19 第三王子
剣闘会決勝。
その舞台に上がったのは、第一王子アイザックと第三王子二コラ。
奇しくも王位継承者同士の戦いとなったこの試合には注目が集まった。
2人の王子がこのように向かい合うのは久しぶりの事だ。
武術に長ける第三王子か、ここまで破竹の勢いで勝ち進んできた第一王子か。
観客たちは、息を飲んでその光景を見守る。
「兄上がここまで強いとは知りませんでした。正直驚いています。」
二コラが呟いた。
「今回は立会人がかかっているからね。自分の失態は、自分で取り戻す。」
これは、どちらかと言えばリアンの心境である。
失敗したまま終わる訳にはいかない。
「なるほど。兄上らしい理由だ。」
ふっと、ニコラが笑う。
その笑顔を見るのは久しぶりだった。
そういえば昔、アイザックとニコラが一緒に笑い合う姿をよく見たなと思い出す。
性格は違うが、根本的な考え方が似ており気が合ったようだ。
「ニコラは、何のために王を目指す。」
ふと、そんなことが気になり尋ねてみた。
「何のため、か。この試合で兄上が勝ったらお教えしましょう。」
ニコラがすっと目を細め、剣を構える。
試合前にこれ以上の言葉は不要ということだろう。
「それなら余計に負けるわけにはいかないね。」
リアンも剣を構える。
使い慣れた剣が手に馴染み、少しだけ緊張が和らぐ。
会場中が注目する中、試合が開始された。
しかし、どちらも全く動く気配がない。互いに出方を伺っていた。
ニコラの戦い方を一言で表すと、正統派だ。
基本に忠実で、お手本のような動きをする。
しかし、だからこそ隙がない。
それはニコラの性質を体現しているようでもある。
「はあああああ!」
覚悟を決めて、飛び込んだ。
無謀だと思っても、やらなければならない時がある。
キーン
予想通り、リアンの剣は受け止められた。
正面から剣がぶつかり合う事で、甲高い音が鳴り響く。
立て続けに攻撃を仕掛けたが、ことごとく止められてしまった。
こちらから仕掛けているつもりが、いつの間にか打たされているようだ。
一旦、二コラとの距離をとった。
リアンが攻撃の手を緩めると、二コラが攻撃に転じる。
それは猛攻という言葉がしっくりくる、すさまじい連撃だった。
一撃一撃が重い上、それが休む暇なく襲い掛かってくる。
何とかそれを受け止めるが、この攻撃を続けられては腕が使い物にならなくなってしまう。
既に痺れを感じ始めた腕に負担をかけないよう、避けることに専念する。
リアンは、自分と二コラの能力について考えた。
スピードこそ互角だが、パワー、テクニック共に二コラに軍配が上がる。
まともに戦って勝てる可能性は0に等しい。
では、リアンの方が優れていることは何か。
おそらく死線を潜ってきた経験量と、飛び道具を使ったトリッキーな攻撃だろう。
それをもとに突破口を探るが、うまく考えがまとまらない。
こんな時、兄上ならどう考える。
……だめだ、あの優し気な笑みしか思い浮かばない。
というか兄上が考えこんでいる姿を見たことがないな。
そんなことを考えている間にも、二コラの攻撃はどんどん威力を増していく。
シュトロハイム騎士団長には及ばないまでも、それに近しい威力があるだろう。
まだ若い二コラが次期騎士団長と評されるのも頷ける。
第四王子ライオネルが憧れを抱くのも道理だろう。
しかし――
基本に忠実な剣に、若さからくる実戦経験の少なさ。
そこを上手く突けば……。
リアンは、大きなバックステップにより二コラと距離をとった。
そして呼吸を整える。
チャンスは一度きり。絶対に成功させてみせる。
向き合う二コラに対して、リアンは剣を投げつけた。
剣は真っすぐ二コラに向かって飛んでいく。
一瞬呆気に取られた二コラだったが、すぐに剣を叩き落した。
しかし準々決勝を覚えているのか、その動作は無駄なく最小限に抑えられている。
剣を投げると同時に走り出していたリアンは、既に二コラの側まで迫っていた。
手には、懐から取り出したナイフを握っている。
そしてそのまま懐に飛び込む……と見せかけて、ナイフを二コラの頭上に投げ上げた。
高く飛んでいったナイフに一瞬だけ二コラの視線が移る。
そして視線を正面に戻した時には、リアンの姿が消えていた。
死角へ入り込んでいたリアンは、足払いをかけると同時に肩を強打する。
てこの原理に従い二コラの体勢が倒れていく。
リアンはそのまま二コラの上に乗り上げて体を抑えつけた。
先程投げ上げたナイフが、すぐ近くの地面に突き刺さる。
――勝った、のか
半ば信じられない気持ちで、審判に目を向けた。
神妙に頷く審判と目が合う。
「勝者、アイザック=ブレイズ殿下!」
観客の大歓声が響き渡った。
貴賓席を見れば、国王も立ち上がってこちらに拍手を送っている。
それを見て、少しずつ実感が湧いてきた
今度こそ失敗せずにやりきったのだ。
隠しきれない嬉しさが込み上げてくる。
視線を下に向ければ、二コラが呆然としていた。
今起きたことが信じられないようだ。
そんな二コラの上から体をずらし、手を貸した。
戸惑いながらもその手を掴んで二コラは立ち上がる。
その後、地に足突かぬ気持ちで表彰式に参加し、剣闘会は幕を閉じた。
観客たちは、興奮冷めやらぬまま闘技場を後にする。
リアンも帰ろうかと思ったところで二コラから呼び止められた。
「私が王を望む理由……。それは強い国を作るためです。他国から侵略されない強い国を作るためには、父上のような強い王が必要だ。兄弟の中でそれを為せるのは私だけだと思っていました。でもそれは違うのかもれしませんね。しかし私を支持してくれる者がいる以上、兄上に王位を譲るつもりはありません。」
二コラはそれだけ言うと、去ってしまう。
試合前の約束を覚えてくれていたようだった。
それにしても……強い国。
それは、オスカーの言っていた自由な国とは異なる理想だった。
どちらが良いのかは分からない。
けれど、どちらも大切なことなのは理解できる。
皆がそれそれの理想を追うために戦っていることも。
では、兄の理想は何なのだろう。
そんなことを思った。




