザックは止めようとしているが、今回ばかりは譲れない。
近付くにつれ炎に焼かれそうになるが、何とか自分の炎で中和する。
そして――
ある程度、近付いたところで一気に体を引き寄せた。
体の焼ける感覚があったが、それを無視してナタリーに呼びかける。
「しっかりするんだ、ナタリー。君は兄弟で仲良くしたいと言っていただろう。それはもうすぐ叶うから……こんな所で死んではダメだ!」
何度目かの呼びかけの後だった。
ぎゅっと体を抱きしめた時、虚ろだったナタリーの表情に生気が戻る。
「きょうだ……い……で?」
「そうだ。もうすぐ王位継承争いは終わるし、エムレーア王国も平和になる。今まで悪かったね。」
リアンがそう言うとナタリーは微笑み、意識を失った。
その体をゆっくりと横たえ、リアンも隣に崩れ落ちる。
かなり消耗してしまったようだ。
それに、いつの間にか全身に火傷を負ってしまった。
炎を操る僕が火傷する日がくるとは思わなかったな、と1人苦笑する。
「おい、大丈夫なのか?!」
ナハトとアイザックが駆け寄ってきた。
それに何とか手を上げて返事をする。
同じく拘束を解かれたメリルとライオネルは、倒れているエリックとナタリーの下へ向かった。
しかしこれだけの炎だ。
ウィンザー侯爵たちの命はないだろう。
そう思って辺りを見渡したが、その姿は確認できなかった。
正確に言えば、近くに2人分の焼跡はあるのだが、体格的に教皇とレオーナ妃だと思われる。
一体どこに……不思議に思って、周囲の気配を探った時だった。
「探しているのは私かい?」
少し離れたところから届いた声に振り向くと、ウィンザー侯爵の姿があった。
しかし驚いたのは、その姿。
風の四大名家出身であるウィンザー侯爵が、なぜか全身に炎を纏っていた。




