28 人食い熊
戦闘シーンあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
体を滑り込ませた先には、思っていたよりも広い空間が広がっていた。
奥には人影が見えるが、血の匂いが充満している。
リアンは驚かせないようにそっと近づき声をかけた。
「私はエムレーア王国第一王子の使いの者です。ユリス殿下を助けに参りました。」
その声に何人かの人影が這い出てきた。
皆、足を引きずったり、腹から血を流していたりと満身創痍だ。
頬が痩せこけ、顔色も悪い。
「ありがとうございます。ユリス殿下はこちらです。」
1人の男が腕を抑えながら案内してくれた。
男について行けば、壁際に横たわるユリスの姿がある。
最悪の状況も想像しながらユリスの体を確かめた。
「背中に大きな傷を負っていますが息はあります。今は眠っているだけです。」
男の言うように息はしており、体も温かい。
服にしみ込んだ血も全て固まっているようで、リアンは一安心した。
間に合って良かった……。
「一体ここで何があったんですか。」
生存者の中でもケガの少ない者に尋ねた。
男はぽつぽつと話し出す。
「私たちは1週間前に山へ入り、目撃情報のあった沢を捜索していました。そこで熊の足跡らしきものを見つけたのです。足跡を追いかけて洞窟に辿り着いた私たちは、この場所で熊と遭遇しました。もちろん自慢の剣や弓で仕留めるつもりだったのですが、何故かあの熊には効かず……逃げ込んだのがここです。助けに来て頂いて本当にありがとうございます」
もうダメかと思ったと、男は涙ぐんだ。
大方の事情は理解したが、あの熊を何とかしない事にはユリス殿下を助けることは出来ないだろう。
リアンは、生存者たちにここから出ないよう告げて再び壁の外へ出た。
壁の外では、ナハトたちが熊と交戦を続けていた。
ナハトもアドルフも血を流しているが、熊は一切傷を負っていない。
「ナハト! 大丈夫なのか?」
思わず声をかければ、切羽詰まった声が返ってきた。
「これが大丈夫に見えるかよ! こいつ石みたいに硬いぞ。まるで壁を切りつけてるみたいだ。」
ナハトは双剣で熊を切りつけているが、刃が当たる度、生き物に当たったとは思えないような鈍い音が響いている。
金属と石がぶつかった時の音だ。
リアンも剣を抜き、熊に切りかかった。
しかし案の定弾かれていまう。
何度か刃を当ててみたが、どこに当てても同じだった。
だんだんと手が痺れてくる。
その間にも熊は鋭い爪で攻撃を繰り返してきた。
体の大きさに見合った強烈な一撃だ。
「くっ……」
肩に爪がかすってしまったようで、血が溢れだす。
避けたつもりだったが想定以上に熊が大きかったため、目測を誤ってしまった。
流れ出した血は腕を伝い、剣の柄まで汚していく。
致命傷ではないが、長く戦うのは危険だろう。
それならば……剣をまとわせた炎の火力を一気に上げた。
刀身は赤から蒼白い色に移り変わっていく。
「離れろナハト!」
リアンは叫ぶと、火薬の入った小瓶を熊に投げつけた。
そして、小瓶をもろとも熊を叩き切る。
瞬間、爆発を巻き起こして熊の体は業火に包まれた。
火薬によって爆発力を得た炎は消えることなく、熊を燃やし尽くす。
爆発に巻き込まれたナハトは吹っ飛ばされてしまったが、受け身をとり怪我は回避できたようだ。
呆然としながら炎を眺めている。
「やったのか……?」
さすがにあれを耐えることはできないはず。
徐々に落ち着いてきた炎に目を凝らす。
そこに見えたのは、炎を振り払おうと暴れる熊の姿だった。
「グァアアアアアア」
熊が立ち上がり、炎に包まれたままこちらへ向かってくる。
あの攻撃を受けて、まだ動けるというのか。
リアンを捕らえようと鋭い爪の付いた右腕を振り上げた。
それを受け止めるため、剣を構える。
――ザシュッ
今まで全く刃が立たなかった体を切りつけることに成功した。
「えっ……?」
思わず凝視すれば、こちらを威嚇する熊と目が合う。
その瞳は黄色だった。
どこか見覚えのある鮮やかな黄色だ。
あれは土のエレメンタルを操る者が持つ色。
なぜ熊がその色を持っているのかは分からないが、土のエレメンタルを使えるとなれば今までの事にも納得がいく。
防御に特化した土のエレメンタルで、自分の体を硬化させていたのだろう。
それが分かればやりようはある。
「ナハト! まだ戦えるか?」
壁際で呆然としてたナハトに声をかけた。
声をかけられたナハトは、すくっと立ち上がる。
「当たり前。俺を誰だと思っている。」
双剣を構えて、キッと熊を睨みつけた。
アドルフも唸り声をあげて威嚇している。
「あいつは土のエレメンタルを操っている。異常な硬さも能力だ。僕が炎で硬化を何とかするから、その間にナハトとアドルフで熊を倒してくれ。」
単純な話だ。
攻撃の炎と防御の土。
相手が土のエレメンタルを操るというのなら、防御が追い付かなくなる程の炎で攻撃すれば良い。
先程攻撃が効いたのは、炎によって硬化が追い付かなかったからだろう。
ブレイズ家の血を引く僕が、熊なんかにエレメンタルで負けるはずない。
「了解だ。リアンを信じるぜ。」
ナハトは、ニヤッと口角を上げた。
リアンは全神経を右手に集中させ、炎を熊に向けて放つ。
青白い炎が、熊の表皮を覆いつくした。
もっと強く、焼き尽くすような炎を……。
額から汗が流れ出すのを気にせず、どんどん火力を上げていく。
「今だナハト!」
熊の暴れだしたのを確認して指示を出す。
今まで弾かれていたナハトの剣が熊を切りつけ、傷を負わせていく。
熊も応戦するが、こうなってはどうする事もできない。
「アドルフ!」
ナハトが叫ぶと、アドルフが熊の背後から首元に噛みついた。
アドルフの牙は熊の体を貫く。
それは致命傷になったようで、熊は息の根を止めた。
その様子に安堵し、リアンはその場に座り込んだ。




