11 酒場
しとしとと雨降る夜更け。
リアンは、とある酒場を訪れていた。
カウンター席の隅を陣取り、静かに酒を口にする。
顔が見えにくいよう目深なフードを被っているが、薄暗い店内である上、酒に酔っている者が多いため其ほど不審に思われることはない。
カウンター席は疎らだが、テーブル席はいくつかのグループ客でそれなりに埋まっていた。
そのうちの1つ。中央よりのテーブル席で何やら盛り上がっている。
「今年も優勝はシュトロハイム団長だろ。」
「いやいや、今年こそニコラ王子だな。」
テーブルには、剣闘会のチラシが置かれていた。
剣闘会では、公式に賭博が許可されているため大変盛り上がる。
皆、事前情報の入手に余念がなく、このような会話がそこかしこで行われるのだ。
「ニコラ王子も強いとは思うがまだまだ若い。熟練の技には勝てないね。」
「シュトロハイム団長こそ、そろそろ歳には勝てないんじゃないか。」
「むっ。それならクロスフォード隊長はどうだ?」
「渋いが、悪くないな。オッズもそこそこで、勝てる可能性も十分だ。」
誰に賭けるべきか各々で意見を出し合っている。
ちなみに昨年の優勝者は、アーサー=シュトロハイム。王国騎士団の団長だ。
そして準優勝が二コラ第三王子。
王国騎士団の第一隊長セシル=クロスフォードは、準々決勝で二コラに負けている。
「そうだな。穴狙いで行くなら、アイザック王子はどうだ?」
「アイザック王子が勝つのは難しいだろ。太刀筋は悪くないが、どうにも立ち回りが悪い。」
聞捨てならないことが聞こえ、耳を傾けた。
どうもアイザックには、剣闘会をお祭りの延長線と考えている節がある。
そのためいつも適当な所で負けてしまう。
本気になれば、もっと勝ち進むこともできるはずだ。
「さすがに難しいか。それなら同じ穴狙いでも、エリック王子はどうだ?」
「そっちのが可能性はあるか。」
それはさすがに聞き流せない。
兄上が、エリックに剣で劣っているなど。
二コラに負けるのは、まだ許せる。彼は本職の騎士であるし、相応の訓練も積んでいる。
しかしエリックは元々エレメンタル重視であり、剣にはそれほど力を入れていないのだ。
エレメンタル使用禁止の剣闘会で、兄上が負けるなどあり得ない。
今年は本気で挑んでもらうよう頼んでみようか。
「アルバート陛下が参加していた時は、ここまで考えなくて済んだのにな。」
1人の男が呟いた。
「皆がアルバート陛下に賭けるから、賭けが成立しなくなるだろ。」
「それは困るな。」
男たちは顔を見合わせ、笑いあった。
アルバートは国王になるまで毎年剣闘会に参加しており、前人未到の10連覇を成し遂げている。
圧倒的な強さで、誰も寄せ付けなかったそうだ。
皆が皆アルバートに賭けたため、オッズはほぼ1倍だったという。
それはそれで盛り上がらないように思えるが、アルバートの強さ見たさに人が溢れたそうだ。
今でも伝説として語り継がれている。
しばらくして、剣闘会の話題で盛り上がっていた一団は引き上げていった。
気付けば、酒場に残っている者も少なくなったようだ。
リアンも頃合いかと席を立つ。
特に怪しい動きをする者はいなかった。
父上に報告することもないだろう。
人物紹介
◆アーサー=シュトロハイム(51)
王国騎士団の団長。
◆セシル=クロスフォード(32)
王国騎士団の隊長。




