38 真実
枢機卿から聞かされた話は、衝撃的なものだった。
研究報告書からある程度の情報は知っていたが、文書で読むのと関係者から直接話を聞くのでは訳が違う。
中でも1番の衝撃は、エレメンタルストーンの生成方法についてだった。
エレメンタルストーン生成の過程で、特殊な鉱石にエレメンタルを流し続ける必要があるそうだ。
それも数日のレベルではなく、数年レベルである。
現実的に考えれば、それほど長期にわたって人がエレメンタルを流し続けることは難しい。
そこで目を着けたのがエターナルブレイズだった。
消えることのないエターナルブレイズであれば、人の手を介さずにエレメンタルを流し続けられる。
理論としては完璧だった。
しかしすぐ問題が発覚してしまう。
エターナルブレイズのエネルギーに耐えらず、鉱石が割れてしまうのだ。
そこで神官たちが次に取り組んだのは、エターナルブレイズのエネルギーを少量だけ流す装置の開発だった。
特殊なフィルターを噛ませることで、エネルギーの一部だけを取り出すことができる。
果たしてその目論みは成功し、装置は完成した。
そして王宮で燃え盛るエターナルブレイズの設置台に組み込まれたのだ。
エレメンタルストーン開発は順調に進んでいるように思われた。
その時までは……
事件が起きたのは、今から400年前。
長期使用での検証が不十分だった設置台は、突然機能を停止した。
設置台下にあった大量の鉱石は無制限にエネルギーを取り込んでしまい、エターナルブレイズは消失。
王都は大混乱に陥った。
当時の国王はエターナルブレイズを再点火するため四苦八苦し、結果的に始まったのが神炎の儀だという。
神炎の儀が20年おきに行われるのは、鉱石に十分なエネルギーを蓄えるための時間を考慮した教会が、国王に進言したからだ。
20年かけて作られたエレメンタルストーンは国外へ持ち出され、着々と研究が続けられている。
これこそがエムレーア王国の真実であり、裏の歴史であった。
「現在の設置台にもエレメンタルストーン生成用の装置が付いているという事ですか?」
話を聞き終えたリアンが枢機卿に尋ねた。
「いえ。エターナルブレイズ点火時に焼失しています。鉱石も全て割れてしまったそうです。」
神炎の儀で見た、設置台を燃やし尽くすような炎を思い出す。
あの炎に包まれてはひとたまりもないだろう。
紆余曲折あったが、結果的に問題を1つ回避できていたようだ。
「分かりました。それで結局のところ、教会の目的は何ですか?」
ここまで手間をかけて一体何をしようとしているのか。
理由によっては、粛清も止むを得ない。
息を呑んで枢機卿の言葉を待つ。
「それは……革命です。」
「革命だって?!」
あまりの衝撃に声を荒げた。
事実として、ブレイズ王家に対する国民の不満は少ない。
革命を危惧するような出来事はこれまでなかったのだ。
実のところ、数百年前から革命を企てている者たちがいただなんて、考えもしなかった。
「教皇を最高権力者とした祭政一致国家をつくること、それが教会の最終目標です。」
「しかし……国民が賛同するとは思えません。」
エムレーア王国に熱心な信者が多いのは確かだが、だからと言って革命を望んでいるとは思えない。
国王を神聖視している国民が多いからだ。
むしろ、その延長線としてエムリア教を信仰している者も多い。
「アイザック殿下は、ブレイズ王家を支えているものは何だと思いますか?」
「もちろんエターナルブレイズです。古くからエターナルブレイズは民たちの心の支えとなっています。」
リアンは即答した。
「では、エターナルブレイズに替わるものが出てきたらどうでしょうか。しかもそれは、王族や貴族でなくとも使える力です。」
「それは……」
国王のみ扱えたが故に神聖視されてきた力が、誰にでも扱えるようになる。
そうなってしまえば国王を無条件に崇めるような事はなくなるだろう。
それでもブレイズ王家は存続できるか、と問われれば即答できない。
「エレメンタルストーンはそれだけの可能性を秘めています。私はエレメンタルストーンを人体に埋め込む事に反対ですが、使い方次第で私たちの生活を変えられる程のものだと考えています。」
「それでは、ランドルフ猊下も革命には賛成だと?」
思わず、眉間にしわを寄せた。
「そうではありません。革命では多くの血が流れます。それを良しとはできないのです。だからこそ私は、殿下の示す新しい道を信じることに致します。」
教会の事情はあらかた把握できた。
枢機卿の言葉が本当である保証はないが、今は信じるしかないだろう。
あの真剣な眼差しを思えば、嘘を言っているようには思えない。
後はどう動くべきか。
ひとまずアイザックに相談すべきと考え、今日のところは一旦切り上げる事にした。
枢機卿には、これまで通り過ごすよう頼んでおく。
教皇や他の神官たちに疑われては敵わない。
堤防下の土壌については、後日改めて調査することで合意した。
治水局の者たちに引き上げる旨を伝え、王宮へと歩を進める。
来た時より雨脚は弱まったものの、空には暗雲が立ち込めていた。
それを自分の気持ちに重ね、ため息を吐く。
雨季はまだ始まったばかりだ。




