30 エレメンタルストーン
傭兵ナハトと専属契約を結んだリアンはアルビオン王宮へ戻った。
アイザックはナハトに驚いていたが、最終的には許可してもらえた。
むしろリアンに繋がりができることは良いことだと喜んでいたように思う。
「ユリスを助けてくださり、本当にありがとうございました。どう感謝して良いか。」
リアンは王宮で治療を受けた後、アルビオン国王マティスに事情を説明した。
マティスは言葉を詰まらせている。
国王という立場上、表に出せなかったがユリスのことを相当気に掛けていたことが伺えた。
「恐縮です。それにユリス殿下に大事がなくて何よりでした。」
医師の診断によると、衰弱しているものの命に別状はないようだ
2、3日もすればベッドから起き上がることもできるという。
「アイザック殿下も、お力添えありがとうございました。」
「いえ、同盟国として当然のことです。」
アイザックは毅然と答えた。
「あのままユリスが見つからなければどうなっていたか。皇太子選のこと……前向きに検討させて頂きます。」
アイザックの心情を汲み取ったマティスは宣言した。
その言葉にリアンは思わず顔を上げる。
微笑むマティスと目が合ったような気がした。
「それでは私はユリスの様子を見てきますので。」
そう言い残して、マティスは去っていった。
部屋にはリアンとアイザック、そしてナハトが取り残される。
「……これが熊の頭部から出てきた石です。」
マティスの去った部屋で、リアンは熊の能力について説明していた。
アイザックは興味深げに石を眺めている。
「不思議な感じがするね。エレメンタルを抜き取られているような。」
アイザックが呟く。
リアンと同じことを感じたようだ。
「そうなんです。兄上ならこれが何か分かるのではないかと。」
アイザックは石を片手で弄びながら考え込んでしまった。
しかし全く心当たりがなさそうな様子ではない。
どちらかと言えば、その存在を信じたくないようにも見える。
「確証はないが……心当たりはあるよ。教会がエレメンタルストーンという石の研究をしていたんだ。エレメンタル保持者が石に力を込め、それを非エレメンタル保持者に移植すると同じ能力が使えるようになると聞いたことがある。しかし石に力を込める時に起きる暴発や、移植時の拒絶反応で死者が絶えなかったことから、20年以上前に研究が禁止されたはず。それが何故今になって……。」
アイザックの話を信じれば、教会が秘密裏に研究を続けていたとしか思えない。
それも国内で目を付けられないよう他国で行っていたのだろう。
熊の犠牲になった者のことを考えると、激しい怒りが沸き起こる。
「しかし不思議なんだ。何故そこまで教会がエレメンタルストーンの研究に必死になるのか。確かに便利な石だけれど、リスクを背負ってまで続ける目的が分からない。」
大きな陰謀を感じるが、現時点で目的まで推し量るのは難しい。
アイザックをもってしても真の狙いまでは辿り着けないようだった。
「この件は私に預けてくれないか。もう少し調べてみよう。」
アイザックは立ち上がり、話を切り上げた。
ここであれこれ推測しても分からないため、ブレイジアに戻ってから調査をするそうだ。
「了解しました。」
リアンとナハトも立ち上がり、部屋に戻る準備をする。
ナハトにも王宮内に部屋を用意してもらっていた。
「ところでナハト。リアンの事をよろしく頼むよ。力はあるが、たまに抜けている所があるから兄として心配でね。」
アイザックが帰り際にナハトを呼び止めた。
というか兄上にそんな風に思われていたなんて初耳だ。
「お任せください、アイザック殿下。」
ナハトは胸を張って答えた。
その様子を見たアイザックは満足そうに頷いて去っていった。
「ねえ、ナハトも僕のことそんな風に思ってたの?」
「自分の胸に聞いてみな。」
何となく面白くないリアンは尋ねてみたが。ナハトはケラケラ笑って部屋へ戻ってしまう。
リアンは慌ててその背を追いかけた。
アルビオンを出発する前に、リアンはナハトを伴ってアルビオンの町へ出ていた。
以前訪れた武器屋の店主を洞窟で助けたため、自分の剣を打ってもらう交渉をしようと思ったのだ。
「洞窟では助けて頂き、ありがとうございました。」
「ありがとう、お兄さん。」
店主と少女に感謝される。
少女は以前会った時の不貞腐れた雰囲気でなく、楽しそうに店主の後ろを付いて回っていた。
無事に連れ帰ることができて良かったと思う。
そんな店主に剣を打ってもらえないかと持ち掛けた。
「もちろんすぐにとは言わない。その怪我が治ったら僕とナハトのために剣を打ってもらえないだろうか。」
その際、エムレーア王国に送り届ける伝手があるか確認した。
「もちろんです! 命の恩人の頼みを断るわけにはいきません。鍛冶屋の名に懸けて、最高の剣を打ちましょう。商人の伝手があるのでエムレーア王国へのお届けも問題ありませんよ。」
「助かるよ」
その後、剣の好みや要望についていくつか質問された。
僕は刀身に炎をまとわせることが多いため熱に強い剣が必要だ。
剣への負荷を考えて直接エレメンタルの熱を伝えないよう気を付けてはいるが、多少の熱で脆くなってしまうような剣では話にならない。
それに腕力がある方でないため、軽めのものが好きだ。
店主は頷きながら、要望をまとめていく。
「かしこまりました。半年以内にはお届けできると思います。」
店主と約束を交わし、王宮に戻ることにした。
ナハトも納得いくまで要望を伝えられたようだ。
そしてエムレーア王国への帰国日。
王宮の前には、皇太子ユリスと皇太子妃カミラの姿があった。
ユリスは背中に傷跡が残ってしまったが、もうほとんど塞がり日常生活に支障はないそうだ。
洞窟で会った時とは比べ物にならない程、顔色も良くなっている。
「この度は本当にありがとうございました。皆様の助けがなければ私の命はなかったでしょう。」
ここに来るまでに何度も伝えれらた感謝を改めて伝えれらた。
カミラも隣で幸せそうに笑っている。
「ユリス殿下がご無事で良かったです。今後も同盟国としてよろしくお願いします。」
アイザックとユリスが握手を交わす。
2人が国王になればエムレーア王国とアルビオン王国の関係は安泰だろう。
そう思わせる光景だった。
「アイザックも体には気を付けて。また会いましょう。」
その後、カミラとアイザックがハグを交わし別れを惜しむ。
リアンもね、と言って同じようにハグされた。
「エムレーア王国が生き辛くなったらいつでもこっちに来るのよ。」
その際リアンにしか聞こえない声で囁かれたが、ありがとうございますとだけ返した。
姉上の配慮は嬉しいが、きっとそうすることは一生ないだろう。
その思いは自分の心の中だけに留める。
その後、ユリスとカミラに見送られるかたちでアルビオン王宮を後にした。
行きと同じく、馬車にはアイザックとリアンだけが乗っている。
ナハトは護衛のため馬車に並走するアドルフに付き添っていた。
「今回のアルビオン遠征、兄上としてはどうでしたか?」
リアンは仮面を外しながら尋ねた。
「アルビオン国王の信頼を得られたのは大きいね。皇太子選のことも前向きに考えてくださると仰っていた。しかし、心配事も増えてしまったな。」
「エレメンタルストーンのことですね。これもエリックが絡んでいるんでしょうか。」
現在教会と最も親密な関係を築いているのは第二王子エリックだ。
王位継承争いの裏で何か企んでいるのだろうか。
「分からない。エリックがそんな事をするとは信じたくないが……ブレイジアに戻ったらリアンも調査を手伝ってくれるか?」
「兄上の仰せのままに。」
ブレイジアに戻ったら忙しくなりそうだ。
馬車の外を覗けば、ナハトとアドルフの姿が見える。
フェンリーやモナにどう説明しようと考えながら、リアンは微笑んだ。




