116話 臭い
少し不貞腐れて両手をポケットに突っ込みながら肩を丸めるゼセットと、楽しげに俺の左腕を胸に押し当ててくるミゼア。
俺達はカフェテラスを後にして、クソキノコことメルトの住むキノコハウスを目指して森の中を歩いている。
夕べメルトとタコルと別れてから二匹には会っていないのだが、どうせキノコハウスに二匹共いてるだろうと考え、向かっている途中なのだ。
「で、これは今どこに向かっているんだ? 俺は一睡もしていなくて疲れてんだぞ」
「昨日お前が殺しかけたキノコとタコがいたであろう? アイツ等の所に向かっているのだ」
「どうしてあの二匹の元に向かってるんだい?」
ミゼアがムギュっとふわふわなスライムおっぱいを押してけて来るもんだから、ついつい鼻の下が伸びてしまう。
その俺のいやらしい顔が気に食わなかったのか、右後方からシスコンのゼセットが物凄い殺気を飛ばしてきておる。
「あのキノコに妖精の都への案内をしてもらうのだ」
「「妖精の都?」」
やはり魔大陸で育った二人も聞き覚えがなかったのか、頭にクエスチョンマークを浮かべながら、あまり興味なさそうな感じだ。
キノコハウスに着くまでの間、俺は妖精の都を目指している目的と経緯について簡単に二人に説明することにした。
「そのサラとかいう人間に掛けられた呪いを解く事が目的なんだね」
「……呪いを解く?」
俺の説明を訊いて目的を理解したけどあまり興味がなさそうなミゼアとは対照的に、俺の後方で小さく囁いては俯くゼセット。
そんなゼセットは何かよからぬ事でも閃いたのか、少し口角が上がっている。
まぁ、食い意地の張ったゼセットの考えそうな事など手に取るようにお見通しだ。
どうせ俺の呪印を解こうと考えているのだろう。
だが、解いたところでまた刻んでやればいいだけのことだ。俺が近くにいるのだから意味がないと言う事がわからんのか? コイツは。
ゼセットの密かな企みを潰してやろうと企んでいると、見覚えのある忌まわしき形の住居が見えて来た。
「なんだあの馬鹿でかいキノコは?」
「趣味が悪いにも限度ってのがあるだろう」
「同感だな」
やはり普通の感性を持つ者からしたら到底理解し難い建物? なのだろう。
今ならクソキノコがなぜ街ではなく森に住んでいるのかもなんとなくわかる。
きっと島の住人達からあの奇妙なキノコハウスを街中に建てるのはやめてくれと苦情があったのだろう。
あんなモノが街に建てられてしまったら、それだけで街の雰囲気もあったものじゃない。
キノコハウスの前までやって来た俺達は、丁寧にドアをノックする事もなくドアノブに手を掛け、ガシャンっと我が物顔で押し入って行く。
キノコハウスに入ってすぐに目に飛び込んできたのは、まるで強盗に荒らされたように物が散乱し散らかった部屋と、キノコ型のテーブルの上で大の字になって寝ているメルト。それにキノコ椅子の上で気持ちよさそうに眠るタコだ。
――ガシャーン――
「いってぇー!」
俺は部屋に入ってすぐに椅子で眠るタコを掴んでゴミのように投げ捨て、ミゼアとゼセットに椅子にかけるように促した。
「汚い所だが掛けてくれ」
「本当に……汚いところだね」
「こんな所に住んでいる奴の気が知れん」
文句を言いながらも二人が椅子に腰を下ろすと、
「何だこりゃやや!」
「ゴホンっゴホンっ……本当になんだいこの椅子」
やはり圧が掛かりキノコ椅子から胞子が舞い上がった。
二人は顔の前で手を扇ぎながら不快感をあらわにしている。
これだけ騒がしいのに起きないクソキノコを叩き起そうとすると、猛スピードでタコが走り込んできて、テーブルの上に飛び乗った。
「てぇめぇぇええ何すんだよ! 毎回オイラをボールみたく扱いやがって! お陰でお前と出会ってからコブだらけだ! 慰謝料払いやがれぇ!」
ごちゃごちゃと騒がしいタコを虫を払うように再び部屋の隅に張り飛ばし、昨日ここへ来た時のまま置かれていたマグカップを手に取り、中身をクソキノコに掛けてやった。
「じゅめたぁぁ!」
「いつまで寝てんだお前。もうとっくに昼は過ぎてるぞ」
寝惚け眼を擦りながら俺の顔を見たクソキノコが、グッと顔に力を入れている。
「なんすだっ! 起こし方っちゅうもんがあんだろう! くんくん、くっせなこれ! 小便かけたんじゃねだろうな!」
小動物みたく自分の身体を嗅いでいるが、そんな臭いものを昨日俺に出していたのかコイツ!
「そんなもんかけるか! 昨日お前が出してくれたのを掛けただけだ」
「キノコエキスか! あれは一日発酵させると強烈に臭くなんだ。どうすんだ! しばらぐ取れねぇーじゃねが!」
いいざまだ。俺に呪いのクソキノコを付けてくれた罰だ。
「それよりも、早く約束通り妖精の都へと続くゲートを開けろよ」
「せっがちな奴だなー」
「急いでおるのだ」
「本当は連れで行きだぐねぇーけど、まぁ約束だがんな」
いやいやながらテーブルの上からメルトがぴょんっと飛び降りると、
「「「くっっさああああ!」」」
あまりの臭さにミゼアは堪らず顔を背け手で鼻を覆い、ゼセットは透かさず立ち上がり腕を鼻に押し当てている。
俺はあまりの臭さに一瞬立ち眩みを覚えるほどだった。
俺達の臭いと言う言葉と態度に、ドアの前まで歩いていたメルトは目を吊り上げて振り返った。
「臭いとが言うな! おめぇの所為だがんな! ホントは俺っちいい匂いなんだがんな」
「本当にお前はロクな事しないな!」
いつの間にか部屋の隅から戻ってきていたタコルが、相変わらずのイヤミを俺に言い放っている。
「あんまり臭いとか気にするなよメルト」
「ありがとうな、やっぱりタコルは俺っちの親友だ」
タコとキノコの奇妙な友情を見せつけようと、メルトとタコルが手と触手を広げ抱き合おうとした時――
「くっっっさあああああ!」
俺達以上に臭がるタコルは抱き合うことをやめ、疾風のごとく速さで俺の足元に身を潜めている。
メルトは両腕を広げて片足を蹴り上げた状態で………真っ白になって固まっていた。
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