41 進軍
国王からの勅命を受けて2日後の早朝。
第三王子二コラが率いる本隊はブレイジアを出発した。
それは先鋒隊が出発してから3日後の事であった。
ブレイジアからフラメル公国までは、通常であれば7~8日程度の距離だ。
しかし雨季であること、軍を率いていることから10日はかかると見込まれている。
足元がぬかるむ中での進軍となった。
道中での護衛の役割を果たすため、リアンは二コラの跨る馬から数人挟んだ後方に陣取った。
顔を隠すため、アルビオンでも使用した仮面を身に着けている。
それについて二コラに何か言われることはなかった。
感情が高ぶっているようで、それどころではないのかもしれない。
王宮を出発した時から、二コラには焦燥の色が見えた。
実母の生家という事もあり、幼い事から交流の深いフラメル公国が襲撃されて焦る気持ちは理解はできる。
しかし総大将がそれでは、兵たちも落ち着かないだろう。
現に、不安げな表情を浮かべる者たちが多い。
だが、それよりもリアンを不安にさせることがあった。
――第三王女エヴァの出陣だ。
栗毛の立派な馬に跨り、二コラの後ろを追走している。
普段着ている美しいドレスではなく、戦装束に身に着けていた。
リアンとて、「女は戦に出るな」なんて言うつもりはない。
強い女騎士が存在するのは事実で、本隊にも女性が混ざっているからだ。
しかし騎士団にも所属していないエヴァが、いきなり戦争に出て大丈夫なのだろうか。
エレメンタルを扱えるとは言え、決して万能な力ではない。
それこそ能力を使う前に切られてしまえば終わりだ。
勅命を受けている以上は二コラが最優先だが、エヴァにも気を配っておくべきか。
リアンの心配をよそに進軍は順調に進み、本隊はフラメル公国へ入国した。
国境を越えたあたりから早馬による伝令が増え、逐次状況を報告していく。
先鋒隊1万は既に大公の居城に到達し、連合軍とぶつかったそうだ。
しかし数で劣るため戦況を覆すには至っていない。
厳しい戦いになるのは間違いないだろう。
「二コラ殿下、間もなく戦場に到着致します。ご指示を。」
リアンは二コラに近づき、指示を仰いだ。
「第一師団と遊撃隊はこのまま戦場に突入し、連合軍を横から叩く。総指揮は私がとるが、遊撃隊は戦況を見て臨機応変に動いてくれ。第二師団は先鋒隊の拠点に合流し、負傷者の手当てと本陣の設営を。指示はエヴァに任せる。」
今回の出陣にあたり、近接戦闘員中心の第一師団と、後衛部隊中心の第二師団が編成された。
第一師団は二コラが、第二師団はエヴァがそれぞれ指揮を執ることになっている。
リアンは独立した遊撃隊として編成されているため、比較的自由に動ける事になっていた。
「かしこまりました。それでは私はここで失礼します。」
リアンは礼をとって、遊撃隊と合流するため走り出した。
少しずつ強くなる硝煙の匂いに、気持ちが高ぶってくる。
「何か作戦はあるのか?」
並走していたナハトが聞いてきた。
「遊撃隊の役割は、機動性を活かして戦況を優位に運ぶこと。そして本隊が到着した今日やるべき事は、エムレーア王国の強さを見せつけることだ。だとすれば作戦は1つ。出来る限り派手に動いて、敵に脅威を感じさせることかな。幸いな事に遊撃隊はエレメンタル保持者が多いから、持ってこいな役割だ。」
「なるほど、単純で分かりやすい。とにかく暴れろって事だな。」
ナハトは不敵に笑った。
リアンが遊撃隊に合流するころには、ほとんどの者が戦闘準備を完了していた。
エレメンタル保持者を中心に100人程度で編成された遊撃隊は、他の部隊と比べてあまりにも軽装備だ。
ほとんどの者が最低限の防具しか身に着けていない。
機動性が求められる遊撃隊に適した装備だとも言えるが。
「皆、準備はいいか?」
リアンが問いかければ、呼応するように声が返ってきた。
緊張している者、血気盛んな者、不安げな者、反応は様々だ。
「突入にあたり、いくつか注意してほしい事がある。」
リアンの声に、遊撃隊の者たちが耳を傾ける。
「今日の目標は、エムレーア王国の強さを見せつけることだ。存分に力を発揮してほしい。それに私は君たち全員の力を信用している。いざと言う時は個々の判断で動いて構わない。責任は私がとろう。そして最後。絶対に死なないように! 危なくなったら私の近くまで撤退してくれ。それでは皆の健闘を祈る。」
「おおおおおおおお!」
リアンの言葉を聞いた兵たちは、闘志を漲らせた。
皆が拳を突き上げている。
その様子に、リアン自信の気持ちも高揚した。
大公の居城近くにある森に姿を隠せば、後は突撃の合図を待つのみ。
二コラの待機する丘に目をやり、今か今かと合図を待った。
刹那、炎の一閃が空に打ち上げられる。
――今、戦いの火蓋は切られた。




