24 野盗
戦闘シーンがあります。
残酷描写が苦手な方はご注意ください。
エムレーア王国を出発して数日。
リアンたちは国境付近まで進んでいた。
この山を越えればアルビオンとの国境門である。
ほぼ予定通りに進行できており、このまま行けばあと5日程でアルビオンの王都に到着できるだろう。
しかし、5日間も移動が続くと飽きがくるのは事実。
最初こそ車窓の風景を楽しんでいたが、3日目あたりには満足してしまった。
と言うのも、エムレーア王国は大半を湿地帯が占めているため、同じ風景がずっと続いているのだ。
水の引いた湿地帯に植物が生い茂っている光景は美しいが、限度がある。
アイザックは出発当初から、遠征に持ち込んだ書類に目を通していた。
時折サインをしたり、何やら書き込んだりと忙しそうである
そんなアイザックを邪魔するわけにもいかず、リアンは1人で時間を持て余していた。
こんな事なら、もっとモナに本を用意してもらえばよかった。
そんな退屈な時間を過ごしていた時。
黒狼のアドルフが傭兵のナハトへ駆け寄る姿が目に映った。
ナハトは、険しい顔をして森の奥を睨みつけている。
何かあったのかと、仮面を付け直して馬車の外の様子を窺った。
そして異常に気付く。これは……囲まれているのか。
ナハトに目配せすれば、こちらを見て頷いた。
間違いないだろう。このまま進めば敵にぶつかることになる。
リアンは一旦馬車に戻り、アイザックに声をかけた。
「敵に囲まれているようです。僕が対応するので馬車から出ないようお願いします。」
アイザックは、頼むとだけ告げて書類に目線を戻した。
信用しているという事だろうか。
すぐ武器を手に取り、ナハトと合流した。
「僕は後方の敵を叩く。前方を頼めないか。」
リアンの見立てでは、前方と後方、それから道路脇に広がる森に敵が潜んでいるが、森は陽動で前後から挟み撃ちにするのが本命だ。
「了解だ。」
ナハトも同じ見解だったようで、すぐに了承する。
そしてアドルフと引き連れて、前方へ飛び出して行った。
リアンも方向転換し、後方へ駆け出す。
他の護衛騎士にも森からの敵に警戒するよう伝えてあるため、問題ないだろう。
「そこにいるのは分かっている。隠れてないで姿を見せたらどうだ。」
リアンが声を張ると、20人程度の男がぞろぞろと現れた。
身なりからして野盗だろう。
男たちはニヤニヤして武器を構えている。
「1人で飛び出してくるなんて良い度胸してるじゃねーか。それとも捨て駒か。」
ひと際、がたいの良い男が出てきた。
この中のリーダー格だろうか。
その証拠に、他の男たちと比べて身なりが良い。
「いいや。あんたたちは僕1人で十分ってこと。まとめてかかってきな。」
あえて挑発するような事を言えば、男たちは分かりやすく冷静さを失った。
その様子に、リアンは口角をあげる。
「てめえら! あんな舐めた態度を取ったこと後悔させてやれ!」
頭に血が上った野盗は一斉に襲い掛かってきた。
リアンは呼吸を整えると、右手を野盗たちに向けてスッと上げる。
この場所は開けているからエレメンタルを使って問題ないだろう。
リアンの右手から龍の形を模した炎が飛び出し、野党たちに襲い掛かった。
「うわああああああ」
炎に怯んだ野盗たちが逃げ出そうとするが、たちまち炎に飲み込まれていく。
何とか炎から逃れた者も既に戦意を喪失しているようだった。
追い打ちをかけるように剣を抜けば、つい先程まで血気盛んだった野盗たちは怯えている。
だがアルビオン皇太子妃を襲った野盗を活かしておいたと知られれば、国交問題になりかねない。
せめて苦しまないようにと、青い炎を纏わせた剣で一気に首を撥ねた。
痛みを感じる前に意識はなくなっている事だろう。
リアンは野党たちの死体を焼き払い、来た道を戻ることにした。
馬車へ戻れば、そちらも制圧が完了しているようだった。
森に潜んでいた野盗も、護衛の兵たちに倒されていた。
ナハトが、アドルフの口回りにべっとり付いた血を拭き取っている。
噛み殺されたであろう無残な死体に一瞬顔をしかめたが、先程と同じように焼き払った。
「便利な能力だな。これなら獣が集まってくる心配もない。」
ナハトが感心したように呟く。
「炎のエレメンタルだ。そっちも問題なかったようだな。」
「ああ。ほとんどアドルフだけで終わっちまった。」
歯ごたえがなくて運動にもならなかったな、とナハトは愚痴た。
退屈な移動にナハトも少なからず鬱憤がたまっていたようだ。
「大事がなくて何より。」
その後、周囲に残党が残っていないことを確認して移動を再開した。
エムレーア王国を抜けるまで、あと少し。




