45 激突
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
リアンは、本陣にある一際大きな天幕を訪れていた。
中央に設置された簡易な寝台にはニコラが横たわっている。
肩から脇腹にかけて包帯が巻かれた姿は痛々しいが、命に別状はないそうだ。
しかし安静が必要なのは確かで、戦場に出るのは難しい状態だった。
「申し訳ありません、兄上。」
「気にすることはないさ。命を落とさなかったんだから良しとしよう。」
「しかし明日からの指揮が……。」
ニコラが眉を下げた。
苦し気な表情からは、痛いほどの悔しさが伝わってくる。
怪我を負ってしまった以上、戦場には出してもらえないと思っているようだ。
しかし、当のリアンにそのつもりはない。
「ニコラには、明日からも戦場に出てもらうよ。」
「えっ!?」
驚いたニコラは飛び起きようとした。
しかし傷口にさわったのか、呻きつつ寝台に戻っていく。
「まあ、落ち着いて聞いてくれ。このまま天幕に引きこもってるのは、性に合わないだろう。」
リアンは、懐から1枚の紙を取り出した。
それを二コラにも見える位置に固定する。
「これが明日の陣形だ。二コラはここで采配を振るってもらおうか。私と騎士団長は、その指示に従って前線で指揮をとろう。」
見取り図には、三角形を2つ並べたような陣形が描かれていた。
それぞれの頂点部分、つまり最前線にアイザックと騎士団長の名が記載されている。
その間に挟まれた最後方部分に二コラの名前があった。
ここであれば怪我を負った二コラにも負担が少ないだろう。
リアンとしても、戦慣れした二コラに全体指揮を任せた方が安心できる。
「ありがとうございます! 兄上には何とお礼を言っていいか……この恩は一生忘れません。」
「そのお礼は勝ってから受け取ろう。明日の采配には期待しているよ。」
そう言い残し、二コラの天幕を後にした。
残された二コラの目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
翌日、リアンは左翼の最前線に立っていた。
正面の連合軍とは睨み合いの状態となっており、合図があればいつでも飛び出せる。
リアンのエレメンタルを警戒してか、連合軍には盾役の兵が多く布陣されていた。
1人1人の装甲は大したことないが、あれほどの数を集められると骨が折れる。
側面からの奇襲を遊撃隊に指示しておいて正解だった。
奇襲タイミングは、戦慣れしているナハトへ全面的に任せてあるから問題ないだろう。
第二師団が王宮に辿り着いたことで、連合軍はこれまで以上に王宮包囲に兵を割いていた。
それにより、相対する連合軍の数は確実に昨日よりも少ない。
無茶な作戦ではあったが、結果的にかなりの効果をもたらしたらしい。
数日掛かりで仕掛けるつもりだったが、これだけ敵兵の数が減った今なら、チャンス次第では今日中に総指揮官を討つことも可能だ。
二コラのケガを考えれば、早期決着するに越した事はないだろう。
右翼の方を見れば、騎士団長が最前線に待機している。
さすが歴戦の猛者と言うべきか、まだまだ疲れは感じさせなかった。
味方となれば、これほど頼もしい騎士はいない。
しばらくの睨み合いの後、放たれた1本の弓矢を合図に両軍が動き出した。
敵兵と激突する瞬間、リアンは炎を放って道を切り開く。
「突撃だ! 将を見つけたら合図を忘れるな!」
リアン自ら最前線に立ち、敵兵に切り込んでいく。
遊撃隊と違いエレメンタルを使えない味方兵が多いため、巻き添えを起こさないよう、炎は剣に纏わせる程度に留めた。
それでも脅威であることに違いなく、及び腰になった敵兵を切りつける。
反対にエムレーアの兵たちは、第一王子が最前線に立っていることで士気が高まっていた。
想定より遥かに良い戦況を作り出せている。
時折届けられる二コラからの指示が適切な事も影響しているだろう。
落ち着きを取り戻したのか、二コラの采配に昨日までの焦りは見えない。
こうなれば、この流れのまま畳みかけたい。
リアンは周囲に声をかけ、機動力に自信のある者を集めた。
「伝令兵の後を付け、敵将の居場所を探ってほしいんだ。ただし大変危険な任務であることは間違いない。それでもやってくれる者だけ残ってくれ。」
リアンは1人1人に目を合わせ、意思を確認した。
「戦場にいる以上、いつでも覚悟はできています。それに、アイザック殿下から直々にご命令頂ける名誉を逃すつもりはありません。」
強い決意を灯した1人の兵と目が合った。
他の者たちも同じような表情を浮かべ頷いている。
それを確認したリアンは、彼らを送り出した。
1人でも多く無事に戻ってきてほしい、そう願いながら。
――しかし、戻ってきた兵は半数に満たなかった。
その事実に落胆したが、彼らが命懸けで入手した情報は大変貴重なものだった。
総指揮官と思わしき人物の居場所を特定したのだ。
興奮と緊張が入り混じり、自然と体が震える。
天は僕たちに味方しているようだ。




