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13 教皇

「アイザック様、ナタリー様。間もなく教会に到着致します。」

フェンリーの声に、馬車の外を覗くと巨大な教会が見えた。

神の薬を手に入れるため訪れた教会に比べると、10倍以上の大きさだ。

エムリア教の総本山。エムリア中央教会である。


 常時数百人の神職が勤めており、修行で滞在している者を含めるとその数は千を超える。

信仰心の強い王国民は度々ここを訪れるため、参拝者も後を絶たない。

リアンも影武者として何度か訪れたことがあるが、いつ来ても賑わっている。



 馬車を降りると、枢機卿ランドルフに出迎えられた。

教皇に次ぐ、エムリア教のNo.2である。

黒を基調とした祭服に、黄色のストラを身に付けている。

瞳の色に合わせたストラを身に着けることになっているそうだ。

青にも見える黒髪の奥に、ストラと同じ鮮やかな黄色の瞳が覗いている。


「ようこそ、お越しくださいました。アイザック殿下。ナタリー殿下。」


「お出迎えありがとうございます、ランドルフ猊下。」

リアンが挨拶をすると、ナタリーもそれに続く。

ランドルフはあまり表情が顔に出ないタイプのようで感情が分かりにくい。


「それでは、教皇ローレンス聖下のもとへご案内致します。」

ランドルフに続き、教会を歩いていく。


 壁や天井に描かれた宗教画が、教会の厳かな雰囲気を増長させている。

何気なく置いてある装飾品の数々も、近くで見れば非常に価値あるものだと分かる。

途中で何人かの神職たちとすれ違ったが、リアンたちの姿が見えると道を空け頭を下げた。

王子に、というより枢機卿に対して敬意を払っているよう見受けられる。



「お待ち致しておりました。アイザック殿下、ナタリー殿下。」

しばらく進んだ先、豪華な扉を開けると教皇の姿があった。

教皇のみが着ることを許される白を基調とした祭服に、緑のストラを纏っている。

こちらを覗く瞳は、フェンリー以上に鮮やかな緑だ。


 聖職者のトップということもあってか、人好きのする顔をしている。

しかし裏では過激派として知られており、教会に敵対する者には容赦がない。

アイザックも、常日頃から教会は敵に回してはいけないと言っていた。


「本日もよろしくお願いします。ローレンス聖下。」


「こちらこそよろしくお願いします。さあ、こちらにおかけください。ナタリー殿下もどうぞ。」

勧められたソファに腰をかける。

ナタリーが隣に座り、正面にはローレンスとランドルフが座っている。

フェンリーは、リアンの後に立ったまま待機しているようだ。


「さっそくですが、前回の続きから確認させて頂いてよろしいでしょうか。」

ランドルフが資料をめくりながら、今日の議題について確認した。


 今日の主な議題は、新たなエターナルブレイズの設置台についてだ。

既にアイザックから数枚のデザイン案を教皇に手渡しているため、その中から採用するデザインを決定することになっていた。


「せっかくお持ちいただいたデザイン案ですが、この中から選択することはできません。」

ローレンスは、デザイン案をひらひらとさせてた。


「何故でしょうか。何か不備がありましたか?」

事前にリアンも目を通していたが、特に問題ないように思える。

過去のデザインを参考にアイザックがテーマを決め、王宮の絵師に描かせたものだ。


「テーマにされている炎竜はブレイズ家の象徴です。エムリア教の平等の教義からすると、国家の象徴のエターナルブレイズを、ブレイズ家の象徴を模した台に設置することは認められません。」


 どう考えても言いがかりだ。

過去のデザインも、炎やブレイズ家にまつわるものを何かしら使っている。

それが急に認められないだなんて。


 ローレンスに目を向ければ、ニヤニヤと口角を上げていた。

ランドルフの表情は読み取れないが、何も言わないことから教皇と同意見なのだろう。

何を持ってきても認めるつもりはなかったのか。


「それでは、どのようなデザインがご希望でしょうか。」

仕方がないので、教会側の意見を確認することにした。


「実は、他にも素晴らしいデザイン案を王宮から頂いています。」

そう言って、ローレンスは1枚の紙を懐から取り出した。


 それを見たリアンは、今度こそ絶句した。

吹き荒れる風の上で、設置予定のエターナルブレイズが燃え盛るデザインだった。

どう見ても風をモチーフとしたデザインである。

「これは……一体どこから。」


「エリック殿下から事前に頂いていたのです。エリック殿下には優秀な絵師がいるようですね。」


「ですが……さすがにこれは認められません。それこそ平等の教義から外れていないでしょうか。」


「炎以外のエレメンタルを取り入れたデザイン。真の平等だと言えましょう。それにお忘れですか。ここでの議題は、()()()と教会側が合意すれば決定されると。アイザック殿下が認められないと仰られても、ナタリー殿下はどうでしょうかね。」

ローレンスは、口角を上げたままナタリーに問いかけた。

ナタリーは隣で肩を震わせている。


「私は……。」

今にも泣きだしそうだった。

エリックから何も聞かされていなかったのだろう。

ナタリーの立場を考えれば、ここでアイザックの意見に同調するのは難しい。


 ナタリーは、リアンにしか聞こえない声で

ごめんなさい……アイザック兄様

と呟いた。


「私も……そのデザイン案に賛同します。」

そしてエリックのデザイン案に賛同したことで、設置台のデザインが決定した。




 その後のことはよく覚えていない。

気付いたら王宮まで戻ってきていた。


 帰りの馬車では、ナタリーと話すことはなかった。


人物紹介

◆ローレンス(58)

エムリア教の教皇。強力な風のエレメンタルの使い手。


◆ランドルフ(49)

エムリア教の枢機卿。強力な土のエレメンタルの使い手。

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