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14 後悔

「申し訳ありません、兄上。」


 王宮に戻ったリアンは、すぐにアイザックのもとへ足を運び謝罪した。

アイザックは、地下室のベッドから半身を起こしている。


「頭を上げて、リアン。今回のことは、体調管理のできなかった私に非がある。」


「しかし……僕がもっとうまく立ち回れていれば。」

後悔の念がとめどなく沸き起こる。

あの時、もっとうまく立ち回れば回避できたのではないか。


「エリックにうまくやられた、それだけの事さ。その経験を次に活かせばいい。」

アイザックは、リアンの頭にポンと手を乗せた。


「申し訳ありません……次は、絶対に失敗しません。」

リアンは泣きそうになる気持ちを抑えて、宣言した。

もうこんな悔しい思いはしたくない。


「そうだね。これからも頼んだよ。」

リアンの髪をくしゃくしゃっと撫で、アイザックの手は離れていく。

それに、寂しさとやるせなさを感じた。



 アイザックの去ったベッドを眺め、リアンは気持ちを新たにした。

このような失敗は二度とし繰り返さない。

兄上の影武者を完璧に務めてみせる。




「リアン様はよろしかったのですか。」

アイザックの自室へ戻る道中。

フェンリーがアイザックに尋ねた。


「リアンは、こんなことで折れたりしないよ。それに今回の事は良い経験になっただろう。」


「それなら良いのですが……」

リアンの事になると、途端心配性になるフェンリーに苦笑する。

フェンリーもまた、リアンの傍に控えていながら何もできなかった事を気にしていた。


「大丈夫さ。それより、フェンリー。教皇が見せてきたのは、風をモチーフにした設置台で間違いないか。」


「それは間違いありません。吹き上げる風の上にエターナルブレイズが燃え盛るデザインです。」

教皇の出してきたデザインを思い出す。


「教皇がそれを出してくるということは、エリックが教会も手中に収めたと考えた方が良さそうだね。」


「はい。現教皇は風の四大名家ウィンザー家の出。エリック様の実母であるレオーナ妃の叔父にあたります。その繋がりを利用して接触を図っていたと思われます。現当主サイラス=ウィンザー侯爵が関わっている可能性もあるかと。」


 レオーナ妃は現ウィンザー侯爵の姉であり、王家との結びつきを強めるため王家に嫁いできた。

第二王子エリックをはじめ、第四王子ライオネル、第二王女メリル、第四王女ナタリーの実母でもある。

国王の寵愛が深く、四大名家とも繋がりがあるため王宮での影響力が強い。

教皇ローレンスは前当主の弟であるため、現ウィンザー侯爵やレオーナ妃の叔父にあたるのだ。


「ウィンザー侯爵も関係していると見て、まず間違いないだろう。」

四大名家に教会。恐ろしく厄介な相手を敵に回してしまった。

だが、ある程度は想定していたことでもある。


「それで、父上は今回の事について何と?」

この知らせを受けた国王は、どう思うのだろう。

おそらくアイザックの失態と感じるのではないか。


「アルバート陛下は、神炎の儀(しんえんのぎ)の立ち合い人を白紙に戻すと仰せです。」


「なっ。誰が立会人となった?」


 立会人は、エターナルブレイズを再点火する際にそれを補助する役目である。

基本的には王子に任せられる役割であり、立会人となった者が次期国王となることが多い。

それ故、王国民たちは立会人を国王の認めた後継者と認識してしまう。

神炎の儀の手配を任された時、その役割はアイザックに決まっていた。


「剣闘会で優勝した者を神炎の儀の立会人にされるそうです。剣闘会への参加は、本人でなく代理人を立てても問題ないそうですが。」


「そうか……。私も代理人を選ばないとな。」


 現実的に考えて、アイザックが剣闘会で優勝するのは難しい。

本気で挑んだところで、第三王子二コラに敵わないだろう。

だが一体誰に頼むか。

微妙な立ち位置にある第一王子の代理人として参加してくれる強者。


「あくまで私の意見となってしまうのですが。」

目ぼしい者を脳内でリストアップしている時、フェンリーがためらいがちに声をかけてきた。

フェンリーがこのような言い回しをする事は珍しい。


「どうしたんだ。」


「その……リアン様に依頼してはいかがでしょうか。」


「リアンの剣の腕前は、私より少し立つ程度。剣闘会で優勝は難しいと思うけれど。」


「それはアイザック様と共に鍛錬をしていた数年前までのことです。リアン様はその後も鍛錬を続けています。」

フェンリーは、リアンが毎朝鍛錬を続けている姿を見ている。

その姿を見るに、数年前より格段に強くなっていた。


「相当の自信があるようだね。けれど次も失敗すれば、今度こそリアンは立ち直れなくなってしまう可能性があるが構わないのか?」


「私はリアン様を信じておりますので。リアン様にチャンスを与えて頂けないでしょうか。」

フェンリーが頭を下げた。

ここまで必死になるのはリアンの為なのだろう。

その姿に、リアンに賭けてみても良いかと思った。


「分かった。リアンとフェンリーを信じよう。リアンにも伝えておいてくれ。」


「ありがとうございます。」


 恭しく頭を下げるフェンリーを背に、アイザックは自嘲気味に笑った。

情に流されるとは、私もまだ甘い部分が残っていたものだ。


 しかし、次は失敗しないと誓うリアンの姿や、必死に頼んできたフェンリーの姿を思い出す。

偶にはそれも悪くないかと思い直した。

世間では完璧王子とまで言われているが、私もただの人間ということだ。


人物紹介

◆レオーナ=ブレイズ(39)

エムレーア王国国王の側妃。四大名家のウィンザー家出身。

第王子エリック、第四王子ライオネル、第二王女メリル、第四王女ナタリーの実母。


◆サイラス=ウィンザー(38)

風の四大名家ウィンザー家の現当主。レオーナ妃の実弟。

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