50 風の当主
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
リアンとナハトは中央塔の屋上に向け、ひた走っていた。
貴族たちを解放するため監獄塔に残った枢機卿と別れたため2人きりだ。
腰には美しい装飾の鞘に納められた、真新しい剣が提げられている。
それはアルビオンで依頼した剣に他ならず、枢機卿から手渡された時は驚いた。
エムリア教に占拠されたブレイジア関所で立ち往生していた商人から預かっていたそうだ。
初めて手にしたにも関わらず、昔から使っていたかのように剣は手に馴染む。
細身の剣は扱いやすく、だからと言って脆そうな印象は受けない。
そして特殊な素材が使われているのか、炎を纏わせると剣自体が白く発光した。
原理は分からないが、炎と相性が良いことは理解できる。
次にアルビオンを訪れる際は、材料について尋ねてみよう。
中央塔は、文字通り王宮の敷地の真ん中に位置している。
地下回廊を使って中央塔を目指し、王座の間に辿り着いた。
ここを訪れたのは、皇太子選についての宣言が行われた時以来だ。
あの時からは想像もできない状況となってしまった。
感慨深い気持ちになりながらも、足早に通り過ぎる。
後は屋上へ向けて階段を駆け上がるのみ。
もうひと踏ん張りと意気込んだ時だった。
そこには想定していなかった光景が広がっていた。
厳重な警備が敷かれていたであろう中央塔で、見張りの兵たちが全て事切れている。
それもかなりの手練れのようで、急所を一突き……いや、鋭い刃物で切り裂かれたようだ。
これだけの人数を相手にすれば本人も返り血をあび、足跡が残っていそうだが、その痕跡もない。
「こりゃ、ひでーな。」
ナハトが呟いた。
生きた人間の気配がまるで感じられない空間は、少し不気味に感じられる。
「僕たちの他にも侵入者がいるのか……それとも仲間割れか?」
「何にせよ、相当強い奴だって事は分かる。敵か味方か分からないが、気を引き締めた方が良さそうだぜ。」
その言葉に頷き、階段を駆け上がっていく。
やはりすべての見張りが倒されていたようで、問題なく辿り着くことができた。
屋上へ出る扉の前で深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
扉の外には複数の気配を感じるが、その中にアイザックも混ざっていた。
やっと見つけた……そう思い、扉に手をかける。
ギィー
やけに響く扉の音を聞きながら、リアンは屋上に足を踏み入れた。
屋上にいた人々の視線が一斉にリアンに向けられる。
驚愕の表情を浮かべる者がほとんどの中、安堵の表情を浮かべる男と目が合った。
「兄上! ご無事だったんですね!」
リアンは、両手足を縛られたアイザックに駆け寄ろうとした。
右腕には、枢機卿に付けられたいたのと同じ腕輪が付けられている。
他の弟妹たちも同じで、「アイザック兄様が2人……」などと混乱していた。
「……そうはさせません。」
あと少しでアイザックに手が届くというところで、我に返った教皇が攻撃を放った。
かまいたちのような風がリアンに襲い掛かって来る。
リアンは炎を放ち、それを相殺した。
「そのお姿に能力……あなたはアイザック殿下の双子の弟君ですな。時の預言で警戒はしていましたが、本当に双子がいたとは。ここまで隠し通した国王には関心しますね。」
関心するように呟く教皇と目が合う。
隣には風の四大名家当主ウィンザー侯爵と、レオーナ妃の姿も見えた。
しかしレオーナ妃の実子である弟妹たちは拘束されている。
自分の子でありながら、利用していただけだったのか……。
「そこまで分かってるなら話は早い。ブレイジアを解放してもらおうか。」
リアンは剣を抜き、教皇へ剣先を向けた。
「君の境遇を察するのは難しくない。この国が憎くないのかい? むしろ君はこちら側に着くべきだ。」
それまで静観してたウィンザー侯爵が口を開く。
軽薄そうな整った顔に、薄っすらと笑みを浮かべている。
当たり前のように決めつける態度に腹が立った。
「生憎だが、僕は現状に不満はない。あるとすれば、今この国が乗っ取られようとしている事かな。」
「そうか……君も他の兄弟と同じように死んでもらうしかないようだ。」
ウィンザー侯爵がすっと右手をあげると、辺りに暴風が吹き荒れた。
全てを吹き飛ばすような風に、リアンは立っているのがやっとの状態になってしまう。
同時に教皇から放たれる風の衝撃波はリアンの体を確実に傷つけていく。
何とか炎を放って反撃を試みるが、風によってあらぬへ流されてしまった。
「最高峰の風のエレメンタルの使い手が3人……。これじゃ攻撃もままならないな。」
ちらりとナハトの様子を窺うが、そちらも吹き飛ばされないよう踏みとどまるのに精一杯だった。
一般的に炎は風に対して相性がいいが、これほど戦力差があると話は違ってくる。
他の弟妹を解放できれば勝機はあるが、身動きの取れない今は近付くことすら難しい。
その間にもリアンの体の傷は増えていく。
「もう良い、リアン。今すぐ逃げるんだ! 王族が生き残ることに意味がある。すぐ父上にこの事を伝えるんだ。」
拘束されたアイザックが、見ていられないと悲痛な声を上げた。
「兄上を見捨てて逃げるなんて……そんな事は絶対にできません。それに僕もエムレーア王国の王子だ。1人だけ逃げるなんて有り得ない!」
「リアン……お前。」
「それはそれは、素晴らしい心意気ですね。それならここで死んでください。」
ウィンザー侯爵が、特大の衝撃波を放った。
直撃すれば命はないが、吹き荒れる強風に避ける事も難しい。
ここまでか……リアンは最後の足掻きに、今出せる最大限の炎を剣に纏わせた。




