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第十七話 実感

 次の日からは、またいつもと変わらない毎日に戻った。


 川島はバイトにも行き、大学へも行く。木村の時間になれば、街に出て買い物をする。深沢は相変わらず夜から行動し始めて、深夜徘徊する。


 深沢の行動の意味がまだ分からなかったが、こんな風に毎日を過ごしていた。


 二週間後、雑誌『BW』の発売日を迎えた。『BW』は書店、コンビニなどいたるところに置かれていた。


 川島が買うのは少し抵抗があったので、木村へと交代し、一冊購入した。


 家に帰ると、携帯に電話がかかってきた。もちろん高木からだった。




「真衣ちゃん、『BW』取りに事務所へいらっしゃい!」




 高木の声はどこか興奮していた。




「あの、高木さん。私、自分で買っちゃいました」




 木村は笑いながら言った。




「そうなの? 取りに来ればあげたのに。中は見た?」




 高木は少し拍子抜けしたようにクスッと笑った。




「いえ、今帰ってきたので。今から見ます」




 木村は今すぐにでも『BW』を開けて見たかった。




「わかったわ。じゃあ、見たらまた電話ちょうだい」




 高木はそう言うと電話を切った。そして、木村はようやく『BW』を開く。パラパラとページをめくった。


 すると、ほぼセンターのページに木村の記事を見つけた。




『木村真衣 鮮烈のモデルデビュー! スーパーノヴァプロダクションきっての新人!』




 大きな見出しが目に飛び込んでくる。




「すごい! すごいじゃないか! 真衣!」




 かなり興奮した川島の声が響く。その声に木村は頷く。


 そして、ページを隅々までチェックしていく。ページ数は六ページにわたっていた。


 木村のインタビュー記事を含めれば、計八ページだった。


 ページ毎の見出しもすごく目を引くものばかりだった。


 木村はしばらくの間、呆然としていた。すると、二回目の高木からの電話が鳴った。




「はい」




 木村は放心状態のまま電話に出た。




「あ、真衣ちゃん? 大丈夫?」




 高木もさすがに木村の声を聞いて、その状態が気になった。




「はい」




 相変わらず放心状態の木村は気の入らない声で答える。




「本当に大丈夫? 今から事務所来れる? 迎えに行こうか?」




 高木は木村のことをひどく心配しながら聞く。川島が木村に向かって声をあげる。




「真衣! 事務所来いって。迎えに来てもらえ」




 木村はその言葉を聞いて、事務所に行かなければならないとようやく把握した。




「はい。迎えに来ていただけますか?」




 木村は内容の把握はしていたが、相変わらず心ここに在らずといった状態だった。




「わかったわ。これから行くから待っててね」




 高木はそんな状態の木村を気にしながら、電話を切った。


 木村は電話を切った後も心が抜けたようにボーッとしていた。


 川島も気になって話しかけたりしたが、一切応じなかった。


 結局、高木の迎えが来るまで一つも言葉を発さなかった。




「真衣ちゃん、大丈夫?」




 高木は木村の顔を見るなりそう尋ねた。しかし、木村は呆然としたまま頷くだけだった。




「とりあえず、車に乗って。事務所まで行くから」




 木村は車に乗り込み、高木の運転で事務所へ向かった。


 終始、木村は黙り込んだまま、ただ一点を見つめていた。


 高木もそんな木村を横目で見ていたが、話しかけたりはしなかった。


 事務所に着くと、木村をソファーに座らせた。高木はお茶を差し出して、木村を落ち着かせる。




「あまりにも急なことで、実感が一気にわいたのね。今はとりあえず落ち着きましょう」




 高木はひとまず落ち着くように語りかけた。木村も徐々に落ち着きを取り戻し始める。




「高木さん」




 ようやく木村が言葉を発した。それを聞いて隣にいた高木が頷きながら木村の顔を覗き込む。




「あたし、雑誌がお店に並んで、写真があんなに載って何が何だかわからなくなって……」




 木村はまだ力の入らない声で言った。高木も頷きながら返事をする。




「わかってるわよ。急に何もかもが襲ってきたのよね。でもね、あなた綺麗に写ってたでしょ?」




 高木の言葉を聞きながら木村は頷く。




「あなたの姿を見て、たくさんの女性が憧れるの。こんなファッションをしてみたいとか、真衣ちゃんみたいに綺麗になりたいとか。これからあなたは女性の前に立つの。分かるわね?」




 高木の言葉に諭されながら、木村はただただ頷いた。




「つまり、あなたはこれから女性たちの注目の的になるの。それなりに覚悟しないといけないことは分かってたでしょ?」




 木村はうつむいて頷く。




「頑張るしかないのよ。私も全力でサポートするから。あなたは一人ではないわ」




 高木の力強い言葉に木村は大粒の涙をこぼしていた。一気に全てを吐き出したようだった。


 高木の説得と流した涙もあって、木村は落ち着きを取り戻した。泣き止んだ木村を見て高木も安心した。




「じゃあ、もう家に帰っても大丈夫ね」




 高木は木村の肩を軽く叩くと立ち上がった。高木の言葉に木村は少し驚いた。




「え? 高木さんあたしに何か用があったのでは?」




 わざわざ迎えに来て、事務所まで連れてきたのだから何かあると思う方が妥当だった。




「いいえ。今日は真衣ちゃんに『BW』を渡そうと思って電話しただけなの。特にそれ以外は何もなかったんだけど……」




 高木はこの間のように言葉の最後を濁した。その態度に木村は首を傾げる。




「真衣ちゃんの様子がこんな感じだったからわざわざ事務所まで連れてきたのよ。本当は私が『BW』を届けるだけでもよかったんだから」




 高木は木村の呆然としていた時の顔マネをしながら笑い混じりで言った。




「ちょっと! 高木さん!」




 木村もそんな高木の調子についていけるほど回復していた。




「家まで送ろうか?」




 そんな木村を見ながら高木は言った。木村は首を横に振り、一人で帰ると告げた。


 高木は少し心配そうな表情を見せたが、木村の笑顔に頷いた。




「ここにある『BW』好きなだけ持っていっていいから。何部いる?」




 高木はテーブルの上の『BW』を指差しながら言う。気が付かなかったがテーブルの上には十冊程重なった『BW』が六つ並んでいた。




「これ、もしかして全部今週の分ですか?」




 テーブルの上の『BW』の束を見て唖然とする。高木はそれがごく当たり前であるかのように頷くと、ポンッと木村の手の上に一冊置いた。


 そして、次々と同様に木村の手の上に重ねていく。自分の手に重なっていく雑誌を見ながら、我に返った。




「ちょっ、ちょっと、こんなにいらないですよ。二部ぐらいでいいです」




 木村は笑いながら、自分の載っている雑誌を二冊受け取った。そして、高木に礼を言って、事務所を後にした。

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