12 第四王女
ある日の朝。
リアンは非常に焦っていた。
原因は早朝にフェンリーからもたらされた報告。
アイザックが体調不良により倒れたというのだ。
ここ最近アイザックの抱える仕事は激増しており、昨夜も明け方まで執務室に籠っていた。
本来の第一王子の公務に加え、ブレイジア祭関係の調整業務。
そして、国民からの支持が強いアイザックには直接嘆願書が届くこともある。
それら全てに、手を抜くことなく対応していたと言う。
幸いなことに、アイザックお抱えの医師の診断によると、ただの過労のため1日休めば回復するそうだ。
しかし問題になってくるのは今日1日。
ブレイジア祭に向け、教会との重要な打ち合わせが予定されていた。
体調不良で延期にすればとも思うが、王位継承争い真最中に弱味を見せるのは危険だという。
第一王子は教会をないがしろにしている、なんて噂でも流されたら致命的だ。
そこで白羽の矢が立ったのがリアンだった。
今日1日リアンが影武者として過ごせば、そんな噂を立てられる心配もない。
何も問題ないように思えた……リアン以外には。
そもそもの前提として、リアンがアイザックと入れ替わる時、事前に入念な打ち合わせが実施される。
それこそリアンは、アイザックに言われるがまま行動しているのだ。
しかしアイザックが体調不良で寝込んでいるため、それは難しい。
藁にも縋る思いでアイザックからの指示をフェンリーに確認したが、「任せる」と一言。
そして、神炎の儀に関する資料一式と、ここまでの経緯がまとめられた資料を渡された。
本日夕方の打ち合わせまでに目を通しておくように、という指示付きで。
その資料の多さにリアンは天を仰いだ。
資料は小難しい文章が並ぶだけでなく、アイザック直筆の解説も入っていたため理解しやすかった。
儀式の内容だけでなく、なぜそれが行われるのか理由まで調べられているようだ。
アイザックの几帳面さが伺える。
その中に、興味深い記述を見つけた。
神炎の儀が行われるようになった理由についてだ。
――今から400年前。
国王在任中にエターナルブレイズが消えてしまう事件が発生した。
それも王宮に燃え盛っていた炎だけ忽然と。
王国中の有識者を集めて調査が行われたが、結局原因は不明。
しかも、何故かエターナルブレイズを再点火することができなかった。
困り果てた国王が時の預言者に相談した所、場所を変えれば点火できると言う。
そこで王宮の別の塔で試したところ点火できたため、エターナルブレイズの位置を変える儀式が続けられている。
エターナルブレイズが消えたことがあるとは初耳だった。
場所を変えなければ点火出来なかったというのも分からない。
その場所に何か特別な力が働いていたのだろうか。
それともエターナルブレイズには同じ場所で燃え続けれない性質があるのか?
エターナルブレイズは国王しか操れないという性質上、詳細な情報が出回ることはない。
もしかしたら代々の国王には引き継がれている可能性があるが、リアンがそれを知る術はない。
兄上が国王になれば、そのあたりも教えてもらえないだろうか。
数時間後、リアンはアイザックに成り代わり、教会へ向かう馬車の中にいた。
膨大な資料にも何とか目を通すことができた。
それにフェンリーが従者として同行する事となったため、内心安堵している。
正面には、第四王女ナタリーが座っていた。
今回アイザックと共に神炎の儀の手配を任されているのだ。
「アイザックお兄様と一緒にお仕事ができるなんで幸せです。」
ナタリーが、花のほころぶような笑みを見せた。
かわいらしいナタリーだが、その実、恐ろしい程のエレメンタルの使い手だ。
扱えるエレメンタルの強さは国王アルバートに匹敵するとも言われており、彼女の手にかかれば辺り一面が火の海になってしまう。
しかし本人が争いごとを好まない温和な性格をしているため、今のところ問題が発生したことはない。
「私と一緒ではエリックに何か言われないか?」
第二王子エリックはナタリーと同母兄妹である。
「それはそれ、これはこれです。私は、兄弟皆で仲良くできればと思っています。難しいのは分かっていますが……。」
それは素晴らしいことだと思う。
しかし現実として僕は兄上を国王にと願い、そのために残酷な手段をとることもある。
それは他の兄弟たちも同じだ。
「ナタリーは、私たち兄弟の中で1番大人なのかもしれないね。」
「そんなことはありません。私が子どものように夢見てるだけです。ライオネルでさえ、そんなことは言いませんし。」
第四王子ライオネルとナタリーは年齢が近いこともあり、仲が良いようだ。
一緒にいる姿を見かけることも多い。
「ライオネルも男だからね。男は、女性よりも子供っぽいところがあるんだよ。」
「まあ。」
ナタリーは、くすくすと笑った。
願わくばこの先、彼女と争うようなことが起きなければと思う。




