42 開戦
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
ニコラの合図をきっかけに、兵たちが飛び出した。
狙うは、居城とエムレーアの先鋒隊それぞれを迎撃するために間延びした敵陣中央付近。
そこを突き刺すよう、矢のように組まれた陣形で突入する。
気配に気付いた連合軍が陣形を立て直そうとするも、こちらの方が早い。
「今だ! 全力で放て!」
先頭の兵が辿り着く直前、リアンは遊撃隊に指示を出す。
連合軍に向かって4種類のエレメンタルが同時に放たれた。
土が足元を崩し、火が敵を焼く。
そして風が火力を上げ、水とぶつかり水蒸気爆発を引き起こした。
突如発生した大爆発に連合軍は崩れる。
脆くなった敵陣に本隊が突撃し、敵味方が入り交じった混戦状態となった。
「そこは広範囲攻撃で相手の動きを誘導!」
「防御! 土壁で対応して!」
リアンは遊撃隊の位置取りを把握しながら、適宜指示を出した。
混戦状態の中、味方の位置を把握するのは難しい。
神経をすり減らしながら、慎重に、かつ大胆に攻め上がっていく。
気付けば敵陣の奥まで入り込んでいた。
遊撃隊に指示を出しながらリアン自身も剣を抜き、敵兵を斬りつけていく。
辺り一体には死体の山が築かれていた。
ここまでの戦況は悪くない。
しかし連合軍側も陣形を立て直しつつある。
そうなる前に次の手を打つべきだ。
「ナハト! 近くにいる敵将を探してくれ!」
近くで交戦していたナハトを呼び出した。
周囲の状況を探るためにナハトがアドルフを放つと、兵たちの足元を縦横無尽に走り回る。
「見つけた! 右斜め前方だ!」
ナハトの指した方角に目を凝らすが、人が多過ぎて確認できない。
ここはアドルフを信じるしかないだろう。
「そいつの相手を頼めるか? そこまでの道は僕が開く。」
「了解!」
リアンは集中し、敵将がいるであろう方向に向けてスッと右手を向けた。
手にはエレメンタルが集まり出し、肉眼で見える程の赤い光を放つ。
「死にたくなれけば道を空けろ!」
リアンの声が戦場に響き渡った。
直後、凄まじい炎が真っすぐ放たれ、直線上にいた兵たちが焼かれていく。
あまりに強力な力に周囲は呆気に取られてしまう。
開けた視界の先、他の兵よりも豪華な防具を身に着けた敵将らしき人影が見えた。
「……ハア、ハア。後は頼んだ。」
ナハトが飛び出していくのを確認し、リアンはその場に崩れ落ちた。
全速力で走った後のような息切れに、肩を上下させる。
エレメンタルは無尽蔵に使える訳ではない。
人によって許容量は異なるが、急に使えば疲労するし、許容量を超えて使えば倒れてしまう事もあるのだ。
リアンの状態を察した遊撃隊が周囲の防御を固めた。
呼吸が落ち着くまで、しばらく時間がかかりそうだ。
ありがたく思い、それを受け入れる。
「手が空いている者は……ナハトの援護に……。」
息を切らしながらも、何とか指示を出した。
敵将を倒してしまえば、連合軍の立て直しを遅らせることができる。
何としてでも成功させなければならない。
上手くいくことを祈りながら、呼吸を戻すことに専念した。
その頃ナハトは敵将へ辿り着き、双剣を振るっていた。
リアンが開いてくれた道、失敗するわけにはいかない。
その思いがナハトを突き動かす。
近付こうとする者は遊撃隊が足止めしているため、実質的に一騎打ちとなった。
2人の剣がぶつかり合う。
傍からは一進一退の攻防に見えたが、実際にはアドルフを伴うナハトに分があった。
何度かの斬り合いの後、ナハトに気を取られている隙に、アドルフの牙が敵将の足を貫く。
敵将は激痛に叫び声をあげ、その場に倒れ込んだ。
「……お前、傭兵だな! 金ならいくらでも出す。こっちに寝返らないか。」
息も絶え絶えに、敵将が懇願した。
その言葉に、ナハトはスッと表情をなくす。
「一流の傭兵は絶対に裏切らない。そんなことも分かねー奴が将をやってるんじゃ、連合軍ってのも大したことないな。」
一閃。
ナハトの剣が敵将の首を刎ねた。
その光景を目の当たりにした連合軍は、総崩れとなる。
戦意を喪失し、逃げ出していく兵たちも多い。
「追うな! 逃げる兵は放っておけ。」
ナハトが振り返ると、こちらに近づくリアンの姿があった。
まだ疲れは見えるが、何とか落ち着いたようだ。
「よくやった、ナハト。」
「当たり前。」
2人は自然と近づき、拳を突き合わせた。
どちらともなく笑みを浮かべる。
遊撃隊の活躍もあり、初日は有利に戦況を進めることができた。
ナハトが倒した将は隊長クラスだったようで、連合軍に大きなダメージを与えることができた。
明日以降の戦いにも影響するだろう。
撤収の合図を確認し、皆が本陣へ戻って行く。
明日からの戦いは、互いがどっしり構えた総力戦となるだろう。
二コラが本調子に戻っていれば良いんだが。
一抹の不安を感じながらも、リアンは遊撃隊に撤収命令を出した。




