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第二十五話 繋属

 一方、西岡はようやく新山の居場所を突き止め、研究所の前に立っていた。研究所のインターホンを鳴らすと女性の声が返ってくる。




「はい。どちら様でしょうか?」




「新山愛さんですか? 私、西岡美香と申しますが、少しお時間よろしいですか?」




「ええ、どうぞ中へ」




 新山の言葉が終わる前に扉が開いた。西岡は奥へと進む。すると、新山が目の前に現れる。西岡は情報を集める際に新山の写真を見つけていたため、すぐに新山だと認識出来た。


 一つの部屋に通されて、新山がお茶を差し出した。




「どうぞ。ところで、あなたは?」




「あ、すいません。いきなり来てしまって。私は西岡美香と申します。実は私も新山さんと同業者なんです」




 そう言って西岡は名刺を差し出す。新山は名刺を受け取り、まじまじと見る。




「DNA研究ですか……」




「はい。新山さんのことは勝手ながら調べさせていただきました」




 冷静に話しかける西岡に対して未だに何のことだかわからない新山だった。




「実は私、あなたが作った薬を服用したんです」




「え!?」




 川島が訪問してから数日しか経っていなかったため再びDSGを服用したという人が来たのかと驚くばかりだった。




「どういうことですか?」




「私、少し前まで峰島という男の元で研究を行っていたんです。我々もあなたと同様に性別の変化を手術ではなく、薬の服用で行うという目的の研究でした。そんなある日、峰島から妙な薬を渡されました」




 ここまで一気に話して西岡は出してもらったお茶を飲んだ。




「それで?」




「私は試作品と称されたその薬を飲みました。その時、峰島は『新山愛』にもらったと言ったんです」




 新山の頭の中が一本の線で繋がった。しかし、明らかに納得がいかない点があった。




「もらった?」




「やっぱり違うのですね。峰島が盗んだのですよね?」




 西岡はあの薬を服用する前から怪しんでいたため特に不思議に思わなかった。そして、服用した後の症状を話した。新山も少し前に川島の状態を見ているため驚かなかった。




「あれ? 驚かないの?」




 変化を遂げた河井が新山の表情が変わらないためすかさず尋ねた。




「ええ。実はもう一人いるの。DSGを飲んだ人が」




「もう一人?」




 新山の言葉に疑問を抱く。そこへ西岡の手助けの声が脳内に響く。




「ほら、藤城が監視してる人物じゃないの?」




「ああ、あの人のことか。まだ見たことないけどね」




 西岡に対して頭の中で返事をする。そんなこととはつゆ知らず、新山は河井に話す。




「川島健太っていう人が先日、見えたんです。彼もあなたと同じ状況で」




 河井は新山の話を聞きながら一応、納得した。





「そろそろ交代してくれる?」





 そんな河井に西岡が頼んだ。色々聞かなければならないのは西岡だったため河井も交代に応じる。


 河井から西岡へと変化して西岡が話しかける。




「その川島という人も不便でしょうね。自由に行動出来ないでしょうし」




 西岡の言葉に新山はキョトンとする。




「自由に行動出来ない? 彼は自由自在に変身出来るはずですが」




 今度は西岡がキョトンとしてしまう。そして、自分は河井以外に交代させる権限がなく、自由に行動出来ないと告げた。


 さすがに新山もこの事は想定外だった。少し考えた後、新山は呟く。




「個人差が出たんだ」




「元に戻れるんですか?」




 ようやく西岡は戻りたいということを口にした。


 その問いに新山はうつむく。そんな態度を見て西岡も研究者として全てのことを悟った。




「あ! そうだ!」




 気まずい沈黙の間を西岡が破る。すると、新山も顔を上げる。


 西岡は一つのメモリースティックを差し出す。




「この中に薬のデータが入っています。残念ながら未完ですが……」




「え!?」




 一つも手掛かりがなかったため、新山も含めた三人にとって大きな収穫だった。


 西岡は薬そのものからデータを収集したわけではなく、自身の独自のデータであることを先に話した。




「充分です。あの、よかったら手を貸してもらえますか?」




 新山は同じものの研究をしている西岡の手助けがあればより早く解毒剤が作れると思ったのだ。




「もちろんです!」




 新山の懇願に西岡は即答した。


 こうして、二人での研究が始まった。峰島が残りの薬を手にしているのは分かっていたが、奴から取り戻すための手段が見つからない以上、自分たちで解決策を見つけるしかなかった。


 その上、二人の研究者のプライドとして少しでも自分たちの研究で前に進みたかったのだ。


 峰島のように人のデータから自分の名声を手に入れるようなことは決してしたくなかった。


 この二人は熱心な研究者なのだから。






 峰島の元には藤城が相変わらず出入りしていた。この日も藤城がやってきていた。




「峰島さん。こんにちは」




 先日渡された木村の映像を見ていた峰島が藤城に目をやる。




「おお、藤城くん。どうかね、その後は?」




 いつも聞くことは同じだ。




「川島が新山と接触しました。とうとう繋がってしまいました」




 いつものように冷静に藤城は経過を報告する。




「何!?」




 さすがに驚きを隠せず藤城とは逆に声が裏返った。


 その後、少し沈黙を挟む。木村の映像のディスクの回転音だけが部屋に響く。




「とうとう繋がったか……」




 峰島が小さく呟く。




「ええ。どうします?」




 藤城の問いに少し考えて峰島は答える。




「変更だ。これから新山を監視してくれ」




「わかりました」




 峰島は繋がってしまった以上、新山がどこまで情報を持っているのかを知りたかった。


 今後、彼女に動かれるのが最も厄介だったのだ。藤城は早速、川島から新山に監視の目を変えた。






 この日も西岡と新山は研究に明け暮れていた。そんな中、川島が研究所を訪れた。




「新山さん、こんにちは」




 新山が出てきて奥に入るよう指示される。奥に入るといつもの座る所定の位置に腰掛ける。


 そこに山のように書類を抱えた西岡が現れる。




「あれ? 新山さん、新しく助手さん雇ったんですか?」




 川島は見かけない西岡を見ながら新山に尋ねた。


 新山は西岡にも同席するよう促し、三人で話を始める。




「こちらは西岡美香さん。そして、この方が川島健太さんです」




 新山が間に入って紹介した。




「あ、この方が」




 西岡は新山に話を聞いていた上、藤城が調べていたのを知っていたため話が繋がる。


 対して川島は全く話が掴めていない。


 なぜ目の前の女性が自分のことを知っているのか訳が分からず首を傾げる。




「あなたと同じく西岡さんもDSGを飲んだ人なんです」




「え!? あなたも?」




 新山の言葉に川島は驚く。西岡は冷静に頷いた。


 そして、三人はこれまでの経緯を語り尽くした。これで三人はようやく解毒剤作りをするという目的により一つにまとまった。




 あれ以来、三週間ほど経ったが、まだ核としたデータには行き着かなかった。この日、西岡は新山と共に薬品の買い出しに向かっていた。薬局からの帰り道、二人で行き詰まっている原因などを話していた。


 その時、ふいに西岡の頭に小さな囁きのような声がした。




「あ、あの……」




 あどけない声、おどおどした口調は本宮だった。西岡はすかさず脳内で本宮に話しかける。




「どうしたの?」




「つけられてます……」




 小さな声だが確かにそういった。そして新山にそのように話し、新山と別れ裏路地に入って河井に変身した。


 河井は来た道を戻り、本宮に聞く。




「サキちゃん、どこ?」




「多分……そこの赤い車の横に立ってる人……です」




 相変わらず少し怯えたような口調だ。長い間、一緒にいるがこれは変わらない。


 そして、河井は車の横に立っている男に近づく。今度は西岡が声を上げる。




「藤城! どうしてここに……」




 近づいた河井は藤城に声を掛けた。




「何、つけてるの? ちょっと来てよ」




 河井は高校生ではあるが、少し不良っぽいところを高校生活で得ていた。そのため、藤城は多少たじろぎながらもついて来た。




「なんですか?」




「こっちのセリフだよ。どうしてつけてきてたの?」




 藤城の対して苛立ち始めていた河井は少し口調がキツくなる。




「別に。僕は何も」




「いいから、来いよ」




 藤城の腕を掴んで河井は新山の研究所へと向かった。


 研究所には川島も来ていた。新山は先に帰ってきていた。




「あ! お前いつかの!」




 藤城を見た川島が即座に反応した。藤城はしまったと悔やむ表情をする。




「健太さん、見たことあるんだ」




 そう言って藤城を座らせて西岡の体へと変化する。


 藤城は目の前で西岡に代わったため驚きを隠せなかった。


 そして、見覚えのある女性が現れたのだった。




「なにしてるの? 藤城」




 西岡の問いかけに藤城は黙り込んでしまう。そんな状況を見て、川島が声をかける。




「こいつ、何者なんだ?」




「峰島の所に来てた怪しい奴なの。確か川島くんのことを監視してたはずだから面識あるのかな?」




 西岡が知っている情報で川島に説明した。川島は監視されていたと聞いて、なぜ何度も藤城に出会ったのかようやく理解した。




「それで藤城。あなた、一体何者? 全部吐いてもらうわよ」




 西岡の気迫は今までに類を見なかった。黙り込んでいた藤城もようやく全てを諦めた表情を見せて話し始めた。




「僕も実は研究員だったんです。研究内容はあなた方と同じくDNA関連でした」




 研究員であったという言葉に新山と西岡は絶句した。


 てっきり峰島が雇ったスパイ専門の人物だと思っていたが、同業者だったのだ。


 そんな二人をよそに藤城は話を続ける。




「大手研究所で職務を行っていた僕はある日、DNA構造を組み替えればあらゆることが出来るのではないかと思い立ちました。しかし、会社の研究にはそぐわないと断られました。僕はそれでも秘密裏に研究を進めました」




 DNAを組み替えて性別を変えようとしていたのは新山も西岡も同じ。二人は黙って藤城の話に耳を傾けた。




「それで? それと俺や今回の尾行にどういう関係があるんだよ?」




 長々と説明する藤城に川島が核となることを早く言えとばかりに急かした。




「結局、会社に研究していたことがバレてしまい僕は解雇されました。そんな時、峰島さんが研究の手助けをしてやろうと声をかけられました。初めに、ここに薬を置き忘れてきてしまったから持ってくるように言われました」




「DSG!」




 ここまで聞いて新山の薬が盗まれた経緯に気付く。




「ここに来ると扉は閉まっていたのですが、峰島さんは裏の窓が開いていると。僕は仕方なくそこから入って、カプセルケースを持って峰島さんの元へ」




 こうして薬を盗み出し、峰島の元へ身を委ねたのだ。


 しかし、一つ疑問点が生じた。それをすかさず西岡が問う。




「どうして峰島はあなたのことを?」




 藤城は少し考える表情をしながら答える。




「恐らく、会社と何らかの接点があったのだと思います」




「なるほどね。続けて」




 なんとなく納得した西岡は藤城に続けるよう促した。




「その後、要求されたのは川島さんの尾行でした。例の薬の実験台だからと。状況を逐一報告していました」




 峰島にうまく言いくるめられた藤城の状況が手に取るように把握出来た。




「それでなぜ、今日私と美香ちゃんの後を?」




 新山が川島のいない場所に藤城が居たことに疑問を抱いた。


 そんな問いに藤城は冷静に答える。




「それは先日、川島さんから新山さんへターゲットを変えろと命じられたからです」




 これでようやくすべてのことが一本に繋がった。

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