48 陰謀
リアンは、フラメル公国に連れてきた馬の中で最も足の速い馬を借り受け、ブレイジアへ駆けていた。
フラメル公国への侵攻軍のことを考え、連れてきたのはナハトだけである。
二コラやエヴァには止められたが、事情を知らない者を連れて行って動きにくくなるくらいなら、2人だけで戻った方が良い。
何といってもブレイジアには兄上がいる可能性もあるのだ。
鉢合わせなんて事になれば、目も当てられない。
「ブレイジアには国王もいるんだろ? そう簡単に占拠されるものか?」
事情説明もそこそこに、いきなり連れ出されたナハトが尋ねた。
「父上はブレイジアにいない。僕たちがフラメル公国に発った直後、南方の国境防衛に向かったそうだ。攻めてきたのは南の大国エセルバート。エムレーア王国に負けずとも劣らない軍事国家だよ。」
伝令の情報を聞いた時は驚愕したのを覚えている。
エムレーアとエセルバートは大陸の中でも1、2を争う巨大国家であり、それ故これまで牽制し合っていた。
最後に衝突したのは、数百年前にも遡る。
「じゃあ、フラメル公国を襲撃した3国のバックに付いてたのもエセルバートってわけか。」
「そのようだね。現在フラメル公国に向け進行中の連合軍には、エセルバートも含まれてる。」
3国がこのタイミングで急襲を仕掛けたのは、エセルバートの指示だろう。
まずは同盟国であるフラメル公国に急襲を仕掛け、エムレーアの主戦力をブレイジアから引き離す。
そして同タイミングにエセルバート本隊が攻め込むことで、国王をブレイジアから引きずり出したのだ。
「ブレイジアを占拠してるのも、エセルバート軍か?」
「いや……それが違うんだ。」
リアンは言い淀んだ。
ここまで大規模な襲撃を仕掛けたエセルバートの裏から糸を引いていた者。
それは、エムレーア国内に存在していた。
「ブレイジアを占拠したのは……エムリア教会だ。」
存在を危惧していたものの、こんな強硬手段に出るとは思いもしなかった。
「……はっ? そんなことして国を亡ぼすつもりか?」
「分からないけど、今はブレイジアに急ぐしかない。」
リアンは逸る気持ちを抑え、ブレイジアへと馬を進める。
何とか持ちこたえてくれ……。
フラメル公国を出発して5日後の夜。
抜け道を駆使して全速力で駆け抜けた結果、行きの約半分の時間でブレイジアの外れまで辿り着くことができた。
ここまで酷使してしまった馬に感謝を述べ、目立たない森の中へ放つ。
地上は全て教会に占拠されているため、ここから先は地下回廊で王宮に近づく必要があった。
目標は人質として取られている王族の解放だ。
「おい、教会側にはあの枢機卿もいるんだろ。俺たちの行動はバレバレじゃねーか。」
地下回廊を入ろうとするリアンを、ナハトが呼び止めた。
それに緩く首を振って答える。
「それでも僕たちは彼を信じるしかないから。」
雨期が続き、所々から水漏れする地下回廊を進んで行く。
まずは状況を確認するため、リアンの地下室を目指した。
地下回廊には水滴の垂れる音だけが響き渡り、人の気配は感じられない。
先頭を歩くアドルフも特に警戒していないようだ。
そうこうしている内に、地下室の前まで辿り着く。
いつでも剣を抜けるよう構え、慎重に扉を開いた。
そして――
「モナ! 無事だったのか!」
声に反応したモナはビクッと反応したが、リアンの姿を確認すると抱き着いた。
小刻みに震える背中をポンポンと叩けば次第に落ち着き、目元に光る涙を抑える。
「リアン様がご無事で良かったです。……それにナハト様も。」
「おい、俺はオマケかよ。」
ナハトが呆れたように言えば、自然と空気が和む。
こんな風にずっと笑い合えるといいな、なんて思った。
「それで、モナ。ここで何があったんだ?」
リアンが尋ねると、モナはこれまでの事をぽつぽつと話し始める。
それは、国王が出立してしばらく経った頃だった。
それまで大人しかった教会がブレイジアを突然包囲したという。
戦力のほとんどをフラメル公国と南方の防衛戦に割いていた王宮は瞬く間に占拠された。
王宮に残っていた王族は人質として取られ、主要な貴族も投獄されてしまったそうだ。
「フェンリーもか?!」
貴族の話が出た所で不安になったリアンが声を上げた。
「いえ、ブレイジアが包囲された時フェンリー様はアイザック様を探すために王宮を離れてしました。お姿は確認しておりませんが、フェンリー様の事ですのでうまく身を隠しているのではないかと。」
「そうか……それなら良かった。兄上はまだ見つかっていないのか。」
フェンリーが無事である事には安堵したが、アイザックが見つからない事に対しては不安が募る。
その雰囲気を察したモナが、リアンに寄り添った。
「大丈夫だ、モナ。兄上もフェンリーもきっと無事だと信じてる。」
リアンは自分に言い聞かせるように呟いた。
それよりも、まずは目の前の事に集中しよう。




