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20 元第一王女

 剣闘会で優勝したリアンが地下室へ戻ると、アイザック、フェンリー、それにメイドのモナに出迎えられた。

地下室へ入った途端、感極まったモナに抱き着かれる。


「リアン様、おめでとうございます! ずっと気が気でなくて……心配しておりました。」

その顔は涙ぐんでおり、相当心配してくれていた事が伺える。

思えば、モナはリアンが剣に集中できるように剣闘会前から気を配ってくれていた。

ありがとうと感謝を伝えれば、モナは首を横に振った。

「メイドとして当然のことです」と言って。


 ゴホン

「モナ、そこまでにしなさい。」

隣に控えていたフェンリーが咳ばらいをして、モナに注意を促した。

隣ではアイザックが苦笑している。

それを見たモナは、慌ててリアンから離れた。


「私としたことが……申し訳ありません。」


「いや、構わないよ。それだけリアンのことを心配してくれていたんだろう。それより私からも感謝と……よくやったな、リアン。」

いつかのように頭をくしゃくしゃと撫でられた。

それはあの時に感じた寂しさや、やるせなさとは全く別の感情を生み出す。


「はい……。」

胸に込み上げてくるものがあり、それだけ言うのが精一杯だった。

そんな様子のリアンに、アイザックは満足そうな表情を浮かべている。


「フェンリーからは、何かないのかい?」

リアンから手を離したアイザックは、口角を上げてフェンリーに問いかけた。


「私は、リアン様なら優勝できると最初から思っておりましたので。」

そして、澄ました幼馴染の態度に噴き出した。

ここにいる誰よりも心配していたというのに。

それを見たフェンリーは、少しムスッとした表情をする。


「まあ、そういう事にしておこう。」

アイザックは、モナと顔を見合わせて笑いあった。

リアンも、それにつられて笑ってしまう。

地下室には、しばらく楽しそうな笑い声が響いていた。



 夜会の準備があるからと地下室を去るアイザックとフェンリーを見送り、リアンは一息吐いた。

モナは地下室に残り、リアンが使った荷物の片付けをしてくれている。

今日はこのまま眠ってしまおうか。

疲労の色濃く残る体をベッドに横たえると、すぐに意識がなくなってしまう。


 そして、次に目を開けたのは夜更けだった。

いつの間にかモナも姿を消していたが、リアンには布団が掛けられ、部屋もきれいになっている。

リアンは伸びをして起き上がった。

思っていたより熟睡していたようで、完全に目が冴えている。

このまま眠ることもできなだいだろうし、少し宮殿を見回ってみようか。

リアンは軽装に着替え、地下室を後にした。

万が一の時のため、全身をすっぽり覆うマントを羽織るのも忘れない。




 地下回廊を我が物顔で進んでいく。

夜会が行われているホールまで近付くと、宮廷楽師たちの奏でるメロディーが漏れ聞こえてきた。

夜会は朝まで続けれらる予定になっている。


 そっと、リアンはホールの様子を覗き込んだ。

普段は締め切られているが、地下回廊からホールに出られる扉があるのだ。

ホール側からは死角になり、その扉を認識することが難しい構造となっている。


 ホールの中央はダンス用スペースとなっており、多くの貴族たちがダンスに興じていた。

先程まで戦っていた第三王子二コラの姿も見受けられる。

闘技場での雄々しい姿とは異なり、穏やかな表情をしていた。


 少し離れたところでは、アイザックがカミラと談笑している。

カミラは隣国アルビオンに嫁いだ元第一王女であり、アイザックとリアンの同母姉弟でもある。

姉の元気そうな様子に一安心する。


 そんな時、アイザックがちらっとこちらに目をやり、カミラに何事か耳打ちした。

そしてさりげなく扉へ近付くと、「この後、控えの間へ」と呟いて去って行く。

さすがに兄上の目は誤魔化せなかったようだ。

アイザックに言われた通り、その場を去る。




 控えの間に到着すると、アイザックとカミラの姿があった。

人払いされているようで、他の者の姿はない。


「まあ、リアン。会いたかったわ。」

再会を喜び、カミラとリアンはハグを交わした。

瞳と同じ深紅の色のドレスが、カミラの妖艶さを際立たせている。


「姉上がお元気そうで何よりです。」

リアンは被っていたフードを取り払い、カミラに顔を見せた。

こうして姉上に合うのは久しぶりのことだ。


「今もアイザックの影を続けているのね。」

リアンの服装を見て、この国の習慣にも困ったものだとカミラは続ける。

カミラは昔からリアンの境遇を憂いていた。

隣国に嫁いでからもリアンのことを心配してくれていたようだ。


「はい。ですが僕は現状に満足していますので。」

リアンは、にっこりと答えた。

その様子に、あなたは変わらないわねとカミラは苦笑する。


「ところでリアン。先程アイザックとも話していたのだけれど、しばらくアルビオンに来ないかしら。ずっと王宮に閉じ込められたままでは息が詰まるでしょう。」

リアンを気遣っての提案なのだろう。

しかし王位継承争い真最中の王宮に、アイザックを残して行くわけにはいかない。


「ありがとうございます。ですが、僕は兄上から離れるわけにはいきません。」


「それなら問題ないわ。アイザックも一緒だもの。それともリアンだけ王宮に残る?」

……え?

と思い、アイザックに目を向けた。

やれやれと肩をすくめ、苦笑している。


「あまり、リアンを虐めないでやってください。姉上。」

アイザックの説明によると、エムレーア王国からアルビオンには毎年使者を送っているが、今年の使者にアイザックが指名されたそうだ。

カミラたちの帰国に合わせ、一緒にアルビオンへ向かうことが決まっているとの事。

それでリアンはどうする、とカミラに再び尋ねられた。


「もちろん行きます!」

即決だった。

アイザックが王宮から離れるのに、付いていかないという選択肢はない。


「兄弟仲が良いのは素晴らしいけれど、さすがに妬けてしまうわね。」

カミラの呟きがリアンに届くことはなかった。

人物紹介

◆カミラ(22)

アルビオン王国の皇太子妃。

エムレーア王国の元第一王女で、主人公の実姉でもある。

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