43 本陣
本陣に戻ると、第二師団によって野営の準備が整えられていた。
簡易ながらも無数の天幕が張られ、体を休められるようになっている。
指定された天幕で防具を外し、一息ついた。
出発前に国王から配慮があったのか、ナハトと2人きりで使えるようだ。
仮面を外せるのは大変ありがたい。
「さすが大国。戦争中にこれだけの天幕を用意できるのはすげーな。」
ナハトは感心するように声を上げた。
「他の国は違うのか?」
「屋根がある所で寝られればマシだぜ。水が使えるってのも有り得ない。」
「戦闘員以外のエレメンタル保持者も連れてきているからな。もちろん限度はあるけど。」
エレメンタルを扱える者が全て前線に送られる訳ではない。
戦闘が苦手な者は後方支援に徹している。
それによりエムレーア王国の兵たちは、戦場にいながら快適な空間で体を休めることができた。
戦いが長引く程その効果は絶大となり、過去にエムレーア王国が長期戦で負けたことはない。
「そりゃ強いわけだ。で、この後の予定は?」
「二コラとエヴァ、騎士団長、それから僕で作戦会議がある。その後、遊撃隊の隊長を集めて打ち合わせかな。それまでは好きにしてもらって構わない。」
「それなら、ちょっくら散策してくるぜ。アドルフにこの辺りの匂いを覚えさせておきたいしな。」
ナハトを見送った後、リアンは会議用の天幕へ向かった。
既に第三王子二コラ、第三王女エヴァ、騎士団長シュトロハイムの姿がある。
リアンは空いていた末席に腰かけた。
「騎士団長、良くここまで持ちこたえてくれた。それに遊撃隊長、今日の戦いは見事だった。」
二コラが口を開く。
リアンと騎士団長は、礼をとってそれに応えた。
「今回の件、連合軍に参加しているのは、レイド、サレスタ、アロイトの3か国だと判明した。しかし急襲の目的は分かっていない。」
挙げられた3国は決して大国とは言えない。
例え今回の襲撃がうまくいったとしても、同盟国エムレーアが攻めてくるのは目に見えている。
「もしや、3国以外にも連合軍に参加している国があるのではないでしょうか。」
騎士団長が意見した。
そう考えれば今回の襲撃には説明がつく。
フラメル公国で潤沢に採掘できる金属資源は、他国にとって非常に魅力的なのだ。
しかし、エムレーア王国から迂闊に攻撃できない大国となれば限られる。
「そのような報告は受けていないが、可能性はゼロでない。その辺りは父上たちが調査中だが、まずは目の前の戦いに集中しよう。」
二コラが戦場の地形図を取り出した。
既にいくつかの書き込みがされている。
「明日の作戦だが……居城の確保を第一とする。」
「それは明日中に敵陣を突破するという事でしょうか?!」
思わずリアンは声を上げた。
例え1点突破でも、5万の兵をかき分けて居城まで辿り着くのは難しい。
隣に座る騎士団長も同じことを考えているのか、険しい表情を浮かべている。
「その通りだ。私の率いる第一師団で中央に、騎士団長の率いる先鋒隊で左翼に敵の注意を引き付ける。その隙に手薄な右翼からエヴァ率いる第二師団と遊撃隊で居城まで辿り着いてもらう。」
地形図を指し示しながら、二コラが説明した。
それぞれのルートが描かれている。
「第二師団が居城に到達した後はどうするのですか? 全ての兵が居城まで辿り着けるとは思えません。」
と、騎士団長。
「その翌日、本陣と居城から連合軍を挟み撃ちにする。」
「恐れながら申し上げます。居城の確保は、敵戦力を落としてからでも良いのではないでしょうか。幸いなことに相手は連合軍のため、連携に難があります。そこを突けば有利に戦いを進めることも可能です。」
リアンは思案した後、意見を述べた。
二コラの言っている事は理解できるが、あまりにも無謀だ。
兵力を分散させてしまう事にも不安が残る。
「もう決めたことだ! 決定は覆らない。」
そう言い残し、二コラは天幕を去ってしまった。
やはり、ブレイジアを出発した時からどこか様子がおかしい。
「二コラ殿下はどうしてしまったのでしょうか。普段はもっと冷静な方なのですが。」
重々しい空気の中、騎士団長が口を開いた。
「兄が申し訳ありません。ただ……焦っているだけなのです。」
ずっと黙り込んでいたエヴァが、申し訳なさそう弁明する。
「フラメル公国は貴重な金属資源が多く採れることで、他国から狙われることが多かったのです。母の生家だったため、兄と私はその場面を目にする事が多くて……。今回は総大将という事もあり、気負ってしまっているのだと思います。こんな時、本当はアイザック兄様が一緒だと良かったのですが。」
アイザックの名に、リアンは暗い気持ちになった。
フェンリーは見つけ出す事ができただろうか。
「それにここだけの話なのですが、兄はフラメル公国の第一王女に懸想しています。それも焦りの原因ではないかと。」
暗い雰囲気を察したエヴァが、茶目っ気を出して付け加えた。
少しだけ場の雰囲気が明るくなる。
「しっかりしているようで、二コラ殿下もまだまだお若いようだ。若者を助ける気持ちで、今回の作戦に協力しましょう。遊撃隊長もよろしいですか?」
騎士団長は、ガハハと豪快に笑った。
しかし有無を言わせぬ強い瞳に、リアンも思わず頷いてしまう。
大変な事になってしまった。
明日はエヴァを守りつつ、居城に到達しなければならない。
その難しさに胃が痛くなる。
――その日、夜更けまで地形図と睨めっこするリアンの姿が見られたそうだ。




