第十四話 奇妙
「お疲れさん」
川島は木村に一言言うと、夕食の用意を始めた。ここからの作業はいつも川島の仕事だ。
自分の体に戻ると、初めはこの状況が不思議に思えて仕方なかったのだが、今では「こうなって結構経つな」とどこか楽観視出来るようになっていた。
そんなことを考えつつ、夕食を済ませテレビを観たりして、いつもと変わらない時間を過ごした。
火曜は川島が一日費やし、水曜は夕方まで授業を受けた。
「真也、夕方からお前の時間だぞ?」
川島が声をかけるが返事はなかった。
「おい、真也! どうしたんだよ? 今日はお前が使う曜日だろ?」
またしても深沢の応答はなかった。川島はとうとう自分の体に戻ったかのように思えた。
「戻ったんだ。一錠しか飲んでなかったから効力が切れたんだ!」
そう叫んだ瞬間、頭の中にある声が響きわたる。
「なに叫んでるの? 戻ってなんかいないよ」
木村の呆れたような声だった。少しはしゃいでいた川島の動きは一瞬にして止まった。
「あれ? 真衣いたのか?」
一日、特に声がしなかったためそんな錯覚に陥っていた。いかにも冷静なふりをして川島は言った。
「当たり前。いるに決まってんじゃん」
木村は嘲笑しながら言った。そんな木村の対応に川島は反応しなかった深沢に腹が立った。
「真也! いるんだろ! 返事ぐらいしろよ!」
怒鳴る川島の言葉にようやく深沢が反応する。
「悪い。今日は夜から交代してくれればいいから。それまで健太が使ってくれ」
ようやく反応したかと思うと、こんなことを言った。川島には意味が分からなかった。
しかし、深沢の様子がおかしいと思うより腹立たしさの方が強かった。
「わかったよ。ったく。返事ぐらいしろよ」
川島はもういいと言わんばかりに言い放った。こうして、川島は夜まで自分の時間を使うことにした。
川島はこれといった特別なことはせず、いつもと同様にテレビを観たり、友達とメールしたり、小説を読んだりしてゆったりした時間を過ごした。
時刻は夜七時を回った頃をさしていた。
「健太、そろそろ変わってくれるか?」
不意に深沢の声がして、川島は代わるよう懇願された。この時にはもう川島の腹の虫もおさまっていた。
「分かった」
深沢に体をすんなりと明け渡す。深沢は体が変わると、自分の服に着替えて外に出かけて行く。
深沢は外へ出ると、いつものようにキャッチで溢れかえっている街中へと入っていく。
川島と木村は未だにこの行動が意味するものがわからなかった。
しかし、深沢がここ数日同じ行動を繰り返していたので余り気にも留めていなかった。
深沢は思った通り街をぶらついて、夜遅くに家に帰ってきた。何を買うわけでもなく、街を徘徊するだけだった。
二人には皆目見当もつかなかったが、深沢から何か話してくれるだろうと思っていた。
「健太、ありがとう。交代してくれ」
家に着いてから深沢は一言だけ言って川島に交代した。
結局、この日も深沢からは何の説明もなかった。
川島は交代してすぐに眠りについた。




