18 騎士団長
――ブレイジア祭2日目。
円形闘技場は、前日以上に盛り上がっていた。
貴賓席には、国王や貴族、それに他国の王族の姿も見える。
闘技場の中央には予選突破した参加者8名が集められ、抽選によって決められたトーナメントを確認していた。
リアンは、順当にいけば準決勝でシュトロハイム騎士団長、決勝で第三王子ニコラにあたるようだ。
昨日の事を思うと一筋縄ではいかないだろう。
予選終了後も、しばらく腕が痺れるような感覚があった。
トーナメントの確認が終わると、いよいよ第一試合だ。
第一試合には、アイザックの名前が記載されている。
他の参加者たちが場外へ移動するのを横目に、リアンは対戦相手に目を向けた。
近衛騎士であることを表す、金の刺繍が入った服を着ている。
優秀な騎士のようで、胸元にはいくつかの勲章を付けていた。
審判が闘技場の中央に立ち、右手を上げると、ざわついていた技場に静寂が訪れる。
相手の近衛騎士には悪いがこの試合、長引かせる気はない。
勝負は一瞬で決めさせてもらう。
リアンは昂る気持ちを抑え、腰にさげた剣に手を置いた。
――そして。
審判の手が振り下ろされた瞬間、リアンは全身のバネを目一杯使って飛び出した。
近衛騎士もこちらに剣先を向けてくるが、懐から取り出したナイフを投げつける。
それを弾くために近衛騎士が剣を下げるタイミングを見計らい、懐まで飛び込んだ。
こうなれば最早勝負は決まったようなもの。
懐から突き上げるようにして、近衛騎士の持っていた剣を弾き飛ばした。
カラン、カラン。
闘技場には、剣の転がる音だけが響き渡る。
審判が我に帰り、アイザックの勝利を宣言した瞬間、耳をつんざくような歓声が上がった。
試合開始からわずか5秒。
こんな一瞬で勝負を決まるとは誰も予想していなかったようだ。
歓声を背に、リアンは闘技場の参加者待機エリアへ向かう。
途中、驚いた表情をした二コラと目が合った。
第二試合以降は順当に進み、準決勝の相手はシュトロハイムに決まった。
相手も決して弱くなかったが、シュトロハイムが強すぎたのだ。
あの大剣を受け止めるのは、並大抵のことではない。
しかし昨年、そのシュトロハイムと互角に渡り合ったのが二コラだった。
とてもではないが、線の細いリアンでは同じ戦い方は出来ない。
少しの休憩を挟み、準決勝が開始された。
リアンとシュトロハイムは、闘技場の真ん中で向かい合う。
「先程の試合はお見事でした、アイザック殿下。しかし私はそう簡単に倒せませんぞ。」
「まぐれだよ。それに騎士団長の強さは、嫌と言うほど知っているからね。」
リアンは昨日と同じように右手をひらひらと振り、肩をすくめた。
「それはご謙遜を。どちらにせよ、この試合が終われば分かることです。」
シュトロハイムが大剣を正面に構えるのを見て、アイザックも剣を構える。
ただし、いつもの剣より細身のものだ。
昨日の戦いで分かったが、シュトロハイムの攻撃を1回でもまともに受けたら終わりだ。
そうであればと、攻撃力や頑丈さより機動性を重視して軽い剣を選んだ。
審判が手を振り下ろし、試合が開始される。
身の丈程もある大剣が、その大きさからは考えられない速度で飛んできた。
シュトロハイムの体全体を観察し、動きを予測しながら避けていく。
さすがにここまで大きい剣を扱うと予備動作が大きくなり、予測しやすい。
しかし攻撃範囲が広いため、避けるのに精一杯となってしまう。
試合前に幾度となくシミュレーションを繰り返したが、チャンスはたったの1度きりだ。
それを逃せばリアンの勝てる見込みはなくなってしまう。
だからその時が来るまでは、とにかく耐えるしかない。
横から薙ぎ払うような一撃が飛んできた。
それを高く跳躍することで避ける。
着地する瞬間を狙って突きが飛んでくるが、浅い角度で剣をあてて軌道をずらした。
そのまま懐に飛び込めるかと思いきや、それを察知したシュトロハイムが後方に跳躍した。
やはり一筋縄にはいかないようだ。
リアンからもスピードと速度を活かして攻撃を試みるが、うまく躱されてしまう。
深く踏み込めば、逆にこちらが切られてしまうため、思うような攻撃ができないでいた。
しばらく打ち合った頃だろうか。
上段攻撃を避けるために腰を落としたリアンに、シュトロハイムが剣を大きく振りかぶった。
剣の重さを最大限に活かし、今日一番の速度で剣が振り下ろされる。
――ここだ!
リアンは体を1回転ひねり、大剣を上から叩き切った。
剣の重さにプラスして上からの力が加わったことにより、シュトロハイムは一瞬体制を崩す。
その隙に懐へ入り込み、剣を首筋に宛がった。
首筋からは一筋の血が流れ出す。
「勝者、アイザック=ブレイズ殿下!」
審判の宣言を聞いて、リアンは剣を下ろした。
安堵に倒れ込みそうになったが、その体をシュトロハイムが支える。
「参りました。剣の腕はもちろん、一瞬の判断力や機動力も素晴らしかった。私もそろそろ引退時かもしれませんな。」
「何を言うか。10回やれば9回は騎士団長が勝っていただろう。」
もう一度戦ったら間違いなく負けるだろう。それほどに強かった。
「その1回を引き寄せることが戦場では重要なのです。アイザック殿下にはその力があったまで。決勝戦を楽しみにしておりますぞ。」
シュトロハイムが豪快に笑った。
「ありがとう。」
リアンが感謝を伝えると、シュトロハイムは去って行った。
リアンは脱力して、参加者待機エリアに座り込んだ。
やっとここまでこれた。あと一勝……。
数分後、闘技場の中央では二コラが決勝進出を決めていた。




