113話 ちょっと興奮し過ぎじゃない?
街の東側の二階建ての宿の一室で、柔肌をさらけ出し寝息を立てるミゼアが、無防備な少女のような寝顔を俺に向けている。
普段は大人びたお姉さんのような見た目のミゼアだが、眠るミゼアは思わず抱きしめたくなるほど愛らしいな。
そんなミゼアの頭を胸元に抱き寄せながら、艶のある美しい薄桃色の髪を優しく撫でては、昨夜の事を思い出している。
自由の開放を手にする喜びに青春をエンジョイする者共を追いかけては、呪印を刻み込んでやると、寄り添うように砂浜で抱き合い喜びに涙する者達。
「これじゃクルセと変わんねぇじゃねぇか」
「バカヤロウー、言葉一つで支配される今の方がずっとタチが悪い」
「大魔王に支配されているならメンツは保てるが、人間の奴隷だなんてただの生き恥じゃねぇーか」
「俺達の人生は終わったんだ」
青春を語り合う者共が、顔を見合わせては歓喜の悲鳴を上げている。
「「「「うえぇぇぇぇんんんん」」」」
と、冗談はこの辺にして、俺の奴隷になったと勘違いしているバカ達に、胸を張り高らかに宣言してやる。
「お前達なにか勘違いしておらんか? いいか? お前達のような雑魚は俺の部下にはいらん! というか邪魔だ」
「「「「…………」」」」
俺に雑魚と言われた事が相当ショックだったのか、悲しそうな顔をして固まってしまった。
めんどくさい奴らだな。
俺は頭をポリポリと掻いて話を続ける。
「よってお前達はこの島の住民としてここで暮らすといい。せっかく俺が助けてやったのだから簡単に死ぬ事は許さんぞ! ただし、猫の手を借りたくなった時にはお前達を呼び寄せる事もあるかもしれんから、しっかりと鍛錬を積むことだ! いいな」
「「「「…………」」」」
俺の言葉が信じられないと言った様子で、揃いも揃ってポカーンとマヌケズラをしておるわ。
「俺達は……本当に自由になったのか?」
「信じられない」
「ああ、夢みたいだ」
「だけど……この島で俺達は暮らしてもいいのか?」
「「「「…………」」」」
この島を襲ったという罪悪感から、この島に住む者達に合わす顔がないと思っているのだろうな、当然だ!
でもだからこそ、コイツ等は命を賭けて償わなければいかん。
そのチャンスをコイツ等にくれてやるのだ。
「よく聞け! この島でホルムデヒドは死んだ、その事を知ったクルセは何れこの島に新たな部下を派遣してくる可能性がある。再びこの島が戦火に包まれた時、お前達は真っ先に命を捨てろ! そして、住民達の逃げる時間を稼ぐのだ。それがお前達の唯一できる償いだ」
夜の帳に俺の声が響くと、じっと夜空を見上げる者、瞼を閉じ思いを馳せる者、顔を見合い頷き合う者、それぞれが胸に十字架を背負い心の奥底に誓を刻み、深く頷いた。
「だから……鍛錬が必要なんですね」
「だな。忘れてくれるなよ、俺が言った簡単に死ぬなと言う言葉を」
先程までのマヌケズラとは違い、凛々しい顔つきをした魔族や魔物達の瞳の奥にはしっかりと俺が映り込み、その瞳には確かな炎が宿っていた。
さてと、面倒事も終わった事だし。ミゼアと楽しい時間を過ごすとするかな。
少し離れた所で俺達の遣り取りを聞いていたミゼアとゼセットが、少し微笑んでいるように見えた。
俺は相変わらず正座をするゼセットを通り過ぎ、ミゼアの肩に手を回してはグッと抱き寄せ、街に向かって歩き始めた。
「どこに行くんだ?」
ミゼアはスっと顔を向けて、わかりきった事を聞いてくる。
「ベッドのある宿屋に決まっているだろう。野外は獣みたいであんまり好みではないのだ」
「本気で一緒に寝るつもりかい?」
今更目を丸くして驚いているミゼアに最高の笑顔を見せてやる。
「当然だ! 愛する男女は一つのベッドで夜を明かすものであろう」
ミゼアは俺のキュートな笑顔に照れてしまったのか、耳まで真っ赤に染めて髪を掻き上げては、斜向かいを見つめている。
そんなミゼアの耳元に顔を近づけ優しく囁いた。
「今夜は寝かせんぞ」
「……ああ」
ミゼアは意外とシャイなのか、ポッと頭から煙を上げて喉を鳴らし、肩を竦め小さくなってしまった。
恥じらうミゼアを抱きかかえ、月明かりに照らされた小道を抜けて街に入り、一目散に宿を目指してはドアをくぐり、受付カウンターにドンっと腕を置いては身体を前のめりにし、鼻息混じりに受付のおっさんに頼み込む。
「ふぅー、ふぅー、しやすい部屋一つ!」
面食らって大口開けた緑色の肌のおっさんが、額から汗を流しては微苦笑している。
「し、しやすい部屋? ……ひ、ひと部屋ですね、2階の……お部屋になります」
引きつった顔のおっさんから素早く鍵を奪い取ると、カウンター脇にある階段をドタドタと駆け上がっていく。
「ご、ごゆっくり……」
おっさんの声援を背中に受けて、部屋の前で立ち止まり鍵を開けようとするのだが、興奮しすぎて鍵穴に鍵が上手く差し込めない。
「もぉおおお!」
――バアアアアアアン――
焦れったいのでドアを蹴破ると、隣にいるミゼアはドン引きしているが、ここまで来たらもう気にしない。
蹴り開けた部屋の中にミゼアの腕を掴んでズカズカと入り込み、そのままミゼアの腕を引っ張ってベッドに投げつけてやる。
「っちょ!」
「ハァ……ハァ、ハァハァ」
俺は荒くなる息を抑えきれず、獲物を前にしたオークのようにヨダレを垂らしながら羽織を雑に脱ぎ捨て、シャツのボタンをポンポンっと飛ばしながら脱ぎ捨てた。
ミゼアはベッドに倒れ込みながら後ろに這うように片手を突き出している。
「ちょ、ちょっと落ち着きなよ、アルトロ! と、取り敢えず水でも飲んだらどうだい?」
「ハァハァ、そんなんいらん!」
乱れる呼吸を整えることなく、両腕をギュッ掴み、ミゼアの上に跨りそのまま唇を重ね合わせた。
少し力んでいたミゼアの体からスゥーっと力が抜けていくと、ミゼアは俺の首に手を回し、そのままベッドになだれ込んだのが昨夜の出来事だ。
今も俺の横で愛らしい寝顔を見せてくれているのだが……とんでもない事を思い出してしまった。
ゼセットに正座をさせたまま、一言も喋る事を許さずに、置き去りにしてきてしまった!
…………怒っているだろうな。
…………許してくれるだろうか。
まぁ、ミゼアが起きて、モーニング食べたら迎えに行くか……。
済んでしまった事を悔やんでも仕方がない。
俺も今は人間なんだ、人間開き直るのが一番だ!
なので、愛らしいミゼアの寝顔を見ながら、もう一眠りする事にした。
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