第二十六話 衝撃
峰島は藤城からの新たな情報を待っていた。そんな時、研究室の扉が開く。
「どうも」
「おお、藤城くん。待っていたよ。どうかね? その後は」
中へ入ってきた藤城に対し、峰島はいつもと同じ質問をしてくる。
「新山の元には西岡が行き来してます。彼女もまた新山まで行き着いていたんです」
藤城が峰島に三人が完全に接触したことを話すと、峰島はまた考え込む。
「結局、こうなったか……」
一言呟いた後、峰島は頭を下げた。そんな峰島を見て藤城が声をかける。
「ところで、峰島さん。例の薬はまだ手元に残っているのですか?」
ふいにそう聞かれて峰島は抱えていた頭を上げる。
「ああ。まだここにあるのはあるが」
藤城が少しニヤリとしたように思えた。そして、峰島に対して提案する。
「僕が飲んでみましょうか?」
「え?」
藤城の突然の提案に峰島も思わず聞き返す。
「こうなった以上、研究はきっと前に進みません。西岡も帰ってくるはずがありません。僕が飲んで研究材料になればいいんです。僕は峰島さんの元を離れませんから」
藤城は峰島に自分が実験台になり、この研究を邁進させるよう提案したのだ。これには峰島も気が抜けた。
最も手っ取り早い方法であり、尚且つ既に三人が固まってしまった今、頼れるのは藤城だけだった。
「君がそう言うのならば……」
「構いません。僕も研究が進めば本望です。薬はどちらへ?」
そう言って藤城は峰島の方へ近づく。峰島は心の底でようやく集中してデータを収集出来ると笑っていた。
そして、デスクの引き出しの鍵を開けてカプセルケースを取り出すと藤城に渡した。
「残り二錠その中に入っている。一錠は最終研究のために使用するつもりだ」
そう言って峰島は喜びの余り、自ら藤城のためにグラスに水を注ぎ始める。
「どうもありがとうございます。これで全て終了ですよ」
急に藤城が叫んだ。峰島は何が起こったのか分からず、藤城の方を見る。藤城の表情は笑いに満ちていた。
そして、研究室の扉が開く。
「お疲れ様。藤城」
そう言ったのは西岡だった。扉の向こうには新山、西岡そして川島が立っていた。
「なに! 西岡、お前! それに……」
とっさの出来事に峰島は言葉に詰まる。
そんな峰島をよそに藤城は新山にカプセルケースを渡した。
「お前か! 一番の元凶は!」
川島は峰島を見てキツく言い放った。
未だに何が起こったのか理解出来ない峰島に西岡が声を大にして言う。
「私たちグルだったのよ。藤城も既にこっちに回っていたわ!」
実は先日、藤城の境遇を聞き終えた後、三人から藤城に全ての真実を伝えていた。
藤城も新山に監視の目が向いた時から怪しいと思っていたため、すぐに納得出来た。
そして、峰島を裏切る代わりに新山の研究に今後、携わることを要求した。
もちろん取引は成立した。
「残念ながらこれで全て終わりです、峰島。もっと人の為になる研究をすれば良かったのに」
新山が同業者として悔しそうに言った。
「私はこの薬があれば、名実ともに学会の第一人者になれたんだ!」
ようやく口にした峰島の言葉は自分の利益のための言葉だった。
業を煮やした西岡がすかさず峰島を一喝する。
「あなた科学者として最低ね! 今のあなたは科学者なんかじゃない!」
こんな男の為に忠実に仕えてきた自分にも腹が立っていた。峰島は力が抜けてその場に座り込んだ。
「新山さん、これデータです」
藤城はこの間に峰島のパソコンからDSGのデータを全て抜き取り、新山に差し出した。パソコン内のデータも全てキレイに消滅させた。
「もう一つだけ聞かせろよ。『秘妙堂』とはどういう関係だ?」
川島はあの店で薬を手に入れた。峰島との関係を知りたかった。
「あの店は怪しいものが多かったから、ここならと思っただけだ。特にこれといった関係はない」
峰島は気力無しにそう答えた。
「そうか。さて、これで全て終わったな。どうせこの男も終わりさ」
川島がこう言って四人はその場を後にする。
峰島は立ち上がることなく、ただ呆然として一点を見つめていた。
四人は新山の研究所に戻り、川島を除く三人の研究者達が解毒剤の作成に取りかかる。
いくら何でも一日で作り上げることは不可能だったため、この日は川島も帰ることにした。
三人は寝ずにひたすら作成に励んだ。




