第十三話 始動
次の日、この日は深沢の一日だった。深沢は夜まで家でゆっくりとして動き出したのは夜になってからだった。
先日と同様に街に出て、とくに何かを買うわけでもなかった。
ただただ、街を歩いているだけだった。
そして、夜も更けた頃に帰ってきた。当然、木村や川島がこの行動を不思議に思わないわけがなかった。
「真也、いったいこの間から何してるの?」
気になって仕方がなかった木村が聞いた。
「別に。ちょっとした散歩だよ」
深沢は大したことではないという雰囲気で言い放った。こんな風にして深沢は自分の時間を使っていた。
この後、一週間は何事も起きず三人それぞれの行動権を使っていた。
高木からの連絡はまだなかった。木村はまだかまだかと連絡を待っていた。
この日も川島はいつも通り昼まで授業を受けて家に帰ると、木村に交代した。木村は交代するといつものように化粧をして、お気に入りの洋服を決める。
その時、携帯電話が鳴った。液晶画面には高木と表示されている。
「真衣」
川島の心配そうな声がこだまする。木村は強く頷いて、電話を手に取る。そして通話キーを押した。
「はい。もしもし」
木村が電話に出ると高木からすぐ反応が返ってくる。
「あ! 真衣ちゃん? とうとう仕事が決まったわ。記念すべき最初の仕事は雑誌のモデルよ」
高木の声は高ぶっていた。
「雑誌のモデルですか!? ありがとうございます」
モデルの仕事とはいえ、多くの種類がある。雑誌モデル、広告モデル、ファッションショーのモデルなど様々だ。木村も初仕事が決まり、興奮していた。
「それも、その雑誌は……聞いて驚くわよ?」
高木の言葉に木村も息を飲む。
「どこの雑誌さんですか?」
一呼吸おいて高木から答えが返ってくる。
「『BW』よ! 真衣ちゃん、これで最高のスタート切れるわよ!」
高木は力一杯の声で話した。
『BW』とは、女性ファッション雑誌の中でも極めて有名なものの一つだ。美人を意味する英語訳「Beautiful-Woman」の頭文字を取ったタイトルだ。
女性なら誰しも憧れを抱き、雑誌のモデルのように服を着こなそうとする。
そんな雑誌のモデルに木村は選ばれたのだ。
「細かい話をしたいから、今から会えるかしら?」
「もちろんです!」
高木からの問いかけに木村は即答した。
いつもの喫茶店が待ち合わせ場所かと思ったが、もうスーパーノヴァプロダクションの所属モデルとして決まったのだから事務所に来るようにと言われた。
事務所は都心のビル街にあった。高木に言われたビルを見つけると、木村は各階の表示を見た。
スーパーノヴァプロダクションの名前は四階と五階と記されている。
高木の話だと事務所は四階だということだった。木村はエレベーターに乗り、四階へと向かった。
エレベーターの扉が開くと、そこは普通の会社と同じように受付が目に入る。木村は受付で尋ねる。
「高木さんはいらっしゃいますか?」
受付嬢はパソコンで調べて返答してくる。
「高木はこの通路を真っ直ぐ進んでいただいて、突き当たりの部屋にいます」
木村は言われた道を進み、突き当たりの部屋をノックした。
「はい。どうぞ」
中から聞き覚えのある高木の声が聞こえて、木村は緊張しながらドアを開け、部屋へと入った。
「待ってたわよ。真衣ちゃん。とりあえずそこに座って」
高木は木村にソファー型の椅子に腰掛けるように言った。
部屋の中はまさしく事務所という感じのオフィスルームだった。
机の上には『BW』など有名雑誌が置かれている。高木はお茶を出して、木村の向かい側に座った。
「おめでとう。私が仕事を取ってきたから感謝はしてほしいけどね」
高木はそう言って、嬉しい笑みをこぼす。
「本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
木村は照れ笑いをしながら、高木に感謝の意を示した。すると、高木は改まって真剣な表情になった。
「喜んでいられるのは今だけよ。これから忙しくなるからね」
そう言うと、高木はスケジュール帳を取り出してこれからのスケジュールを取り決め始めようとする。
そんな行動を見て木村が反応する。
「あの……。あたし、大学があるので仕事できる日とできない日があります。これは先日、お話ししたと思いますが……」
木村は申し訳なさそうに言った。これは川島や深沢に対する気配りでもあった。
それと高木にもう一度確認しておきたかったのだ。
「もちろん、わかってるわよ。この間、言ってた曜日しか仕事は入れないようにするから」
高木は木村の要望を無視してはいなかった。
大学生の本業は、勉強だと考えている高木にとってモデル業を二の次だと考える木村の意思に反対するつもりはなかった。
木村もこの一言を聞いて、ホッとしていた。そうして、木村も自分のスケジュール帳を取り出す。
「まず、写真撮影は来週の土曜。それまでにモデル業に対してのインタビューが月曜の夕方から入っているわ」
高木は現在決定している事項を木村に告げた。
このスケジュールを聞いたとき、高木の思いやりが見て取れた。
月曜の昼からと土曜が木村の使える時間だったためだ。
高木はインタビューを受ける土曜は事務所に来て、一緒にスタジオへ向かうと木村に告げた。
そして、木村は事務所を後にした。帰り道の木村はルンルン気分で川島や深沢から見ても機嫌がいいのが明白だった。
「真衣、これから売れっ子だな」
川島は自分の体でありながら、もう本当に他人のことのようだった。
「まだわからないよ。そんなこと」
木村はこう言いつつも、声の調子が良い気分であることを表していた。
家に着くと、木村は重い上着を脱いだ。
そのままベッドに倒れ込む。そこで川島へと体が変わる。




