15 黒狼
次話からブレイジア祭が始まる予定です。
それまで、もう少しお付き合いください。
剣闘会のことを聞いて以来、リアンは朝の鍛練の時間を倍に増やした。
より実践的な鍛練をするため、時間の都合が着く限りフェンリーにも付き合ってもらっている。
また、公務の資料を定期的に見せて貰えるようアイザックと約束を交わした。
ただ言われた通りに行動するのではなく、その意図や目的を把握しておきたいと思ったのだ。
それを伝えた時、兄上が嬉しそうな顔をしていたのを覚えている。
そして変わった事と言えばもう1つ。
――あれは父上の命令を遂行するため、歓楽街を中心に見回りをした帰りだった。
主要な通りの巡回を終えて帰ろうとした矢先、目の前を黒い影が通り抜けた。
犬や猫にしては大きい獣だったと思う。
人に害なす獣だと危ない思い、咄嗟に後を追った。
とは言え、相手は4足歩行の獣。
追いつけるはずなく、どんどん離される。
もう見失う……そう思った時だった。獣の正面に男が現れたのだ。
獣はぐんぐんと、その男に近づいていく。
このままでは危険と判断し、懐に仕込んであった投擲用ナイフを、男と獣の間の地面目掛けて放つ。
ナイフは真っすぐに飛んでいき、地面に突き刺さる……直前に叩き落された。
獣はいつの間にか男の腕の中に飛び込んでいる。
「一体どういうつもり?」
ひとしきり獣を撫で終わった男が、すくっと立ち上がった。
不機嫌そうに、こちらを睨み付けている。
金の髪に褐色の肌、そしてエキゾチックな顔立ち。
おそらく王国の人間ではないだろう。
足元に侍る獣と並ぶと、どこか神聖なもののように感じる。
「あなたの子飼いだったとは申し訳ない。もしもの事があってはと思い対処したが、早計だったようだ。」
リアンは獣に目を向け、事情を説明した。
近くで見ると、黒い大きな犬――いや、狼のようだ。
「ふーん。見るからに怪しそうだけど。」
男は、リアンの頭から爪先まで胡散臭そうに眺めた。
確かに今日は全身をすっぽり覆うマントに、目深に被ったフード。首元にもストールを巻いている。
怪しく見えるのも仕方ないだろう。
「決して怪しい者ではない。国王の勅命を受け、この辺りの見回りをしていた。兵士だと目立ちすぎるからな。」
事情を説明するが、信用していないようだ。
胡散臭そうにこちらを見る表情に変化はない。
「あんたの風貌でそれは信じられない。俺はここで失礼させてもらうぜ。」
男は黒狼を引き連れ、その場を去ろうとした。
黒狼も立ち上がり、それに続こうとする。
しかし、さすがにこのまま帰す訳にはいかない。
「いや待て、あなたは王国民ではないな。こんな所で何をしていた。」
「ただの散歩だよ。滞在許可書も持ってる。」
男は面倒くさそうに、こちらを振り返った。
関わりたくないという雰囲気が、全身からあふれ出ている。
「滞在許可書を見せてもらおうか。そうしたら帰っても構わない。」
「……分かったよ。あんた、見せるまで引かなさそうだからな。」
男は渋々と懐から滞在許可書を取り出した。
中身を確認すると、確かに国王の印が押された本物のようだった。
特記事項として、黒狼のことも記載されている。
本人の物で間違いないだろう。
「時間を取らせてしまって申し訳ない。」
「じゃ、俺は行くぜ。」
男は、黒狼を引き連れ去っていった。
リアンも、その背中が暗闇に消えるのを見届けてその場を後する。
その後、父上にもこの出来事を報告したが、追加調査は必要ないとの事だった。
その男に心当たりがあるそうだ。




