108話 いらっしゃい
ホルムデヒドは自分のテクニックによほど自信がないのか、禁断の触手プレイをするべく、足元から気味の悪い触手を無数に伸ばしてはミゼアの口に突っ込んでいる。
一方ゼセットは、ミゼアを助けようと必死に三叉槍で触手を切り裂いていくが、触手は無限に増殖を繰り返し、何度もゼセットに襲いかかっては行く手を塞いでいる。
「ぐぁぁ……あぁぁ」
勢い良く口内に入り込んでいく触手の所為で、ミゼアは息ができないのか苦しそうに呻き声を上げては、触手に掴まれた体が何度もビクッ、ビクッと上体を反らしている。
なんか妙にエロいミゼアが俺の瞳を釘付けにするのだが、そんな呑気な事を言っている場合ではない。
苦しむミゼアの瞳からは涙が零れ、瞳は虚ろに変わり意識が遠ざかって行くのがわかる。
ホルムデヒドは過食侵食と言っていたか?
確か心を喰らうとも言っておったな。
その言葉が事実だとすると、意識を失いかけているミゼアのあの様子から察するに、かなり危険な状況なのではないか?
仮にミゼアの心が触手によって喰われてしまったら、それはもうミゼアではなくなってしまうという事だ。
そんなのは絶対にダメだ!
俺が自分のものにしたいミゼアは、夕焼け空でキスをせがむ乙女な一面を持つミゼアなのだ。
灰色の瞳で虚無を見つめる人形のようなミゼアではない!
二人のホルムデヒドへの復讐心を尊重して、俺は手を出すつもりはなかったが、そんな事を言っている場合じゃなくなって来たな!
俺は無我夢中で触手を切り続けるゼセットに聞こえるように声を張り上げた。
「ゼセットよ! ミゼアの事は俺に任せて、お前はホルムデヒドに集中するのだ!」
「くそおおお! どけぇぇ!」
ゼセットは余程焦っているのか、俺の言葉に反応することはなく、今にも泣き出しそうな顔でミゼアの元に駆けつけようと、張り裂けそうなほど声を荒げて三叉槍を振り回している。
無理もないか……人となり兄姉を手に入れた今なら俺にもわかる。
自分の半身のような存在が目の前で心を喰われようとしているのだ、それはまるで自分自身の心を抉られる感覚に近いものがあるのだろう。
ゼセットに俺の声は聞こえずとも、ゼセットの視界が捉えるミゼアを救い出せばいいだけのことだ!
俺は再び漆黒の刃を握り締め、蠢く黒い触手の中に飛び込んだ。
飛び込んだ俺に向かって、次々に四方から触手が襲いかかり、確かにミゼアの元に行くのは困難だ。
斬っても斬っても瞬時に生え替り襲い来る触手は、鬱陶しい以外の何物でもない!
余りにも鬱陶しいので焼き払ってやろうかと思ったのだが、勢い良く燃えた触手を伝いミゼアの体内に入り込んだ触手までも燃やしてしまえば、最悪ミゼアを殺しかねない!
黒炎を使うのは危険だな。
となると、やはり単純に斬っていくしかないか!
なに、問題はない。
要は触手が生え替わるよりも早く斬り刻んでやればいいだけのことなのだから!
至極簡単だ!
「俺の加速!」
俺は速度を上げ目にも止まらぬ剣捌きで、無数に蠢く触手を柔らかいスライムでも斬るように次々と斬り落としていく。
俺の圧倒的手数を目にしたゼセットは三叉槍を持つ手が止まり、無数の触手ではなく、無数の腕が見えていたことだろう。
蛇のようにしなやかに振られた剣はあっという間に触手を一掃し、俺は飛び跳ねミゼアに絡みつく触手を切り落とした。
触手によって宙に張り付けにされていたミゼアの体は、重力に逆らうことなくゆっくりと落下して行くが、ミゼアの体が地面に叩きつけられる前に俺の手がミゼアを抱きとめた。
俺は透かさずミゼアの口内に入り込んだ触手の切れ端を引っこ抜き、ミゼアの頬を二度叩き意識を確かめた。
「しっかりするのだミゼア! 俺がわかるか?」
「……あぁ」
ミゼアの瞳は相変わらず輝きを失ってはいるが、微かに意識はあるようだ。
恐らく精神的ダメージを受けたことで、意識が消失しかけているのだろう。
だがこの程度なら問題ない。
そう判断した俺は抱き抱えるミゼアの顔を引き寄せ、口づけを交わした!
もちろんただの口づけではない、慈愛の接吻だ!
しかし、力なくぐったりとするミゼアに俺が口づけをした事に驚いたゼセットが、怒り心頭で詰め寄ってきている!
「貴様こんな時に何を考えている! ミゼアから離れろ!」
ブチギレるゼセットを取り敢えず無視して、横目でホルムデヒドを見てはいやらしく微笑んでやる!
するとホルムデヒドの青白い顔が真っ赤に染まり、憎悪に顔を歪めては更にブサイクな面に拍車がかかっておる。
「ギザまぁぁあああ!」
発狂するホルムデヒドをよそ目に、ゼセットはブチギレていたがミゼアの体が発光すると徐々に瞳に生気が戻りつつあるのを確認し、不満そうな表情ではあるが黙って見守っている。
慈愛の接吻で完全に意識を取り戻したミゼアは、口づけを交わしたまま発狂するホルムデヒドに目を向けると、ニヤッと微笑み俺の首に両手を回しては舌を絡ませてきおった!
まるでホルムデヒドに見せつけるように濃厚な口づけをしてくるミゼアは、実に楽しそうだった。
そんな姉ミゼアの態度を見たゼセットは、額に手を当てやれやれと言った顔で頭を振っている。
ミゼアはそっと俺から顔を離すと、挑発するようにホルムデヒドに向かって微笑んでいる。
「あんたと違ってこの人間はキスが上手だよ、ホルムデヒド! それにあんたと違って生臭くないしね! あんた口臭いんだよ!」
「ミィィゼェェアァァ!」
ミゼアから男のプライドを粉砕するような言葉を浴びせられたホルムデヒドは、血管という血管がはち切れるんじゃないかと思うほど怒り狂っている。
そんなホルムデヒドを見て高笑いをするミゼアは実に嬉しそうだ。
「このアバズレがぁぁ! 貴様のようなビッチは死ねぇぇええ!」
ホルムデヒドの怒号と共に、再び触手がミゼアに向かい襲い来るが、俺は抱きかかえていたミゼアをゼセットに預けるように突き飛ばすと、大きく口を開けて触手を口内へと迎え入れてやった!
俺の口内に触手がズボズボと入り込んでいく様を見て、ミゼアもゼセットも驚きを隠せずにいる。
二人だけではない、離れた所で見守っていた三匹もリザードマンのような大口を開けて驚愕している。
ホルムデヒドは嬉しさと興奮のあまり、口角から泡を飛ばして喜んでいる。
「あんた何考えてんだよ!」
「バカヤロウ! 今助けてやる!」
ミゼアが愛しの俺を心配するのは当然だが、ゼセットも少しは俺を心配してくれているようだな!
だが問題ないと二人に伝えるために、俺は二人に親指をグッと突き立ててやった。
「「はぁ?」」
二人は意味が理解できなかったのか、親指を突き立てた俺を呆然と見つめていた。
では、過食侵食なる技がどのような技なのか、体験してみるとするか!
俺の中へいらっしゃーい!
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