17 剣闘会予選
円形闘技場には、溢れんばかり人が押し寄せていた。
参加者を応援する者、賭博に興じる者、刺激を求めて観戦に来た者。
理由は様々だったが、皆一様に盛り上がっている。
闘技場の真ん中では、100名程度の参加者たちが開始の合図を待っていた。
武器に制限はない為、剣に槍、棍棒まで各々の武器を構えている。
リアンも剣を構え、周りの参加者たちの様子を伺う。
今日のために用意してきた作戦は、できるだけ戦わない事。
予選はバトルロワイヤル形式で行われるため、極端な事を言えば1人も倒さず勝つことも可能だ。
とは言え、他の参加者がそれを許さないだろう。
だから人数が多いうちは交戦を避けつつ体力を温存し、ある程度まで絞られたら戦うと決めている。
卑怯な作戦だとは思ったが、これも勝つためには仕方ない。
兄上にこの作戦について相談した時も、笑って許可してくれた。
その為には、参加者たちの死角を位置取ることが必要だ。
他の参加者と真正面に向き合うことのない位置を探し出し、気付かれないよう移動する。
闘技場に入ってからは、それを繰り返していた。
そして――その時は訪れた。
開始の合図と共に参加者たちが雄叫びを上げ、一斉に動き出す。
リアンはそれを避けつつ、巻き込まれない位置に移動した。
目の前では、槍を持った大きな男と剣士が交戦している。
どちらも中々の腕前のようだ。
闘技場の中央付近では、第三王子ニコラとシュトロハイム騎士団長が大勢の参加者たちに囲まれていた。
優勝候補を早い段階で倒そうという魂胆だろう。
それをものともせず、2人は参加者たちを凪ぎ払っていく。
その度に観客席からは歓声が上がった。
半分以上の参加者が脱落しただろうか。
リアンの目の前には1人の騎士が立ちはだかっていた。
胸元には隊長の階級章が光っている。
「アイザック殿下と言えど、ここは本気で戦わせて頂きます。」
男は正眼の構えをとった。
「クロスフォードか。私も負ける訳にはいかないのでね。」
相手は王国騎士団の隊長。油断していると簡単に負けてしまう。
クロスフォードに応えるよう、リアンも剣を構える。
両者睨み合いとなり、相手の隙を伺った。
――キーン
同時に踏み込み、剣がぶつかり合う。
踏み込みは互角だったようで、お互いの剣が弾かれた。
リアンはすぐさま体勢を整え、右足を踏み込んで突きを狙ったがクロスフォードに避けられてしまう。
しかし、気にせず2度3度と突きを繰り返していく。
リアン最大の武器は身軽さを活かした速さだ。
相手に隙を与えることなく攻め続ければ、こちらのペースで勝負を進めることができる。
想定通り、クロスフォードは防戦一方となっていた。
しかし、リアンの方も決定打を決めることができない。
さすが隊長と言ったところか。
それならばと、より速い突きを繰り出すため深く踏み込んだ。
しかし体が前に流れてしまい、隙ができた。
「はあああああ!」
隙を逃すまいと、クロスフォードが切り込んでくる。
それを避けようとするが、深く踏み込んでしまったが為に体勢を立て直すのに時間がかかる。
そうしている間にクロスフォードの剣はぐんぐん近づき、当たる……と思った瞬間。
リアンは、ニヤッと笑みを浮かべた。
――ドン
クロスフォードは一瞬何が起こったのか分からなかった。
剣が当たると思った直前、目の前にいたアイザックの姿が消えたのだ。
そして次の瞬間、腹部に衝撃を受けて場外まで弾き飛ばされていた。
実はあの時、リアンは体が流されたように見せただけだった。
剣が当たる直前に腰を落とし、クロスフォードに回し蹴りを放ったのだ。
クロスフォードは、剣先のアイザックに集中し過ぎていたため高低差に目が追い付かなかった。
「アイザック殿下がここまでお強いとは……。これは台風の目になるか。」
闘技場の場外で、クロスフォードは思わず呟いた。
リアンとクロスフォードが闘っている間に、参加者はかなり絞られていた。
後は時が経つのを待てば良いだろうか。そう思って辺りを見渡した時だった。
強烈な覇気を感じて、思わず剣でガードする。
瞬間、とてつもない力で剣ごと吹き飛ばされた。
何とか空中で剣を地面に突き刺し、場外まで吹き飛ばされるのを防ぐ。
視線を戻せば、身の丈程もある大剣を構えた大男が立っていた。
シュトロハイム騎士団長、その人である。
こんなところで目を付けられるなんて運がない。
「今の一撃をよく耐えましたな、アイザック殿下。」
シュトロハイムは、ガハハと豪快に笑った。
「おかげさまで、手がビリビリしているよ。」
リアンは、右手をひらひらと振った。
先程の衝撃を正面から受けてしまったため、実際に右手はじんじんと痺れている。
これは非常にまずい。
「これで弱音を吐かれていて、次の攻撃が避けられますかな。」
シュトロハイムが、再び大剣を振りかぶってきた。
次、まともに受けては終わりだ。
「だあああああ」
シュトロハイムが切りかかってくるタイミングを見計らい、転がって剣を避ける。
そして次の攻撃に備えて、体勢を立て直した瞬間。
――カーン、カーン
予選終了を知らせる鐘が響き渡った。
「勝負は明日に持ち越しですな。」
シュトロハイムは、再度豪快に笑うとその場を去っていた。
命拾いした……




