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35 水の当主

物語の都合上、水害に関する表現があります。

気分が悪くなる方は閲覧をお控えくださるようお願い致します。

 リアンが目的の川近くまで到着すると、想像を超える光景が広がっていた。

決壊した堤防からとめどなく水が溢れ出し、濁流となって町を飲み込んでいる。

土砂と共に建物だったであろう瓦礫が流されていく。

取り残された人々を探せば、決壊した堤防から少し離れた中州に人影が見えた。


「まずは住民の救助を。中州まで船は出せそうか?」

治水局の者たちに確認する。

濁流の中に船を出すことは不可能に思えるが、水や土のエレメンタルを持つ者が多く配属されている治水局ならば可能なはずだ。

もちろんリスクを下げるため、船にはロープを結んで流されないようにした。


「かしこまりました、アイザック殿下。」

治水局の者たちは特別製の船を準備し、中州へと向かっていく。

途中で障害となりそうな瓦礫が流れてきた時は、リアンが炎により燃やし尽くした。

船は無事に中州まで辿り着けたようで、子供や女性から順に住民を避難させる。

あとは治安局に任せて問題ないだろう。

リアンは、水の四大名家当主ウォードと、枢機卿ランドルフに合流することにした。



 指定された場所に辿り着くと、既に2人の姿があった。

青みがかった黒いコートを羽織った、鋭い目つきの男が水の四大名家当主である。

こうして対面するのは初めてだったが、見たことない程鮮やかな青い瞳をしていた。

隣にいる枢機卿は感情を見せることなく、静かにたたずんでいる。

先日、教皇と言い争っていた男と同一人物だとは思えない。


「ウォード侯爵、ランドルフ猊下。ご協力感謝します。」

リアンは、2人に向き合い感謝を述べた。


「構いません。国民を助けてこその四大名家です。」

と、ウォード侯爵。

愛想が良いとは言えないが、四大名家としての矜持があるのかアイザックにも協力的だ。

リアンとしては、大変心強い。


「私もです。エムリア教の枢機卿として、国民を助けることは大切なことですから。」

変わらない枢機卿の態度にも安堵する。


「ありがとうございます。早速ですがお二人には、決壊した堤防の修復と合流した川の分流をお願いしたい。」

被害拡大を食い止めるために必要な工程は2つ。

1つは決壊してしまった堤防を修復して、町へあふれ出す水を止めること。

そしてもう1つは合流してしまった2つの川を分流し、元の姿に戻すことだ。

2人も特に異論はないようで、了承の意を示した。



 まずは合流してしまった川を分流させるため、川の上流に移動した。

片方の川の水位が堤防を越えてしまったことで、近くにあったもう一方の川と合流してしまったようだ。

分流させるためには、堤防の高さを上げる必要がある。

リアンは懐から地図を取り出し、いくつかのチェックを付けた。


「ここからここまでの堤防の高さを、現状より2m高くしようと思います。ウォード侯爵は水の流れを制御し、この範囲の水勢を抑えて頂けないでしょうか。その間にランドルフ猊下は川底の土砂をここまで持ち上げ、水を食い止められる硬さまで圧縮してください。」

チェックした点を指し示しながら、作業内容について説明していく。

2人のエレメンタルの強さを考えれば可能なはずだ。


「問題ありません。ランドルフ猊下の作業がしやすいよう配慮しましょう。」

ウォードが右手を川の方へ伸ばすと、青白い光に包み込まれた。

堤防を越えて溢れ出していた水が、下流へと方向を変えていく。

それだけでなく、先程リアンが指し示した範囲を避けるようにして水が流れ出した。

見えない力に遮られて水が入り込まず、川底の土まで見えてしまっている状態だ。


「……さすがは水の当主ですね。」

想像以上の力を目の当たりにし、リアンは思わず呟いた。

あれだけの濁流を自在に操るのは並大抵の能力では出来ない。


「お陰様でエレメンタルには恵まれておりまして。あとはランドルフ猊下、お願いします。」

呆然としていたランドルフは我に返り、川への手を伸ばした。

黄色に発光した手の動きに合わせ、川底の土が堤防の上まで這い上がっていく。

そしてランドルフが手を下ろすと、土が圧縮され堤防となった。

それを何度か繰り返し、堤防の高さを徐々に上げていく。


「これで問題ありません。堤防の硬さも十分確保できました。」

ランドルフが告げると、ウォードも右手を下ろした。

水の制御がなくなっても堤防は問題なく機能し、川は分流されたようだ。

呆気なく終わった作業に、少しだけ拍子抜けしてしまう。

アイザックの人選が適切だったとも言えよう。


「お疲れ様でした。あとは下流の堤防を修復すれば完了です。」

その後3人は下流へ戻り、決壊した堤防を修復した。

その頃には、中州に取り残された人々の救助も無事完了したようだ。


 滞りなく作業を完了できたことに安堵する。

後は川全体を点検し、他に決壊する可能性のある堤防がないか確認すれば終了だ。

ウォードは仕事が残っていると去っていたが、ランドルフは点検まで一緒に実施していくそうだ。


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