49 革命
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
モナから状況を確認したリアンは、人質が幽閉されているのは監獄塔だと当たりを付けた。
以前ブルック伯爵に会うため1人で歩いた地下回廊を、ナハトと一緒に進んで行く。
地下回廊までは見張りが入り込んでいないようで、人の気配は感じられない。
何事もなく監獄塔内の扉まで辿り着いた。
「人の気配が多い。ここを開けたら戦闘になるぜ。」
扉の外の気配を探っていたナハトが小声で告げる。
王族や貴族を幽閉しているため、それなりの数の見張りを付けているようだ。
「問題ない。一瞬で片付ける。」
リアンは装備していたナイフを取り出し、両手に構えた。
ナハトが頷くのを待って、扉を慎重に開ける。
そして――
ガタッ
扉が開いた瞬間、目に入った者全てにナイフを投げつけた。
ナイフは吸い込まれるように突き刺さり、命を奪っていく。
取りこぼした者については、ナハトとアドルフがとどめをさす。
目に見える範囲の見張りを全て倒すと2人は顔を見合わせ、階段を駆け上がった。
階層構造になっている監獄塔は、上階に行くほど重罪人が投獄されている。
おそらく人質は最上階に幽閉されているだろう。
途中で遭遇した見張りは、全て声を上げられる前に倒して進んで行く。
もう間もなく最上階に辿り着く、そんな時だった。
最上階の1つ下のフロアに見知った気配を感じる。
その気配に一瞬たじろいだが、避けて通る事はできないと意を決してフロアに足を踏み入れた。
「ここでお会いできると思っていました。」
フロアに佇む男は美しい黄色の瞳を伏せ、リアンに向かって跪く。
まるでそうするのが当たり前かのような態度に、真意を測りかねた。
自然と眉間に皺が寄ってしまう。
「単刀直入に聞きます。枢機卿、あなたは私の味方ですか?」
早鐘のように鳴り響く鼓動を悟られまいと、平静を装い枢機卿の瞳を覗き込んだ。
枢機卿の口が開かれるのを固唾を呑んで見守る。
「もちろんです、殿下。」
「それならどうしてここに? 教会に協力して人質の見張りをしているようにしか見えませんが。」
「殿下にはそう見えますか……。しかし見張りと言う名目で幽閉されているのは私も同じです。この計画に最後まで反対したことで猊下の反感を買ってしまいました。」
枢機卿は自称気味に笑い、右腕を差し出した。
透明な腕輪のようなものが取り付けられている。
どこか見覚えのあるそれに、首をかしげた。
「それは?」
「エレメンタルストーン開発中に偶然出来上がった代物です。エレメンタルを吸収する性質に特化して作られたこの腕輪を装着した者は、エレメンタルを扱えなくなります。」
リアンが腕輪に触れると、スッと力が抜け、体が冷たくなるような感覚があった。
こんなものを装着されていては、まともに戦うことは難しい。
継ぎ目のない腕輪は自分で外すことも困難だろう。
自分でこんなものを付けるとは思えない。
「……分かりました。あなたを信じましょう。」
リアンは剣を取り出すと、枢機卿の腕目掛けて剣を振り下ろした。
剣は体を傷つけることなく、腕輪だけを真っ二つにする。
枢機卿は自分の体の状況を確かめた後、リアンに感謝を述べた。
「ありがとうございます。ただ……申し上げにくいのですが、王族の皆様はここに幽閉されていません。ここに幽閉されているのは貴族だけです。」
「弟妹たちはどこに?」
「中央塔の上。エターナルブレイズの下にいます。」
予想外の返答にリアンは沈黙した。
そんなところで一体何を……ひどい胸騒ぎがする。
「落ち着いて聞いてください。エムリア教会は……今まさに革命を起こそうとしています。」
枢機卿から語られる内容は、リアンを震撼させるのに十分だった。
――教会の目的は教皇を最高権力者とした祭政一致国家をつくること。しかしエレメンタルストーン開発に成功した今、目的のために邪魔なものがあった。それこそ国王の操るエターナルブレイズ。エレメンタルストーン開発に必要不可欠な力だが、国民の象徴となっているその力は革命の障害となった。それならば奪ってしまえば良い……それがブレイジア占拠に至った経緯だった。
エターナルブレイズは代々の国王に引き継がれる力だ。では、王位継承者が1人もいない状況で国王が死んだらどうなるのか。そしてその際、エレメンタルストーンによりブレイズ家の炎を操れる者がいれば……。
計画に必要なのは、王位継承者のエレメンタルを吸収させたエレメンタルストーンと、王位継承者全ての死亡。アイザックを含む王位継承者は捕まった。国外に出ている二コラとエヴァはフラメル公国で討ってしまえば良い。その後アルビオンまで侵略してカミラを討つ。それが教会のシナリオだった。しかし想定外もある……それこそがリアンの存在だった。
暑くもないのに、全身から汗が噴き出していた。
それと同時に寒気を感じる。
教会の思い通りにさせる訳にはいかない。
気付いた時には走り出そうとしていた。
しかし、それはナハトの手によって止められてしまう。
「今の話聞いてたのかよ! お前が行けば奴らの思う壺だ。」
「そんなことは分かってる! だけど兄上を……弟妹たちを見殺しにする事なんてできない。」
リアンは叫んでいた。
ナハトの言うことは理解できるが、到底納得できない。
「見殺しにしろって言うつもりはない。冷静になれって言ってんだ! 今、この国を救えるのはお前しかいないんだろ!」
ナハトの射抜くような視線を受け、我に返った。
出発前のフェンリーとの会話が頭をよぎる。
――『王子としての責務』、『この国を守り切る覚悟』
どちらもリアンが持ちえなかったものだった。
リアンを心配するモナ、期待して見守ってくれた兄上、心配しつつも最後は送り出してくれた二コラとエヴァ、いつも気に掛けてくれた姉上、父としての国王の後ろ姿、リアンを認めたくれたブルック伯爵に枢機卿……それら全てが思い出される。
そして再び、ナハトの強い視線とぶつかった。
僕は……




