26 謁見
アルビオン王国に到着した翌日。
アイザックは、アルビオンの国王と謁見を果たしていた。
リアンは従者として扉近くに控えている。
「エムレーア王国第一王子のアイザック=ブレイズです。この度は、同盟の使者として遣わされて参りました。」
アイザックが膝をつく最敬礼をもって挨拶をした。
少し高くなった壇上には、アルビオン王国国王が座している。
「顔をあげてください、アイザック殿下。我らは同盟国同士。対等に話して頂いて構いません。」
国王の言葉に、アイザックが顔を上げた。
アルビオン王国国王マティス=シュヴァリエ。
賢王として名高く、マティスが即位してからアルビオンは平和を享受している。
エムレーア王国と同盟を結んだのも、マティスが即位した頃だ。
以来、2国は友好的な関係を築いている。
「ありがとうございます、マティス陛下。」
アイザックは立ち上がると、エムレーア王国の近況や使者として言付かっている事などを伝えていく。
マティスはそれに耳を傾け、時折返答をした。
「……ところで、ユリス殿下のお姿が見えないようですが。」
話が一段落したタイミングで、アイザックが切り込んだ。
リアンも思っていたことだ。
今日は国王陛下と皇太子殿下との謁見だったはず。
「アイザック殿下には、お伝えしなければなりませんね。実は、人食い熊の討伐に出たきり戻ってこないのです。」
「熊……?」
「ここ最近、王都に出没するようになった巨大な熊です。多くの兵が討伐にあったのですが対処できず。この度、腕の確かな猟師を引き連れて息子が討伐に出たのですが……」
これは、昨日の少女の話と一致する。
おそらく少女の父親も、皇太子と共に討伐に向かったのだろう。
「まだお戻りにならないと。討伐に出たのはいつ頃のことでしょうか。」
「もう1週間程前のことになります。」
気丈に振る舞っているものの、マティスからも焦燥が見え隠れしていた。
このまま戻らなければ、アルビオンは皇太子を失う一大事だ。
それに父親としても心配だろう。
「それは心配ですね。」
「正式な謁見の場と言うのに、申し訳ない。」
マティスが頭を下げた。
国王が頭を下げる等あり得ないのだが、それを自然にしてしまう事こそマティスが賢王たる所以である。
こう言っては何だが、父上は絶対にしないだろう。
「それはお気になさらないでください。ところでマティス陛下、その件は私にも協力させて頂けないでしょうか。少しでもお力添えできたらと思うのですが。」
「とんでもないことです。アイザック殿下に何かあったら、アルバート陛下に顔向けできません。」
妥当な判断だろう。
アイザックに何かあれば、それこそ国交問題になりかねない。
「それでは私の従者に行かせるのは構いませんか? エレメンタルが扱えて、腕も確かです。」
マティスの目がリアンに向けられた。
リアンは胸に手を当て、問題ない旨を告げる。
何としてでも、任せて欲しい。そんな思いを込めて。
「……それなら許可します。しかし命の危険を感じたら、無理せず撤退してください。」
「かしこまりました。」
アイザックが神妙な面持ちで頷く中、リアンは内心ガッツポースを決めていた。
これはマティス陛下に恩を売る絶好のチャンスなのだ。
表情にこそ出さないが、アイザックも同じ事を考えているだろう。
「それでは熊の目撃情報やユリス殿下の手かがり等あれば教えて頂けませんか。」
その後、分かる範囲で現在の状況について確認した。
ユリス殿下が熊討伐に向かったのはちょうど1週間前。
5人名の猟師と、10名程度の兵を連れていったそうだ。
本来であれば次の日には戻るはずだったが、その気配はない。
その後、捜索に向かった兵隊は半分程度しか戻って来なかった。
戻ってきた兵も皆重傷で、療養中だと言う。
状況を考えれば絶望的だが、わずかな可能性にかけたい気持ちは理解できる。
リアンも出来る限りのことはしようと心に決めた。
それにしても……何人もの猟師や兵を返り討ちにする熊って何だ。
熊と遭遇して怪我を負う者は多いが、それは何の構えもない状況で突然遭遇してしまうからだ。
腕の立つ猟師に対抗する熊など聞いたことがない。
一抹の不安を抱えながらも、熊狩の準備をするのであった。
人物紹介
◆マティス=シュヴァリエ
アルビオン王国の国王。
賢王として名高い。
◆ユリス=シュヴァリエ
アルビオン王国の皇太子。
カミラの夫。




